【解決事例】別れ話に応じてもらえず連絡が止まらなかった男性|3年分割の提案を一括清算に切り替え、約1ヶ月で合意書を締結した事例
本記事は、2020年4月1日に施行された改正民法を前提に、個人間のお金の貸し借りについて一般的な考え方を解説するものです。個別の事情によって結論が変わることがあります。
交際中に貸したお金を、別れた後に元恋人が月に数千円、1万円といった額で少しずつ返してくる。返す気がないわけではなさそうだけれど、このペースでは完済まで何年かかるか分からない。そうしたとき、「残りをまとめて返してほしい」と求めることはできるのでしょうか。
まとめて請求できるかどうかは、お金を貸したときやその後に「どのように返すか」をどう決めていたかによって分かれます。一括で返す約束だったのか、返す期限を決めていなかったのか、分割で返すことに合意していたのかで、取れる手段が変わってきます。
この記事では、元恋人からの返済が少しずつしか進まない場面を想定し、残額をまとめて請求できる場合とできない場合の分かれ目、手元の記録の見直し方、まとめて返してもらうための進め方を順に整理します。
まとめて請求できるかは、返し方の取り決めで分かれる
個人間のお金の貸し借りは、法律上は「金銭消費貸借契約」にあたります(民法587条)。借りた側には返す義務がありますが、いつ・どのように返すかは、当事者の間で決めた内容が基準になります。まずは次の表で、ご自身のケースがどれに近いかを確かめてみてください。
| 貸したときや、その後の取り決め | 残額をまとめて請求できるか |
|---|---|
| 期限を決めて一括で返す約束だった | 期限を過ぎていれば、残額全部を請求できる |
| 返す期限を決めていなかった | 相当の期間を定めて返還を求め、その期間が過ぎれば残額全部を請求できる |
| 分割で返す約束で、遅れたら一括で返すという取り決めもある | 取り決めにあたる遅れがあれば、残額全部を請求できる |
| 分割で返す約束だが、遅れたときの取り決めはない | 原則として、支払日を過ぎた分に限られる |
一括で返す約束だった場合
「来年3月までに全額返す」のように、期限を決めて一括で返す約束だった場合、その期限を過ぎていれば、残っている金額をまとめて請求できます。相手が自分の判断で少しずつ振り込んできても、それは返済の一部にすぎず、貸した側がそれによって分割払いを認めたことにはなりません。
注意したいのは、相手から「毎月1万円ずつなら返せる」と言われ、「それでいいよ」と返事をしていた場合です。このようなやり取りがあると、後から「一括の約束を分割に変更した」と受け取られるおそれがあります。少しずつの返済を受け取るときは、「分割に同意したわけではない」「残りも早く返してほしい」という立場をメッセージなどで伝え、記録に残しておくと、後の話し合いで整理しやすくなります。
返す期限を決めていなかった場合
「返せるときに返して」とだけ伝えて期限を決めていなかった場合でも、貸した側は返還を求めることができます。民法591条1項は、返還の時期を定めなかったときは、貸主は相当の期間を定めて返還の催告をすることができると定めています。
そのため、「○月○日までに残額○円を返してください」と期間を示して求め、その期間が過ぎても返済がなければ、残額全部を請求できる状態になります。どのくらいが「相当の期間」かは金額や事情によって異なりますが、返済の準備に必要な期間として不自然でない日数を示しておくことが大切です。
分割で返すことに合意していた場合
「毎月末に2万円ずつ返す」というように分割で返すことに合意していた場合は、事情が異なります。返済の期限は借りた側の利益のために定めたものと推定され(民法136条1項)、この利益を「期限の利益」と呼びます。分割払いの約束がある場合、借りた側はそれぞれの支払日までは払わなくてよい立場にあるため、貸した側は、まだ支払日が来ていない分まで今すぐ返すよう求めることは原則としてできません。
ただし、支払日を過ぎても払われていない分があれば、その分はまとめて請求できます。例えば3回分の支払いが遅れていれば、その3回分の合計額と、遅れに応じた遅延損害金を求めることができます。残額全部をまとめて請求できるのは、主に次のような場合です。
- 借用書などに「支払いを1回でも怠ったときは、残額を直ちに一括で支払う」といった期限の利益喪失条項がある場合。
- 相手が破産手続開始の決定を受けた場合(民法137条1号)。
- 相手が担保を減らしたり、約束した担保を出さなかったりした場合(民法137条2号・3号)。
個人間の借用書には、期限の利益喪失条項が入っていないことも少なくありません。手元の書面に、遅れたときの取り決めがあるかどうかをまず確かめてみてください。
手元の記録から「どんな約束だったか」を見直す
元恋人とのお金のやり取りは、借用書を作らず、LINEなどのメッセージだけで進んでいることが多いものです。その場合、上の表のどれにあたるかは、残っている記録から判断することになります。次のような記録を集め、時系列に並べてみると整理しやすくなります。
- 借用書・念書・合意書などの書面。
- お金を渡したときの振込記録や、現金を引き出した記録。
- 「貸して」「必ず返す」「○月までに返す」といったメッセージ。
- 返済の方法や金額について話し合ったメッセージ。
- これまでに返ってきた日付と金額の記録。
少しずつの返済が続いていること自体は、貸した側にとって不利な事情ばかりではありません。別れた後に「あれはもらったお金だ」と言われることがありますが、相手が自分から返済を続けていたという事実は、贈与ではなく貸し借りであったことをうかがわせる事情の一つになります。贈与と貸付の区別については別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いで、借用書がない場合の回収の考え方は恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で解説しています。
