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風俗店の利用で金銭トラブルになりやすいのが、「チェンジ料」「キャンセル料」「延長料金」の3つです。
いずれも数千円から数万円程度で収まることが多い一方、「聞いていない金額を請求された」「払わないと帰さないと言われた」「後日になって店から着信が続いている」といった形でこじれると、当事者だけでは収拾がつかなくなります。
この3つは、日常的にはひとまとめに「風俗の料金トラブル」と呼ばれますが、法律上の性質はそれぞれ異なります。性質が違えば、支払義務が生じる条件も、争うときの筋道も変わります。
このコラムでは、請求を受けた利用客の立場から、3つの費目それぞれについて支払義務がどう判断されるのかを整理します。なお、以下は一般的な考え方であり、実際の結論は契約内容や事実関係によって変わります。
3つの料金は、法律上の性質が違う
まず前提を整理します。
| 費目 | 法律上の位置づけ | 主な争点 |
|---|---|---|
| キャンセル料 | 成立した契約を客の都合で反故にしたことによる損害賠償・違約金 | 契約は成立していたか/金額は妥当か |
| チェンジ料 | 店が任意に用意した「交代を認める制度」の対価 | 事前に条件が示されていたか |
| 延長料金 | 当初の契約に上乗せされる新たな追加契約の対価 | 延長の合意があったか/単価は示されていたか |
ここから導かれる出発点は2つです。
ひとつは、「請求されている金額=支払義務がある金額」ではないということ。もうひとつは、「規約を読んでいない」「聞いていない」というだけで一切払わなくてよくなるわけでもないということです。実務ではこの中間に答えがあることが多く、どちらかに決めつけた対応が最も損をします。
キャンセル料|出発点は「予約した時点で契約が成立している」こと
予約の電話を切った時点で契約は成立する
契約は、申込みに対して相手方が承諾したときに成立し、書面がなくても成立します(民法522条)。
風俗店の予約も同じです。「◯月◯日◯時から◯分コース、◯◯さんの指名で、料金は◯円」という内容がやり取りで固まれば、その時点で契約が成立していると考えられます。電話予約なら電話を切ったとき、Web予約なら予約ボタンを押したときが目安です。
逆にいえば、料金や日時が決まらないまま問い合わせただけの段階であれば、契約が成立していないという主張の余地があります。
自己都合のキャンセルは債務不履行にあたりうる
成立した契約を一方の都合で履行しなければ、それによって生じた損害を賠償する責任が発生します(民法415条)。連絡を入れずに放置する、いわゆる無断キャンセルもこれに含まれます。
したがって、「キャンセル料という名目の支払義務があるか」という問いと、「店に生じた損害を賠償する責任があるか」という問いは、別の問いです。前者を否定できても、後者が残ることは珍しくありません。
「規約に書いてあるだけ」の金額に拘束されるか
多くの店は、ホームページや利用規約でキャンセル料の割合を定めています。あらかじめ損害賠償の額を決めておく合意は有効で、違約金の定めは賠償額の予定と推定されます(民法420条)。したがって、その定めが契約の内容になっていれば、実際の損害額を立証しなくても、その金額を請求できるのが原則です。
問題は、その定めが契約の内容になっていたといえるかです。不特定多数を相手に画一的な内容で行われる取引の約款については、あらかじめ約款を契約の内容とする旨が表示されていれば個別の条項にも合意したとみなされる一方、相手方の利益を一方的に害する条項は合意しなかったものとみなされます(民法548条の2)。
予約時にキャンセル規定の説明が一切なく、規約の存在も示されていなかったという事情があれば、規定された金額にそのまま拘束されるとはいえない、という主張の余地が出てきます。
上限は「平均的な損害」
仮に定めが有効でも、金額に上限があります。
消費者契約の解除に伴う損害賠償額や違約金を定める条項は、同種の契約の解除にあたり事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効とされます(消費者契約法9条1項1号)。あわせて、遅延損害金についても年14.6%を超える部分は無効です(同項2号)。
