誓約書の「罰金100万円」は本当に払う義務がある?法的効力を検証
この記事は、2026年10月時点の民法、刑法(2023年改正後の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪を含む)、弁護士法に基づいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的な対応は弁護士にご相談ください。
風俗店の利用をめぐるトラブルで示談の話が進むと、「示談の場には店長が来るだけで、女の子本人は来ないと言われました。それで大丈夫なのでしょうか」というご相談をいただくことがあります。反対に、「本人と直接会って話をつけたいが、それを求めてよいのか」と迷われる方もいます。
結論からいえば、女性本人が示談の席に来ないこと自体は、珍しいことでも、それだけで直ちに問題になることでもありません。気をつけたいのは、本人が来ないことによって「女性本人がこの示談に合意しているのか」を確かめる手段がなくなってしまうことです。この記事では、本人不在の示談で何が問題になり得るのか、本人に会わずに意思を確かめる方法、注意したい場面を整理します。
女性本人が示談の席に来ないのは珍しいことではない
刑事事件の示談では、加害者とされる側と被害を訴える側が直接顔を合わせないまま進むことが一般的です。弁護士が間に入り、書面のやり取りで条件を詰めていく形がよくとられます。風俗トラブルでも、店長やスタッフが窓口になり、女性本人は表に出てこないという進み方が多く見られます。
本人が来ない理由として考えられること
- 被害を訴えている相手と再び顔を合わせることに、不安や抵抗がある。
- 本名や連絡先、住まいの地域などを客に知られたくない。
- 店が窓口を一本化し、女性を交渉の場から外している。
- すでに店を辞めている、または店と連絡がつきにくくなっている。
- 女性本人が、示談の話が進んでいること自体を詳しく知らされていない。
最初の三つは、女性の立場からすれば無理もない事情です。一方、最後の二つにあたる場合は、店との間で話がまとまっても、女性本人の意思が示談に反映されていないおそれがあります。本人が来ない理由がどれなのかは、客の側からは見えにくいため、来ないことそのものよりも「本人の意思がどこに表れているか」を確かめることが大切になります。
問題になり得るのは「本人の意思を確かめられない」こと
本人が同席しなくても、本人の意思が書面などで確認できれば、示談としての意味は十分に持ち得ます。反対に、店の口頭の説明しかない場合は、後から本人が「聞いていない」と言ったときに、合意があったことを示すのが難しくなります。
| 示談の場の状況 | 本人の意思の表れ方 | 確かめておきたいこと |
|---|---|---|
| 店長が「本人も了承している」と口頭で説明する | 店の説明だけ | 書面に本人の関与が何も残らない点 |
| 店が本人の委任状を持ってきた | 委任状 | 本人の自署か、何を任せているか |
| 「本人の署名は後日もらう」と言われた | まだ予定の段階 | 署名入りの書面が届くまでの支払いの扱い |
| 本人の代理人弁護士が出席する | 弁護士への委任 | 示談書の当事者が本人になっているか |
民事の面で問題になること
示談は、当事者が互いに譲り合って争いを終わらせる契約です(民法695条)。店が女性に代わって合意する場合、その合意が女性本人に効力を持つのは、店に代理する権限が実際にあったときです(民法99条)。権限がないまま合意した場合は、本人が後から認めない限り、本人には効力が及びません(民法113条1項)。店との合意に意味がないわけではありませんが、店との清算が女性本人の請求まで当然に止めるとは限らないことは押さえておく必要があります。書面の当事者の読み方は、【風俗トラブル】示談書に女性本人の名前がない場合、何が問題になる?で詳しく取り上げています。
刑事の面で問題になること
被害届を出すかどうか、処罰を求めるかどうかを決めるのは、被害を受けたと主張する女性本人です。不同意性交等罪(刑法177条)や不同意わいせつ罪(刑法176条)は告訴がなくても起訴できる罪であり、示談が成立していることは、処分を決める際に考慮される大切な事情の一つという位置づけです。そのため、本人が許している(宥恕している)ことが本人の言葉で示されているかどうかが、示談の重みを左右します。この点は【風俗トラブル】示談書に「女性は被害届を出さない」と入れておけば安心?もあわせてご覧ください。
本人に来てもらうよう求めるべきか
本人の意思を確かめたいからといって、本人の同席を強く求めることが望ましいとは限りません。被害を訴えている相手と対面すると、話し合いが感情的になりやすく、その場での言動が新たな問題として取り上げられることもあります。客の側が会いたいと求めること自体が、女性にとって圧力と受け取られる場合もあるでしょう。
示談の目的は、本人の意思を確かな形で残すことです。それは、本人が同席しなくても実現できます。本人に連絡先を尋ねたり、店を通さずに直接接触しようとしたりすることは控え、次に挙げるような方法で意思を確認するのが穏当です。加害者とされる側が被害者に直接連絡することの問題点は、性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由でも解説しています。
本人が来ない示談で、本人の意思を確かめる方法
示談書に本人の署名をもらう
示談書を先に店と客の間で作成し、女性本人に署名してもらってから客に戻してもらう、という進め方があります。書面を持ち回りにすることで、本人と客が顔を合わせずに済みます。この場合、本人の署名欄が空いたままの書面で支払いを終えてしまわないよう、支払いの時期を署名と結びつけておくことが考えられます。
本人の委任状を確認する
店が女性の代わりに合意するのであれば、女性本人から委任を受けていることを示す書面の提示を求める方法があります。確認したい点は次のとおりです。
