恋人間の不同意・性的強要|交際相手でも成立する不同意性交等罪
この記事は、2026年10月時点の配偶者暴力防止法(2024年4月施行の改正を反映)、刑法(2025年6月施行の拘禁刑への一本化を反映)、困難な問題を抱える女性への支援に関する法律にもとづいて解説しています。相談窓口の名称や受付時間は変わることがあるため、利用の前に各窓口の案内をご確認ください。
同棲している恋人から暴力を受けている方からは、「結婚していないので、DVの窓口では相手にしてもらえないのではないか」「部屋を出たいが、荷物も契約もそのままで、どこから手をつければよいのか分からない」という声をよく伺います。家を出たあとに「出て行ったのはそちらだから、家賃も荷物の処分も知らない」と相手から言われ、出た後の整理で困っている方もいらっしゃいます。
交際相手からの暴力については、警察や自治体の窓口、民間の支援団体などがそれぞれ情報を発信しており、その内容自体は誤りではありません。ただ、同棲という生活の形には、結婚しているご夫婦とも、別々に暮らす恋人とも違う事情があり、どの窓口に何を頼めるのかが見えにくいところがあります。
この記事では、同棲中の恋人の暴力から離れたいときに、どこに、どの順番で相談するとよいかを整理します。デートDV全般や慰謝料の算定、同棲解消後の費用の分け方の詳細は、それぞれの記事に委ねます。
同棲中の恋人からの暴力は、配偶者暴力防止法の対象になる
結婚していないことを理由に、配偶者暴力防止法(DV防止法)の窓口に相談しにくいと感じる方は少なくありません。しかし、同棲相手からの暴力は、この法律が想定している場面に含まれています。
「生活の本拠を共にする交際相手」という考え方
DV防止法は、法律上の配偶者や事実婚の相手だけでなく、「生活の本拠を共にする交際をする関係にある相手」からの暴力にも、保護命令などの規定を準用しています(配偶者暴力防止法28条の2)。生活の本拠を共にするとは、住民票の住所が同じかどうかだけでなく、実際に同じ住まいで生活を営んでいるかによって判断されます。
また、同棲を解消した後に、元の同棲相手から引き続き暴力を受ける場合も対象に含まれます。家を出たあとで連絡や押しかけが続くときにも、同じ枠組みで相談できます。性別も問われないため、男性が被害を受けている場合も対象です。
身体への暴力だけでなく、脅迫も保護命令の対象になった
2024年4月施行の改正で、保護命令を申し立てられる場面が広がりました。殴る、蹴るといった身体に対する暴力に加え、生命、身体、自由、名誉、財産に対する脅迫を受け、心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合にも、保護命令の対象となっています。
「殴られてはいないが、『家族に何をするか分からない』と言われ続けている」といった場面も、相談の対象になりうるということです。言葉による支配やモラハラの記録の残し方については、交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応で解説しています。同棲の有無で保護命令の使い方がどう変わるかは、交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応もあわせてご覧ください。
相談先ごとの役割を知っておく
相談先は一つに絞る必要はありません。それぞれの窓口で頼めることが違うため、状況に応じて組み合わせて使うのが現実的です。主な窓口の役割は次のとおりです。
| 相談先 | 頼めること |
|---|---|
| 110番 | いま危険が差し迫っているときの出動、その場での安全確保 |
| 警察の相談窓口(#9110・最寄りの警察署) | 被害の相談、相手への指導・警告、被害届の受理、保護命令の申立てに必要な相談の記録 |
| 配偶者暴力相談支援センター(#8008) | 相談、避難先や一時保護の案内、保護命令の手続の説明、生活再建の支援情報 |
| DV相談+(内閣府) | 電話・メール・チャットでの24時間の相談受付 |
| 弁護士 | 相手との連絡窓口の引受け、保護命令の申立ての代理、部屋の契約・荷物・金銭の整理、損害賠償の請求 |
危険が差し迫っているときは、まず110番
暴力を受けている最中や、相手が物を投げる、刃物を持ち出すといった場面では、相談の順番を考える前に110番に通報してください。その場から離れられるなら、近くのコンビニや交番など人のいる場所に移ることも選択肢です。
警察に通報した記録は、後に保護命令を申し立てる場面や、相手に損害賠償を求める場面で意味を持つことがあります。一方で、通報したからといって必ず相手が逮捕されるわけではなく、その後の扱いは被害の程度や本人の意向も踏まえて判断されます。
落ち着いて話せるときは、警察の相談窓口や支援センターへ
