【不貞慰謝料・請求する側】自分名義で出すか、弁護士名義で出すか
手元に残していた写真や動画、メッセージの画面を相手に示したところ、「それはAIで作ったものだろう」と返された。近ごろ、こうした言い分を向けられたというご相談が寄せられます。
生成AIで画像や音声を作ることが身近になったことで、本物の資料に対しても、ひとまず疑ってみせるという応じ方が現実に起きています。言われた側からすると、何をどのように示せば分かってもらえるのか、見当がつきにくい場面です。
この記事では、そう言われたときに真贋がどこで判断されているのかと、どのような材料を手元にそろえておくとよいのかを整理します。
この記事で扱うことと、扱わないこと
はじめに範囲を示しておきます。
- 手元にある画像・動画・音声について「AIで作ったものだ」と言われた場面を扱います。
- 話し合いの段階と、訴訟になった段階の両方に触れます。
- 画像の真偽を見分ける技術そのものの解説はしません。
- 自分をかたどった画像を作られた側の削除や開示の手続は、別の記事で扱います。
- 事情によって見通しは変わるため、一般的な考え方の整理にとどめます。
「AIで作ったものだ」には二つの意味がある
同じ一言でも、相手が争っている点は分かれます。どちらの意味で言われているのかを最初に見分けておくと、返し方が決まりやすくなります。
資料そのものが本物ではないという言い分
一つは、その画像や音声は実際の出来事を写したものではない、という主張です。写っている場面そのものが存在しなかった、あるいは後から作り変えられている、という言い方になります。この記事が主に扱うのはこちらです。
本物かどうかとは別に、責任がないという言い分
もう一つは、資料が作られたものであること自体は認めたうえで、「作り物なのだから誰も傷つけていない」と述べるものです。こちらは真贋の争いではなく、責任の有無の争いです。合成であることが分かる形であっても名誉毀損の成立を認めた裁判例があり、作り物だという説明がそのまま免責につながるわけではありません。この点は、加工画像をめぐる別の記事で扱います。
言い分の型によって、示すべきものが変わる
前者の言い分も、さらにいくつかの型に分かれます。相手がどの型で述べているかによって、こちらが用意すべき材料は変わります。
| 相手の言い分 | 実際に争われていること | 求められやすい説明 |
|---|---|---|
| 全体が作られたものだ | その場面が存在したのかどうか | 資料の出所と、ほかの記録との重なり |
| 一部が加工されている | どこがどう変わったのか | 加工前のデータの有無と内容 |
| 本物かどうか分からない | 説明が足りているかどうか | 入手した経路と時期 |
| 似せて作られただけだ | その人物のものといえるのか | 状況や言動の一致、別系統の記録 |
「分からない」とだけ述べる型は、一見すると弱い反論に見えますが、示す側が説明を尽くしていない場合には、これだけで足りてしまうことがあります。
真贋は、画像の中よりも画像の外で判断されている
真贋が争われたときに、裁判所が画素を一つずつ分析して偽物かどうかを見抜く、という進み方はまずしません。判断の手がかりは、資料の外側にあります。
近年の地方裁判所の判断に、SNSの投稿画面を写したとされる画像を主な手がかりとして請求がされ、相手方が「その画像は捏造されたものだ」と反論した事案があります。裁判所は、返信の投稿であれば表示されるはずの返信先や投稿日時が画面に見当たらないこと、画面の作りから切り抜きなどの加工がされた可能性が高いこと、画像の出所が明らかでなく、元の投稿の存在を確認できていないことなどを挙げ、捏造されたものである可能性を否定できないとして、請求を認めませんでした。
本来あるはずの表示が揃っているか
画面を写した資料には、日時、送信先、アカウント名、通知の並びなど、その画面であれば当然写り込むはずの要素があります。それが欠けていること自体が、加工を疑わせる事情として読まれます。都合のよい部分だけを切り抜いた資料が、かえって不利に働くのはこのためです。
どこから手に入れたのかを説明できるか
もう一つの分かれ目は、出所です。自分の端末で自分が撮ったものなのか、誰かから転送されたものなのか、インターネット上で見つけたものなのか。ここを説明できない資料は、内容がどれほど具体的でも、それ単独では通りにくくなります。
先に確かめておきたい材料
「AIで作ったものだ」と言われたときに効いてくるのは、次のような周辺の材料です。
- 撮影や保存に使った機器に残っている元のデータ。
- 誰から、いつ、どのような方法で受け取ったのかという経路。
- 撮影日時や機種などの付随する情報。
- 交通の記録、決済の明細、勤務の記録など、別系統の資料との重なり。
- 同じ場面について残っているほかの写真やメッセージ。
- その資料を同じ時期に見聞きした人がいるかどうか。
一つひとつは決め手にならなくても、別々の経路で残った記録が同じ方向を指していること自体が、後から作ることの難しい事情になります。なお、元のデータは撮り直しや転送で失われやすく、そのままの形で保管しておくことが前提になります。保存の具体的な手順は、証拠の集め方を扱った記事をご覧ください。
来歴情報や判定ツールはどこまで頼れるか
技術の側にも、真正性を示すための仕組みが用意されつつあります。ただし、期待できる範囲は限られます。
