【男女トラブル】中絶同意書へのサインを求められたら、応じる義務はある?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年10月時点の母体保護法・民法・刑法をもとに解説しています。同意書の様式や求められる書類は医療機関ごとに異なるため、実際の手続は受診先の説明もあわせてご確認ください。


交際相手や関係を持った女性から妊娠を告げられ、話し合いの末に中絶という結論になったとき、病院の「人工妊娠中絶同意書」にサインしてほしいと頼まれることがあります。相手の体と今後を思えば協力したいと考える一方で、「サインしたら父親だと認めたことになるのか」「住所を書いて大丈夫か」「断ったらどうなるのか」と、すぐには決めきれない方も少なくありません。

 この記事では、中絶同意書へのサインを求められた男性の立場から、法律上の義務があるのかどうか、相手の立場による違い、サインする前に確かめておきたいこと、断る場合や後から考えが変わった場合の考え方を順に整理します。

中絶同意書へのサインは法律上の義務ではない

 人工妊娠中絶について定めている母体保護法14条1項は、指定医師が「本人及び配偶者の同意」を得て中絶を行うことができると定めています。ここでいう配偶者には、婚姻届を出していなくても事実上の夫婦と同じ関係にある人が含まれます(同法3条1項)。一方で、配偶者が分からないときや意思を示せないとき、妊娠後に配偶者がいなくなったときは、本人の同意だけで足りるとされています(同法14条2項)。

 つまり、相手女性が結婚しておらず、事実婚の関係にもない場合、妊娠の相手である男性の同意は、法律上の要件にはなっていません。厚生労働省も、未婚の場合には相手男性の同意は求められないという考え方を医療機関向けに示しています。

 それでも実際には、後のトラブルを避けるために、未婚の場合でも相手男性の署名を求める医療機関があります。このため、女性から「病院でサインが必要だと言われた」と頼まれる場面が生じます。この依頼は、法律上の義務というより、手続を円滑に進めるための協力のお願いと位置づけるのが実態に近いといえます。サインを断ったこと自体を理由に、罰則を受けたり賠償を命じられたりする仕組みはありません。

相手女性の立場によって、同意の意味は変わる


相手女性の状況法律上必要な同意サインを求められたときの注意点
未婚で、事実婚の関係もない本人の同意のみ協力として応じるかどうかを自分で判断できる
自分と事実婚の関係にある本人と自分(配偶者)の同意自分の同意が法律上の要件になる
ほかの男性と結婚している本人と夫の同意(原則)自分の署名は夫の同意の代わりにならない


相手が結婚している場合

 相手女性に夫がいる場合、母体保護法上の「配偶者」は夫です。妊娠の相手が自分であっても、原則として必要なのは夫の同意であり、自分が署名しても夫の同意の代わりにはなりません。

 このような場面で「夫の欄にあなたの名前を書いてほしい」「夫の名前で書いてほしい」と頼まれることがありますが、他人の名前で署名することは、有印私文書偽造罪(刑法159条1項、3月以上5年以下の拘禁刑)に問われるおそれがあります。頼まれた側も、責任を問われる可能性がある点に注意が必要です。また、夫の側から不貞行為を理由とする慰謝料を請求される可能性もあります。この点は【不貞慰謝料】不貞相手が妊娠した場合に生じる問題で解説しています。

サインに応じる前に確かめておきたいこと

 協力すると決めた場合でも、署名の前に次の点を確認しておくと、後から生じる行き違いを減らせます。

  1. 相手女性が結婚しているかどうか(事実婚を含む)。
  2. 同意書が受診する医療機関の正式な様式であるかどうか。
  3. 署名欄に自分の氏名を自分で書くこと。
  4. 同意書以外の書面(念書・誓約書・借用書など)が同封されていないかどうか。
  5. 住所や連絡先の記載がどこまで必要か。
  6. 提出前の同意書を写真などで控えておくこと。


サインすると「父親だと認めた」ことになるのか

 法律上、子の父親であることを認める「認知」は、役所への届出などの手続によって行われるもので(民法779条・781条)、中絶同意書への署名は認知にはあたりません。

 ただし、署名した同意書は、後に費用の負担などをめぐって話がこじれたとき、二人の間に関係があったことや、妊娠の相手である可能性を自分も認識していたことを示す資料として持ち出されることがあります。避妊していた、関係の時期が合わないなど、妊娠の相手であることに疑問がある場合は、署名の前にその点を落ち着いて確かめておくことが大切です。【男女トラブル】避妊していたのに妊娠したと言われた|最初に確認することもあわせてご覧ください。

住所や連絡先を書くことへの不安

 同意書は医療機関で保管されるもので、通常、記載された住所に医療機関から書類が送られることはありません。ただ、記載を求められる項目は医療機関によって異なります。記載したくない事情があれば、相手を通じて医療機関に必要性を確認してもらう方法が考えられます。偽りの住所や名前を書くことは、それ自体が新たな問題を生むおそれがあるため避けてください。