- 委任状に女性本人の署名があること。
- 示談の交渉、示談金の受け取り、処罰を求めない意思の表明など、任せている内容が具体的に書かれていること。
- 示談書の当事者欄に「女性本人の代理人として」店が署名する形になっていること。
本名の扱いが問題になる場合は、写しの交付を求めず、弁護士がその場で確認するにとどめるといった配慮も考えられます。
弁護士が間に入り、本人確認を代理人限りで行う
客の側に弁護士が付けば、女性側の代理人や店と連絡を取り、本人の意思を確認したうえで、本人の署名入りの合意書にまとめることができます。女性の本名を客に知らせず、代理人の間だけで扱う方法がとられることもあります。詳しくは本名を明かさずに示談できるか|代理人限りでの合意の可否をご覧ください。当事務所でも、店を通じた請求の場面で、キャスト本人の署名入り合意書を取り交わして解決した例があります(【解決事例】デリヘルで罰金100万円を請求された|借用書への署名前に相談し、キャスト本人の署名入り合意書で解決)。
支払いの方法と記録を整える
示談金を誰に、いつ、どの方法で渡したかは、後から本人に請求された場合の説明にかかわります。振込であれば記録が残り、現金であれば受領書を受け取っておくことが大切です。詳しくは示談金の渡し方|振込名義・領収・受領証で残すべきもので整理しています。
店だけで話を進めようとするときに注意したい場面
多くの店は、女性の意向を踏まえて誠実に対応していると考えられます。ただ、次のような事情が重なる場合は、本人の意思がどこまで反映されているかを慎重に見ておいたほうがよいでしょう。
- 女性本人の存在や意向を確かめる手段が、店の説明以外に何もない。
- 「今日中に」「この場で」と、確認の時間をとらせずに結論を急がせる。
- 連絡のたびに金額や条件が変わる。
- 示談金を店が受け取り、本人にどう渡るのかの説明がない。
- 「警察には言わない」という店の約束だけで話をまとめようとする。
弁護士ドットコムの相談にも、店長と電話で話して指定の口座に振り込むことで話がつき、女性には店から渡して納得してもらうと口頭で説明された、という例が見られます。こうした進め方では、本人の意思が書面に残らないまま終わってしまいがちです。
また、2026年2月には、弁護士でない風俗店の店長らが、従業員の女性に代わって客と示談交渉をし、示談金を受け取ったなどとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事務を扱うことは、弁護士法72条で禁じられています。店の関与がこれにあたるかは個別の事情によりますが、考え方は店がキャストに代わって示談交渉をしてよいのか|非弁行為という視点で解説しています。
すでに本人不在のまま示談してしまった場合
本人が来ないまま店と示談を済ませていても、その示談が無意味になるわけではありません。まずは手元の示談書で当事者と文言を確かめ、支払いの記録ややり取りの記録を保存しておくことが出発点になります。そのうえで、本人の意思が書面上はっきりしない場合は、弁護士を通じて本人との合意をあらためて確認する方法が考えられます。後から本人の側から別の請求が来た場合の考え方は、【風俗トラブル】店と示談したのに、女の子本人から別に請求されることはある?で取り上げています。
不安から女性本人に直接連絡を取ろうとしたり、求められるまま追加で支払ったりすると、かえって状況が複雑になることがあります。動く前に、すでにある合意がどこまでを対象にしているかを整理しておくことをお勧めします。
よくあるご質問
女性本人に会って直接謝りたいのですが、申し出てもよいですか?
謝罪の気持ちがあること自体は大切です。ただ、被害を訴えている相手に会うことを求めると、相手の負担になったり、新たな誤解を生んだりすることがあります。謝罪の意思は、謝罪文を弁護士や店を通じて届けるといった形で伝えることも考えられます。
店から「本人は来ないが、店が全部責任を持つ」と言われました。信じてよいですか?
店が本人と十分に話をしている可能性はあります。ただ、店の約束は店の約束であり、女性本人の判断を代わりに縛るものではありません。本人の署名や委任状など、本人の意思が書面で確認できる形を求めておくと安心につながります。
本人が来ないなら、示談金を払わなくてもよいのでしょうか?
本人が来ないことだけを理由に支払いを拒むと、話し合いがこじれたり、本人が別の手段を検討したりすることにつながる場合があります。払うかどうか、いくら払うかは、事実関係と請求の中身によって判断すべきことです。本人の意思を確認できる形が整うまで支払いの時期を調整するなど、進め方を工夫することが現実的です。
まとめ
- 女性本人が示談の席に来ないこと自体は珍しくなく、それだけで直ちに問題になるわけではありません。
- 問題になり得るのは、本人の意思を確かめる手段がないまま示談が終わってしまうことです。
- 店が代わりに合意しても、代理する権限がなければ本人が認めない限り効力は及びません(民法99条、113条1項)。
- 不同意性交等罪などは告訴がなくても起訴でき、本人が許していることが本人の言葉で示されているかが示談の重みを左右します。
- 本人の同席を強く求めるよりも、本人の署名、委任状、弁護士による本人確認といった方法で意思を残すのが穏当です。
- 店が報酬目的で女性に代わって示談交渉をしている場合は、弁護士法72条との関係が問題になることがあります。
女性本人が来ない示談では、「誰がどこまで合意しているのか」が見えにくくなりがちです。示談の席に誰が来るのか分からない段階でも、すでに店とだけ話をまとめてしまった後でも、書面と支払いの整え方を一緒に確認することができます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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