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交際していた相手から「既婚であることを隠していた」と責められ、慰謝料や結婚の準備にかかった費用などの支払いを求められることがあります。隠していたこと自体は事実でも、求められた項目や金額をそのまま受け入れなければならないとは限りません。一方で、事情によっては支払いが認められる場面もあり、最初の対応を誤ると話がこじれるおそれがあります。
この記事では、既婚であることを伏せて交際していた側の立場から、どのような支払いを求められる可能性があるのか、金額の判断でどのような事情が見られるのか、責められたときに最初に整えておきたいことを順に整理します。
本記事は2026年10月時点で公表されている法令と裁判例の報道をもとにしています。慰謝料の有無や金額は個別の事情によって大きく変わるため、具体的な判断は弁護士にご相談ください。
既婚を隠していたことは、それだけで支払いの理由になるのか
男女の交際は当事者の自由な意思に委ねられており、交際が終わったこと自体で慰謝料が発生するわけではありません。ただし、既婚であることを隠して性的関係を伴う交際を続けた場合には、相手が「既婚者とは関係を持たない」と判断する機会を奪ったとして、貞操権(性的な自己決定に関する権利)や人格権の侵害を理由とする損害賠償(民法709条・710条)が問題になることがあります。
責任が認められた裁判例の多くでは、独身だと積極的に偽ったこと、結婚を前提とした交際だと相手に信じさせたこと、ある程度の期間にわたって複数回の性的関係があったことなどが認定されています。また近年は、結婚を前提とした関係とまではいえないとしつつ、交際相手を探す人にとって相手が既婚かどうかは性的関係をもつかを決めるうえで重要な情報だとして、賠償を認めたと報じられた判決もあります。
反対に、短い期間で終わった関係や、相手が既婚であることを知り得た事情がある場合には、責任が否定されたり、金額が小さくなったりすることがあります。大まかな傾向は次のとおりです。
| 事情 | 責任が認められやすい方向 | 責任が認められにくい方向 |
|---|---|---|
| 既婚についての説明 | 独身だと積極的に偽っていた | 既婚を示す事情を相手も知っていた |
| 交際の性質 | 結婚を前提とした話を重ねていた | 結婚の話が出ていない短期間の関係 |
| 交際の期間・内容 | 長期間にわたり性的関係が続いた | 会った回数や関係が限られている |
| 発覚後の経過 | 発覚後も偽りを重ねていた | 発覚後は相手も承知のうえで交際が続いた |
支払いを求められる可能性があるもの
既婚を隠していたことを理由とする請求は、慰謝料だけとは限りません。相手が求めてくる項目ごとに、根拠があるかどうかを分けて考えることが大切です。
貞操権侵害を理由とする慰謝料
中心になるのは慰謝料です。報道や解説で紹介されている裁判例では、次のような金額が認められています。
| 判決 | 事案の概要 | 認められた慰謝料 |
|---|---|---|
| 東京地裁令和元年12月23日判決 | 独身と偽り、結婚への期待を抱かせて約5年間交際 | 100万円 |
| 東京地裁令和2年3月2日判決 | 婚活サイトで知り合い、約半年間に複数回の性的関係 | 50万円 |
| 東京地裁令和3年11月26日判決 | 婚活アプリで知り合い、妊娠・出産に至った | 200万円 |
| 大阪地裁(2025年10月までの判決と報道) | 独身限定の婚活アプリで知り合い交際 | 55万円 |
いずれも個別の事情を踏まえた金額であり、一律の相場があるわけではありません。請求の段階では裁判例より高い金額が示されることも少なくありませんが、示された金額がそのまま認められるとは限らず、事情を一つずつ照らし合わせて検討することになります。
結婚の準備にかかった費用
結婚を前提とした話が進み、相手が式場の予約金、指輪、新居の初期費用などを負担していた場合、その費用の負担を求められることがあります。既婚者との「婚約」は、そのまま有効な婚約として保護されるとは限りませんが、結婚できると信じさせた結果として相手に生じた支出は、偽りとの結びつきが認められれば損害として扱われる可能性があります。婚約の成否が争点になる場面の考え方は、婚約を一方的に破棄された|慰謝料を請求できるケース・できないケースもあわせてご覧ください。
妊娠・出産に関わる費用
交際中に妊娠した場合には、中絶や通院にかかった費用の分担を求められることがあります。出産に至った場合は、慰謝料とは別に、認知や養育費が問題になります。養育費は子どものためのものであり、交際の経緯とは切り離して考えるのが基本です。妊娠を告げられた直後の対応は、【男女トラブル】交際相手から妊娠を告げられた|最初の1週間に確認することで整理しています。
交際中に受け取ったお金や物
生活費や結婚資金などの名目で相手からお金を受け取っていた場合、その返還を求められることがあります。贈与だったのか貸し借りだったのかが争いになりやすく、結婚を前提とした名目で受け取っていた場合には、結婚できない事情を伏せたまま受け取ったこと自体が問題視されるおそれもあります。いつ、どの名目で、いくら受け取ったのかを先に整理しておくことが大切です。
退職や転居などに伴う損失
結婚を見据えて仕事を辞めた、転居したといった事情を挙げて、収入の減少分などを求められることもあります。ただし、こうした損失は偽りとの結びつきの判断が難しく、請求額のすべてが認められるとは限りません。