差し迫った危険がないときは、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署、配偶者暴力相談支援センターに相談できます。DV相談ナビ(#8008)にかけると、発信地に近い支援センターにつながります。
保護命令を申し立てるには、原則として、事前に警察か配偶者暴力相談支援センターに相談していることが必要です。相談しただけで何かが自動的に始まるわけではないため、「まだ大ごとにしたくない」という段階でも、相談の記録を残しておく意味はあります。支援センターでは、住民票の扱いや一時的な避難先についての案内も受けられます。一時保護の受入れ先は男女で異なることがあり、男性の場合の扱いは自治体によって違うため、窓口で確かめてください。
弁護士に頼めるのは、相手との間に入ることと、その後の整理
警察や支援センターは安全の確保に強みがありますが、同棲を解消する際の部屋の契約、置いてきた荷物、立て替えたお金、治療費といった民事上の整理には踏み込みにくい面があります。弁護士は、本人の代理人として相手との連絡窓口を引き受け、こうした問題を一つずつ整理していくことができます。
交際の解消に伴う連絡や話し合いを本人に代わって進める流れについては、【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるで解説しています。警察と弁護士の使い分けを一覧で確かめたい方は、警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表もご覧ください。
家を出る前に整えておきたいこと
同棲中の部屋から離れるときは、相手に気づかれないよう短い時間で動くことが多くなります。安全を最優先にしたうえで、可能な範囲で次の準備をしておくと、家を出た後の手続が進めやすくなります。
暴力の記録を、相手の目に触れない場所に残す
けがをしたときは、早めに医療機関を受診し、交際相手から受けた暴力によるものであることを伝えたうえで診断書をもらっておきます。あざや傷の写真、壊された物の写真、暴言や脅しの内容が残ったメッセージ、日時と出来事を書き留めたメモも、後の手続で役に立ちます。
ただ、同棲中はスマートフォンや共有のパソコンを相手に見られるおそれがあります。記録は信頼できる家族や友人に送っておく、相手が知らないクラウドに保存するなど、相手の目に触れない場所に分けて保管しておくことが大切です。暴行罪(刑法208条)や傷害罪(同法204条)として扱われる場面の目安と、慰謝料の考え方については、恋人から暴力を受けた|暴行罪・傷害罪と慰謝料請求で解説しています。
持ち出すものを決めておく
急いで家を出る場面では、後から取りに戻ることが難しくなる場合があります。次のようなものは、可能であれば事前にまとめておくと安心です。
- 運転免許証、マイナンバーカード、健康保険の資格を確認できるもの、パスポートなどの身分証。
- 自分名義の預金通帳、キャッシュカード、クレジットカード、印鑑。
- スマートフォンと充電器、普段飲んでいる薬やお薬手帳。
- 賃貸借契約書の写しや、家賃・光熱費の支払いが分かる資料。
- 診断書や写真など、暴力の記録を保存したもの。
全部をそろえることにこだわる必要はありません。身の安全が最優先であり、置いてきた物は後から代理人を通じて引き取りを求める方法もあります。
行き先を知られないための手続
家を出た後に住民票を移すと、相手が住民票の写しを取ることで新しい住所を知られるおそれがあります。市区町村に申し出て、警察や支援センターなどの意見を踏まえて認められると、加害者からの住民票の写しの交付請求などを制限する支援措置を受けられます。転居の前後で申し出る順番を誤ると、手続の合間に住所が知られることもあるため、窓口と相談しながら進めてください。
スマートフォンの位置情報の共有設定、共有しているアカウントやパスワード、家族割の契約などから居場所が分かってしまうこともあります。手続の順序については、【ストーカートラブル】引っ越した先を知られないための手続の順序で詳しく解説しています。避難の進め方全体は、交際相手から避難したい|安全な別居・避難と保護の手続きもご覧ください。
家を出た後に起きやすい問題と、その整理
避難によって当面の安全を確保できても、同棲していた部屋や荷物、相手からの連絡といった問題が残ることがあります。家を出た後に相談の多い場面を見ていきます。
相手からの連絡や押しかけが続くとき
家を出た後も、電話やメッセージが続く、職場や実家の近くで待たれるといったことが起きる場合があります。こうした場面では、保護命令の申立てを検討できます。保護命令が出ると、相手は原則1年間、被害者へのつきまといや住居・勤務先付近のはいかいを禁止され、あわせて電話やメッセージの連続送信、位置情報の無断取得なども禁止の対象にできます(配偶者暴力防止法10条)。
