【男女トラブル】交際相手が中絶に同意しないとき、男性にできることは?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

本記事は、2026年10月時点の法令(2026年4月施行の改正民法を含む)をもとに、未婚の交際相手が妊娠した場面を中心に解説しています。


交際相手から妊娠を告げられ、自分は中絶を望んでいるのに、相手は「産みたい」と考えている。このような食い違いは、当事者の気持ちが大きく揺れる時期に起こるため、話し合いがこじれやすい場面です。弁護士ドットコムなどの法律相談サイトにも、「中絶を拒否された」「産むなら一切関わらないと伝えた」「相手が弁護士を立てると言っている」といった男性からの相談が数多く寄せられています。

 結論からお伝えすると、相手が中絶に同意しない場合に、男性の側から中絶をさせる法的な手段はありません。一方で、男性にできること、しておいたほうがよいことは少なくありません。この記事では、法律上の前提、避けたい行動、男性が取れる対応、出産に至った場合の認知・養育費までを順に整理します。

前提として、産むかどうかを決めるのは女性本人です

 人工妊娠中絶について定めた母体保護法14条1項は、指定医師が「本人及び配偶者の同意」を得て中絶を行えると規定しています。ここでいう配偶者は夫(事実婚を含むと解されています)を指し、結婚していない交際相手は原則として含まれません。医療機関によっては未婚の場合でも相手の署名を求める運用がありますが、これは法律上、男性に中絶を決める権限を与えるものではありません。

 また、相手の男性が出産を望んでいない場合でも、女性が出産すること自体に法的な問題はありません。妊娠の継続や出産は女性の身体に直接関わる事柄であり、最終的な判断は女性本人に委ねられるというのが、法律の考え方です。

 なお、人工妊娠中絶ができるのは、国の通知により妊娠22週未満とされています。時間に限りがあるため、話し合いを先延ばしにしないことは大切ですが、期限を理由に相手を急き立てることは、次に述べる問題につながりかねません。

避けたい行動|働きかけ方によっては法的責任が生じます

 中絶を望む気持ちを伝えること自体は、何ら問題ありません。ただし、伝え方や行動によっては、刑事・民事の責任を問われるおそれがあります。特に注意したいのは、次のような行動です。

  • 「中絶しなければ家族や職場に知らせる」など、害を告げて中絶を迫ること。
  • 暴力をふるう、または暴力をほのめかして判断を迫ること。
  • 本人に知らせずに薬を飲ませるなど、同意のないまま中絶に至らせようとすること。
  • 妊娠を告げられた後に連絡を絶ち、話し合いそのものを拒み続けること。


 害を告げて義務のないことを行わせようとする行為は、強要罪(刑法223条、3年以下の拘禁刑)に問われる可能性があり、実際に中絶に至らなかった場合でも未遂罪が問題になります。女性の同意なく中絶させる行為は不同意堕胎罪(刑法215条、6月以上7年以下の拘禁刑)の対象となる、重い犯罪です。

 民事の面でも、中絶を強いたり、話し合いに応じずに負担を一方的に押しつけたりした男性に対して、慰謝料などの支払いを命じた裁判例があります。中絶をめぐる慰謝料は、同意のうえでの性交渉と中絶であれば原則として認められにくいとされていますが、男性側の対応が不誠実だと評価されると、結論が変わり得ます。

 感情が高ぶったときの一言が、後になって不利な証拠として扱われることもあります。妊娠を告げられた直後の受け答えについては、【男女トラブル】妊娠を告げられたときに言ってはいけない言葉|後で不利になる発言もあわせてご覧ください。

男性にできること


妊娠の事実と時期を確かめる

 まずは、医療機関で妊娠が確認されているか、妊娠週数がどの程度か、性交渉の時期と矛盾がないかを落ち着いて確認します。自分が父親であるかに疑問がある場合、相手を問い詰めるのではなく、DNA鑑定という客観的な方法があることを念頭に置いておくとよいでしょう。出生前の鑑定もありますが、女性の協力が必要になります。初動の確認事項は、【男女トラブル】交際相手から妊娠を告げられた|最初の1週間に確認することで詳しく解説しています。

自分の考えと事情を、一度落ち着いて伝える

 中絶を望む理由(経済的な事情、将来の見通し、関係の状況など)を、一方的な要求ではなく、自分の考えとして伝えることは許されます。ただし、同じ要求を何度も繰り返す、深夜に連絡し続けるといった伝え方は、圧力と受け取られるおそれがあります。考えを伝えたら、最終的な判断は相手に委ねるという姿勢を示しておくことが、後のトラブルを抑えることにもつながります。

中絶を選ぶ場合の費用負担を示す

 相手が中絶を選んだ場合に備えて、費用や通院・休業の負担をどう分けるかを示しておくことも考えられます。中絶費用は折半とされることが多いものの、事情によって考え方は異なります。費用の分け方については【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方をご参照ください。なお、「中絶すれば多額のお金を渡す」といった提案は、金額や言い方によっては判断を左右する圧力と受け取られかねないため、慎重に扱う必要があります。