少しずつでも返済が続いていることの法律上の意味
時効が新たに進み直す
お金を返してもらう権利は、いつまでも残るわけではありません。2020年4月1日以降の貸し借りでは、返してもらえる時期が来たことを知った時から5年、または返してもらえる時期から10年で、時効にかかるおそれがあります(民法166条1項)。それ以前の貸し借りでは扱いが異なることがあります。
もっとも、相手が一部でも返済すれば、借りていることを認めた「承認」にあたり、その時点から時効が新たに進み直します(民法152条1項)。少しずつの返済が続いている間は、時効を心配する場面は多くありません。反対に、返済が途絶えてから長く時間が経っている場合は、最後に返済があった時期を確かめ、早めに動くことが大切です。時効の目安は男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで整理しています。
返ってきたお金がどこに充てられるか
利息や遅延損害金の約束がある場合、少しずつの返済は、まず費用、次に利息や遅延損害金、最後に元本の順に充てられるのが原則です(民法489条1項)。返済額が小さいと、元本がなかなか減らないこともあります。残額を正確に示すためにも、いつ・いくら返ってきたかを一覧にしておくとよいでしょう。
残りをまとめて返してもらうための進め方
まず書面で残額と期限を示す
一括で請求できる状態であれば、残額と支払期限を明確にし、書面で返済を求めることから始めます。内容証明郵便を使えば、いつ・どのような内容の請求をしたかを記録に残せます。
このとき、相手の勤務先や家族に連絡して返済を迫る、何度も電話をかける、自宅に押しかけるといった方法は避けてください。正当な貸金であっても、求め方によっては名誉毀損や脅迫、恐喝などの問題を生じるおそれがあります。また、元交際相手への度重なる連絡は、内容によってはストーカー行為を疑われることもあります。求め方の線引きについては、恐喝と借金の取り立ての境界|個人間の債権回収がアウトになる線と【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面で解説しています。
分割を続けるなら、条件を書面で決め直す
相手の収入からすると一括での返済が現実的でない場合、無理に一括払いを求めるよりも、分割の条件を改めて決め直し、書面に残す方が回収につながりやすいこともあります。合意書には、次のような事項を入れておくのが一般的です。
- 現時点での残額を双方で確認する一文。
- 毎月の支払額・支払日・振込先。
- 支払いが一定の回数遅れたときは残額を一括で支払う、という期限の利益喪失条項。
- 支払いが遅れた場合の遅延損害金。
さらに、相手の協力を得て、公証役場で強制執行認諾文言付きの公正証書にしておけば、支払いが滞ったときに裁判を経ずに給与などの差押えを申し立てることができます。分割払いの書面の作り方は分割払いの示談書|期限の利益喪失条項と公正証書、口約束で決めた条件を後から書面にする方法は【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法も参考になります。
話し合いで進まない場合の裁判所の手続
相手が書面での請求にも応じない場合は、裁判所の手続を検討します。主な手続は次のとおりです。
| 手続 | 内容 |
|---|---|
| 支払督促 | 簡易裁判所の書記官に申し立て、支払いを命じてもらう手続。相手が受け取ってから2週間以内に異議を出すと、通常の訴訟に移る |
| 少額訴訟 | 60万円以下の金銭の請求について、原則1回の期日で審理して判決を出す手続。相手が希望すれば通常の訴訟に移る |
| 民事調停 | 簡易裁判所で、調停委員を交えて話し合う手続。分割の条件を決め直したい場合にも使える |
| 通常の訴訟 | 請求額が140万円以下なら簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所に起こす |
判決などを得れば、相手の給与や預貯金を差し押さえることができます。ただし、相手の勤務先や口座が分からなければ差押えは進めにくく、相手に支払う余力がなければ、判決を得ても回収が難しいこともあります。また、一括で強く迫った結果、相手が自己破産を申し立てて免責が認められると、残額を回収できなくなることもあります。
相手が「少しずつしか返せない」状況にあるなら、その理由が支払う余力の不足なのか、返す意欲の問題なのかを見極めたうえで、どの手段を選ぶかを考える必要があります。
弁護士に依頼する場合にできること
元恋人との金銭の問題は、感情的なやり取りになりやすく、本人同士で話すほどこじれることがあります。弁護士が代理人として入ると、残額の確認や請求、分割条件の決め直しを、ご本人が相手と直接連絡を取らずに進めることができます。
また、記録をもとに「一括で請求できる状態か」「分割の合意があったと言われるおそれがあるか」を見極め、内容証明による請求、合意書や公正証書の作成、支払督促や訴訟といった手続のうち、どれから進めるのが合理的かを検討します。相手が連絡に応じない場合の進め方は【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法、当事務所のサービス内容は【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご案内しています。
元恋人が少しずつしか返さない場合でも、約束の内容や残っている記録によっては、残額をまとめて求めることができます。一方で、分割の合意があったと見られる場合や、相手に支払う余力がない場合には、一括請求にこだわるよりも条件を決め直す方が現実的なこともあります。まずは手元の記録を見直し、どの手段が取れるかを確かめるところから始めてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