保護命令に違反した場合は、2年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金という刑事罰の対象になります。申立ては地方裁判所に行い、暴力の内容や今後の危険の程度について、記録をもとに説明することになります。申立書の作成や裁判所でのやり取りは、弁護士が代理人として担うこともできます。
部屋の契約・家賃・置いてきた荷物
同棲していた部屋が自分名義の場合、相手に住み続けられて困るという相談があります。保護命令には、相手に住居からの退去を命じる退去等命令もあり、期間は原則2か月、住居が被害者だけの所有または賃借である場合は申立てにより6か月とされています(配偶者暴力防止法10条の2)。ただし、これは安全を確保するための一時的な措置であり、賃貸借契約の整理や相手の荷物の扱いは、別途進める必要があります。
逆に、相手名義の部屋に荷物を置いてきた場合、自分で取りに戻ると再び暴力を受けるおそれがあります。代理人を通じて引渡しの日時や方法を決めるほか、警察に立会いを相談する方法もあります。荷物の扱いについては、【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいかで解説しています。
治療費や壊された物の弁償を求めるとき
暴力によるけがの治療費、通院のために休んだ分の収入、壊された物の修理代や慰謝料は、不法行為にもとづく損害賠償として請求できる場合があります(民法709条、710条)。請求するかどうか、いつ請求するかは、安全の確保とのバランスを見ながら決めることになります。
請求の際に新しい住所を相手に知らせたくない場合は、弁護士の事務所を連絡先にして交渉を進めることができます。訴訟になった場合も、一定の要件のもとで住所などを相手に秘匿する制度が設けられています(民事訴訟法133条)。
よくあるご質問
Q. 相手が「もう二度としない」と謝っているので、相談するか迷っています。
暴力の後に相手が謝り、しばらく穏やかな期間が続くことは珍しくありません。ただ、その後に暴力が繰り返されるケースも多く見られます。相談したからといって、すぐに別れたり被害届を出したりしなければならないわけではありません。迷っている段階で相談しておくと、記録が残り、再び暴力を受けたときに保護命令などの手続を取りやすくなります。
Q. 相手に知られずに相談することはできますか。
警察、支援センター、弁護士のいずれに相談しても、相談したこと自体が相手に伝わることは通常ありません。気をつけたいのは、相談先とのやり取りが相手の目に触れることです。通話履歴やメッセージ、ブラウザの閲覧履歴を相手が確認する可能性がある場合は、職場や知人の電話を使う、履歴を残さない設定にするなど、連絡の方法をあらかじめ相談先と決めておくと安心です。
Q. 同棲していたのは数か月だけですが、DV防止法の対象になりますか。
同棲の期間の長さだけで決まるものではなく、同じ住まいを生活の拠点として共同生活を営んでいたかどうかで判断されます。一方で、たまに相手の部屋に泊まる程度の関係では、生活の本拠を共にしているとはいえない場合もあります。その場合でも、ストーカー規制法や刑法による対応が考えられるため、まずは窓口で事情を伝えてみてください。
まとめ
- 同棲相手からの暴力には、DV防止法の保護命令などの規定が準用され、同棲解消後の元の同棲相手も対象になる(配偶者暴力防止法28条の2)。
- 2024年4月施行の改正で、身体に対する暴力に加え、生命・身体・自由・名誉・財産に対する脅迫も保護命令の対象になった。
- 差し迫った危険があるときは110番、落ち着いて話せるときは警察の相談窓口(#9110)や配偶者暴力相談支援センター(#8008)に相談する。
- 保護命令の申立てには、原則として事前に警察か支援センターへ相談していることが必要になる。
- 接近禁止命令は原則1年、退去等命令は原則2か月(自分だけが所有・賃借する住居では6か月)で、違反には刑事罰がある(同法10条、10条の2)。
- 住民票の写しの交付制限などの支援措置を使い、転居先を知られないよう手続の順序を整える。
- 部屋の契約、置いてきた荷物、治療費や慰謝料の請求は、弁護士を連絡窓口にして整理できる(民法709条、710条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。同棲中の恋人の暴力から離れたいとき、弁護士が代理人として相手との連絡窓口を引き受けることで、直接やり取りをせずに、部屋の契約や荷物、金銭の整理を進めることができます。
これから家を出ることを考えている方も、すでに避難したものの相手からの連絡や部屋の扱いに困っている方も、安全の確保を最優先にしたうえで、一人で抱え込まずにご相談ください。