出産に至る場合を見据えて準備する

 相手が出産を選んだ場合、子どもとの法律上の関係や養育費の問題は、男性の意向とは別に生じます。早い段階で全体像を把握しておくことが、冷静な話し合いの土台になります。詳しくは次の項目で整理します。

出産に至った場合の認知・養育費・親権

 結婚していない男女の間に生まれた子どもと男性との間に法律上の親子関係を生じさせるのが「認知」です。男性が自ら認知する(任意認知)ほか、出生前に母の承諾を得て行う胎児認知(民法783条1項)もあります。男性が認知に応じない場合、母や子の側から認知の調停を申し立て、まとまらなければ認知の訴え(民法787条)に進むことができ、DNA鑑定などで父子関係が認められれば、男性の意思にかかわらず認知が認められます。

項目認知した場合認知していない場合
法律上の親子関係生じる生じない
養育費支払う義務が生じる法的には請求できないが、強制認知の後に出生時にさかのぼって求められることがある
相続子は男性の相続人になる相続人にならない
男性の戸籍認知した事実が記載される記載されない


 認知された子どもに対しては、父として養育費を支払う義務を負います。金額は当事者の話し合いで決めるのが基本ですが、目安として家庭裁判所の養育費算定表が用いられます。妊娠中に「産むなら一切関わらない」「認知は求めない」と約束を交わしても、認知を求めないという約束は法的な効力が否定されると考えられており、養育費を請求しないという合意も、子ども自身の扶養を求める権利まで当然に消すものではありません。

 親権は、認知された子であっても原則として母が持ちます。2026年4月施行の改正民法により、父母の協議で父を親権者とするほか、父母の双方を親権者と定めることもできるようになりました。生まれる前の段階で認知を求められた場合の考え方は、【男女トラブル】胎児認知を求められた|生まれる前に認知する意味で解説しています。

交際を続けるか、結婚するかは別の問題です

 子どもの問題と、二人の交際や結婚の問題は、切り分けて考える必要があります。妊娠を理由に結婚を求められても、結婚に応じる法的な義務はありません。ただし、婚約が成立していたと評価される事情がある場合などには、別の問題が生じることがあります。結婚を求められている場合は【男女トラブル】妊娠を理由に結婚を迫られている|応じない場合に起きることもご覧ください。

 男性が既婚者である場合は、配偶者から不貞を理由とする慰謝料を請求される可能性や、認知によって戸籍に記載が残ることなど、検討すべき点が増えます。この場面については【不貞慰謝料】不貞相手が妊娠した場合に生じる問題で整理しています。

弁護士に相談することで整理できること

 弁護士が代理人として関わっても、相手に中絶を承諾させることはできませんし、そのような働きかけをするものでもありません。弁護士が担えるのは、感情的になりやすいやり取りの窓口を引き受け、男性側の立場と考えを法的に適切な形で伝え、今後に備えた取り決めを整えることです。

  • 相手やその家族との直接のやり取りを減らし、言動が強要などと受け取られる事態を防ぎます。
  • 中絶費用や通院・休業の負担について、根拠を示しながら話し合いを進めます。
  • 出産に至る場合に、認知や養育費について見通しを示し、合意内容を書面に残します。
  • 相手方が弁護士を立てて請求してきた場合に、請求の内容を整理して対応します。


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よくあるご質問


中絶の同意書にサインしなければ、相手は中絶できないのですか

 結婚していない交際相手の同意は、母体保護法上の要件ではありません。医療機関の運用で署名を求められることはありますが、男性の署名の有無で女性の判断を左右できるわけではありません。反対に、相手が中絶を選んだ場合に、男性が署名を拒んで出産を強いることもできません。

「産むなら一切関わらない」と伝えておけば、責任を負わずに済みますか

 そのように伝えても、生まれた子どもとの関係で生じる責任がなくなるわけではありません。認知の訴えによって父子関係が認められれば、養育費の支払い義務が生じます。一方的な宣言で済ませようとするより、出産に至った場合の取り決めを冷静に話し合うほうが、結果として負担の見通しが立ちやすくなります。

相手から「中絶するなら慰謝料を払え」と言われました

 中絶を望む意向を伝えたことだけで、直ちに慰謝料の支払い義務が生じるとは限りません。もっとも、それまでの言動や中絶に至る経緯によっては、男性側の責任が問題になることがあります。求められている金額や根拠を確認し、支払いを約束する前に一度ご相談いただくことをおすすめします。

 相手が中絶に同意しない状況は、男性にとっても先が見えず、不安の大きい時期です。ただ、焦って相手に迫るほど、後の話し合いや手続で不利な立場になりやすいのも事実です。自分にできることとできないことを区別し、出産に至った場合の備えも含めて整理しておくことが、双方にとって落ち着いた解決につながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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