付いていれば手がかりになるが、無いことは何も示さない
撮影や編集の履歴を署名付きで記録し、後から確認できるようにする国際的な規格があり、対応した機器やサービスで扱われたものには、この来歴情報が残ることがあります。もっとも、SNSに投稿する際の圧縮などで欠落することが実証結果として報告されています。来歴情報が付いていないことは、その資料が作られたものであることを意味しません。
判定ツールの結果をそのまま持ち出さない
AIによって作られたかどうかを判定するとされるツールもありますが、判断の根拠を説明しにくく、誤った結果も報告されています。提供する側自身が、信号が検出されないことをAI生成でないことの証明としては扱わない旨を説明している例もあります。補助的な位置づけと考えておくのが安全です。
話し合いの段階で気をつけたいこと
訴訟の前の段階でも、進め方によって後の見え方が変わります。
- 相手の言い分が、どの型の主張なのかを聞き取っておく。
- 元のデータは加工せずそのまま保管し、渡すのは複製にとどめる。
- 求められるまま一式を渡さず、示す範囲は目的から考える。
- 相手の返答は、後から確認できる形で残しておく。
- 根拠を示さずに作り物だと述べているだけなら、その根拠を尋ねてみる。
- 出所を自分でも説明できない資料は、無理に前面に出さないという判断もある。
訴訟になった場合の扱い
裁判所に出す段階では、手続の決まりがいくつか関わってきます。
写真や録音は文書に準ずるものとして扱われる
写真や録音、録画は、民事訴訟法231条によって文書に準ずるものとされ、書証の規定が準用されます。提出の際には、何を、いつ、どこで撮影または録音したものかを明らかにすることが求められます。提出の実務は、写真や録音を扱った記事で詳しく整理しています。
成立を争う側にも、理由の説明が求められる
民事訴訟規則145条は、文書の成立を否認するときはその理由を明らかにしなければならないと定めています。作り物だと述べるだけで足りるわけではなく、なぜそう考えるのかを示すことが求められます。さらに民事訴訟法230条1項は、故意または重大な過失によって真実に反して成立を争った場合に過料の定めを置いています。実際に用いられる例は多くないとされますが、根拠のない否認が想定されていないことは、条文の作りからうかがえます。
鑑定や検証で決着するとは限らない
鑑定や検証といった手続はありますが、AIによる生成かどうかを見分ける方法が確立しているとは言い難く、費用と時間もかかります。真贋が正面から争われた場合でも、実際には出所や周辺の記録の積み重ねで判断されることが多いのが実情です。
逆に、身に覚えのない画像を示された場合
同じ枠組みは、示された側にも当てはまります。自分に覚えのない画像を突きつけられたときも、「AIで作られたものだ」と述べるだけでは受け入れられにくく、その時間に別の場所にいたこと、画面の作りに不自然な点があること、資料の出所が示されていないことなど、具体的な事情を挙げていくことになります。
感情的な否定を繰り返すよりも、どの点をどのような理由で争うのかを整理して示すほうが、結果として通りやすくなります。この点は、請求を受けた側の反論を扱った記事でも触れています。
よくあるご質問
ご相談の中で多いものを3つ挙げます。
相手が「AIだ」と言うだけで何も示してきません
話し合いの段階では、相手に説明の義務があるわけではありません。ただし、こちら側の資料の出所や経緯を整えておけば、同じ言い分が繰り返されても評価は変わってきます。訴訟になれば、争う側にも理由を明らかにすることが求められます。
元のデータが手元にありません
元データがないことだけで使えなくなるわけではありません。入手の経緯を具体的に説明できるか、ほかの記録と重なるかによって評価が分かれます。取得できる可能性が残っている記録がないかを、早い段階で確認しておくとよいでしょう。
相手に元のデータを渡してよいですか
渡す必要があるかは、目的と相手の立場によります。渡す場合でも原本は手元に残し、複製を渡すのが基本です。渡したあとの扱いを取り決めずに応じると、別の問題につながることがあります。
まとめ
この記事の要点を整理します。
- 「AIで作ったものだ」という言い分は、真贋を争うものと、責任を否定するものに分かれる。
- 真贋を争う言い分も、全体が作り物か、一部の加工か、出所が不明かで、示すべきものが変わる。
- 判断の手がかりは資料の中よりも外にあり、本来あるはずの表示と出所の説明が見られている。
- 切り抜きだけを示すと、かえって加工を疑わせる事情になり得る。
- 元データ、入手経路、別系統の記録の重なりが、後から作ることの難しい事情として働く。
- 来歴情報は付いていれば手がかりになるが、無いことは何も示さない。
- 訴訟では、成立を争う側にも理由を明らかにすることが求められる。
ご相談について
手元の資料について「AIで作ったものだ」と言われている場合、そのまま押し問答を続けるよりも、どの材料をどの順序で示すかを整理したほうが早く進むことがあります。逆に、身に覚えのない資料を示されている場合も、争い方の組み立てによって受け止められ方が変わります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、こうした場面でのご相談を承っています。資料の扱いに迷う段階でも、お早めにご相談ください。