同意書と一緒に別の書面を差し出されたとき

 同意書と同時に「費用はすべて負担する」「慰謝料として○○万円を支払う」といった念書や誓約書への署名を求められることがあります。中絶への同意と金銭の約束は、本来は別の話です。内容を十分に確かめないまま署名すると、その書面をもとに後から請求を受けることがあります。書面の効力については【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力で詳しく扱っています。

サインを断る場合に考えておきたいこと

 相手女性が未婚であれば、男性がサインを断っても、女性は本人の同意だけで中絶を受けることができます。医療機関によっては相手の署名がないと受け付けない運用もありますが、その場合でも、事情を説明して本人の同意のみで対応する医療機関を探すことは可能です。つまり、サインを拒むことで女性の判断を止めることには、もともと限りがあります。

 反対に、出産を望む女性に対して中絶を強いることはできません。子が生まれた場合には、認知や養育費の問題が別に生じます。認知に応じない場合でも、家庭裁判所の調停や訴訟を通じて認知が求められることがあります。

 サインを、費用の負担や交際の条件をめぐる駆け引きの材料にすることは、相手の心身に負担をかけるだけでなく、話し合いをこじらせる原因にもなりがちです。断るのであれば、理由を冷静な言葉で伝え、やり取りはメッセージなど記録に残る形で行い、感情的な応酬は避けることをおすすめします。妊娠を告げられた場面での言葉選びは、【男女トラブル】妊娠を告げられたときに言ってはいけない言葉|後で不利になる発言で整理しています。

「サインしないなら会社や家族に知らせる」と言われたら

 サインや金銭の支払いを求める中で、勤務先や家族に知らせると告げられることがあります。言葉の内容や求められている事柄によっては、脅迫罪や強要罪などが問題になることもあります。その場で約束をせず、メッセージや通話の記録を残したうえで、弁護士に窓口を任せることを検討してください。

一度サインした後で考えが変わったとき

 署名した後になって、「本当に自分の子なのか分からなくなった」「やはり産んでほしい」と考えが変わることもあります。相手女性が未婚であれば、もともと男性の同意は法律上の要件ではないため、同意を撤回しても、女性の判断や医療機関の手続を止める効力は基本的にありません。

 医療機関に直接連絡して手術を止めるよう求めたり、相手に繰り返し翻意を迫ったりすると、トラブルが大きくなるおそれがあります。気持ちの整理がつかない場合は、まず相手と落ち着いて話す機会を持てるかどうかを考え、難しければ第三者に間に入ってもらう方法を検討してください。

費用の負担は、サインとは切り分けて話し合う

 同意書へのサインは、手術への同意を示すものであり、費用を支払う約束そのものではありません。ただし、妊娠は二人の関係から生じたものであり、中絶にかかる費用や体への負担をどう分け合うかは、別に話し合う必要があります。費用の分け方については、【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方をご参照ください。中絶後に相手の体調が崩れた場合の負担は、【男女トラブル】中絶の後に体調を崩した|治療費・休業の負担を求めるで扱っています。

よくあるご質問


自分が事実婚のパートナーの場合、サインを断るとどうなりますか

 事実上の夫婦と同じ関係にある場合は、母体保護法上の「配偶者」にあたり、男性の同意が法律上の要件になります。ただし、関係が実質的に破綻している場合や、暴力などがあって同意を得ることが難しい場合には、本人の同意だけで手続が進められることがあるとする考え方も示されています。断る場合であっても、相手の体への負担や時間の制約を踏まえ、早い段階で話し合いの場を持つことが望まれます。

サインした後に、医療機関から自分に連絡が来ることはありますか

 通常、同意書は医療記録とともに保管され、署名した男性に医療機関から連絡が入ることは多くありません。もっとも、署名の内容に疑問がある場合などに、確認の連絡が入る可能性はあります。そのためにも、実際に連絡がつく正しい情報を記載しておくことが前提になります。

提出した同意書の控えはもらえますか

 提出後の同意書は医療機関が保管するため、控えを受け取れるかどうかは医療機関の扱いによります。後から内容を確かめられるよう、相手に渡す前に自分で写真を撮っておく方法が現実的です。

弁護士に相談することで整理できること

 中絶同意書をめぐる相談では、サインの可否だけでなく、費用の分担、今後の連絡の取り方、金銭の要求への対応などが一緒に問題になることが多くあります。弁護士が間に入ることで、当事者同士では感情的になりやすい話し合いを、条件を一つずつ確かめながら進めることができます。合意の内容を書面に残し、後から追加の請求が生じにくい形を整えることも可能です。

 妊娠をめぐる基本的な整理や、実際に弁護士が間に入った事例は、次の記事でも紹介しています。


 中絶同意書へのサインは、法律上の義務ではありませんが、相手の体と今後の生活に関わる重い判断です。相手の立場や同封された書面の内容によって、確かめておくべきことは変わります。迷いがあるまま署名したり、感情的に断ったりする前に、一度状況を整理してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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