求められても、そのまま応じる必要があるとは限らないもの
責められている場面では、法的な根拠が乏しい要求が混ざることもあります。たとえば次のようなものです。
- 交際にかけた時間そのものの対価として求められる金額は、通常は損害として認められにくいものです。
- 内訳や根拠が示されないまま一括での支払いを求められる高額な金額は、まず内訳の説明を求めることが考えられます。
- 「配偶者や勤務先に知らせない代わりに払え」という形の要求は、支払いと口外の問題が結びつけられており、応じる前に慎重な検討が必要です。
- 相手が用意した誓約書や念書への署名をその場で求められた場合は、持ち帰って内容を確かめることができます。
時間の対価をめぐる考え方は【男女トラブル】別れを告げたら「今までの時間を返せ」と言われた|時間の対価は請求できるのか、強く迫られて書いた書面の扱いは【男女トラブル】別れ際に書いた誓約書を撤回したい|強く迫られて書いた書面で取り上げています。
金額の判断で見られる事情
慰謝料が認められるかどうか、認められる場合にいくらになるかは、次のような事情を総合して判断されます。
- 独身だと積極的に偽ったか、既婚であると言わなかっただけかの違い。
- 交際の期間と、性的関係の回数や継続性。
- 結婚の話の具体性(親への紹介、式場の下見、指輪の購入など)。
- 妊娠・出産の有無。
- 相手が既婚を知った時期と、その後の交際の継続の有無。
- 相手の側で既婚であることに気づき得た事情の有無。
最高裁昭和44年9月26日判決は、妻子があることを知りながら交際した女性からの慰謝料請求についても、男性側の動機や偽りの内容・程度、女性側の認識などを踏まえ、男性側の違法性が女性側に比べて著しく大きいと評価できる場合には請求が認められるとしました。双方の事情を比べて判断される考え方であるため、相手の側の認識や関わり方によって、責任の有無や金額が変わることがあります。
配偶者との関係で起きうること
交際相手から「配偶者に話す」「家族に会わせてほしい」と言われることもあります。交際相手が既婚と知らずに関係をもっていた場合、配偶者から交際相手への不貞の慰謝料請求は、故意・過失がないとして認められないことが多いと考えられます。一方、既婚と知った後も交際が続いていた期間については、交際相手も配偶者から請求を受ける立場になりうるため、交際相手の側が話を急ぐこともあります。相手の側の故意・過失の考え方は【不貞慰謝料】既婚と知らなかった|故意・過失が否定される場合をご覧ください。
配偶者に知られずに解決したいという希望があっても、そのことを理由に根拠の乏しい金額で合意すると、後から追加の要求を受けるおそれがあります。連絡の窓口や書面の送り先をどう設計するかは、家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計で解説しています。
責められたときに最初に整えること
- その場で金額を約束したり、誓約書に署名したりせず、検討する時間をとります。
- 相手とのメッセージや通話の記録は消さずに残し、こちらから送る内容も感情的な表現を避けます。
- 出会いから発覚までの経過を、日付とともに時系列で書き出します。
- 相手が求めている項目と金額の内訳を、書面やメッセージで示してもらいます。
- 支払いに応じる場合は、清算条項・口外しないことの約束・今後の接触の取り決めを含む合意書を作ります。
当事者同士で話を続けると、感情の行き違いから要求が膨らむこともあります。弁護士が窓口になることで、請求の項目を一つずつ確かめながら話を進めやすくなります。独身と偽った交際で高額の請求を受けた方の事例は、【解決事例】独身と偽った交際で400万円超を請求された事案|費目を整理し解決金150万円で合意で紹介しています。
よくあるご質問
「結婚詐欺で訴える」と言われたら、刑事事件になるのでしょうか
詐欺罪は、人をだまして金銭などの財産を交付させた場合に問題となる犯罪です(刑法246条)。交際や性的関係そのものは財産の交付ではないため、それだけで詐欺罪にあたるわけではありません。ただし、結婚資金などの名目でお金を受け取っていた場合には、事情によって問題とされるおそれもあります。境界の考え方は結婚をちらつかせて金銭・関係を得る|結婚詐欺と貞操権侵害の境界で解説しています。
独身かと聞かれたことはなく、自分から嘘はついていない場合も責任はありますか
積極的に偽った場合に比べると、責任は軽く評価される方向に働くことがあります。もっとも、独身であることを前提とする婚活サービスに登録していた、結婚を話題にしていたなど、独身だと信じさせる言動があれば、言葉で偽っていなくても責任が問われることがあります。
請求はいつまで続く可能性がありますか
不法行為による損害賠償の請求権は、原則として、損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。交際相手の側では、既婚であると知った時点から数えるのが一般的ですが、事情によって異なります。時効を待つよりも、内容を確かめて早めに整理する方が、結果として負担を抑えられることがあります。
ご相談にあたって
既婚であることを隠していた事実があっても、求められている支払いのすべてに応じなければならないわけではありません。どの項目に根拠があり、どの程度の金額が見込まれるのかを整理したうえで話し合うことが、落ち着いた解決につながります。当事務所の対応内容は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