さらに2022年の改正(2023年6月施行)で、事業者は、消費者から求められたときは違約金の算定根拠の概要を説明するよう努める義務を負うことになりました(同法9条2項)。努力義務であって強制ではありませんが、「なぜその金額になるのか、根拠の説明をお願いします」と書面で求めること自体には法的な裏づけがあります。金額の妥当性を争う際の、穏当で有効な入口です。
なお、賠償の対象は通常生ずべき損害に限られます(民法416条)。キャンセルによって店が現実に失うものは、コース料金相当額と、キャストの移動にかかった実費が中心と考えられます。それを大きく超える「迷惑料」「営業妨害料」といった上乗せは、根拠を確認すべき部分です。
店側に先に落ち度がある場合
客側の都合ではなく、店側の事情でキャンセルに至った場合は、話が逆になります。
- キャストが予約時刻を大幅に過ぎても到着しない
- 掲載写真とは明らかに別人が来た
こうした場合、店が契約どおりの履行をしていないと評価できる余地があり、客側からの解除は正当な権利行使にあたりうるため(民法541条・542条)、キャンセル料や損害賠償の義務を負わないと考えられます。何分の遅刻から「大幅」といえるかについて確立した基準はなく、事案ごとの判断になりますが、移動時間を考慮してもなお常識的な範囲を超えた待機を強いられたかどうかが目安になります。
チェンジ料|法律上の制度ではなく、店が用意したルール
チェンジは、法律に根拠のある制度ではありません。店が集客のために任意で用意しているルールです。したがって、無料か有料か、何回まで認めるか、指名時は不可とするかは、店ごとの取り決めに委ねられます。
判断の軸は「事前に示されていたか」
チェンジ料についても、考え方はキャンセル料と同じです。
料金表や案内であらかじめ金額が示されており、それを前提に利用した以上は、合意の範囲内の請求として支払義務が認められやすくなります。反対に、事前の案内になく、チェンジを申し出た後になって初めて金額を告げられたのであれば、その金額について合意があったとはいいにくくなります。
金額が争いになったときは、当日その場で確認できる料金表の掲示や、予約時のやり取りの記録が判断材料になります。
「写真と著しく違う」はチェンジの問題ではない
ここは切り分けが必要です。
好みに合わなかったので交代してほしい、というのは店のサービスの利用であり、所定のチェンジ料が発生することに不合理はありません。
一方、掲載写真とまったく別人が来たという場合は、店が契約どおりの履行をしていない可能性の問題です。この場合に問われるべきは「チェンジ料を払うか」ではなく「そもそも契約を解除できるのではないか」という点であり、費目の名前に引きずられて交渉すると不利になります。
費用が重なる請求には内訳の確認を
チェンジをしたうえで結局利用しなかった場合に、チェンジ料・キャンセル料・交通費が同時に請求されることがあります。それぞれ性質の異なる費目ですから、まとめて総額で提示されたときは、内訳と根拠の説明を求めるのが自然な対応です。
延長料金|争点は「延長の合意があったか」に集約される
延長は、当初の契約に上乗せされる新たな追加契約です。したがって、支払義務があるかどうかは、ほぼ「合意があったか」の一点にかかります。確認すべきは次の3つです。
1. 延長の意思表示があったか
明示的に「延長します」と伝えた場合はもちろん、終了時刻を過ぎることを認識しながらサービスの提供を受け続けた場合には、黙示の合意があったと評価される余地があります。「言った覚えはない」という主張だけで押し通すのは容易ではありません。
反対に、終了を告げられないまま時間が経過していた、延長する意思を明確に断ったのに続けられた、といった事情があれば、合意の存在自体を争う余地があります。
2. 単価が事前に示されていたか
料金表に「延長30分◯円」と明示されていれば、その単価での合意と評価しやすくなります。事前の表示がなく、終了後に単価を告げられた場合は、その金額での合意があったとはいいにくくなります。
3. 実際に何分超過したのか
延長料金は超過時間に対する対価ですから、時間の認識がずれていれば金額もずれます。入室・退室の時刻など、時間の手がかりになる記録は残しておく価値があります。
酔っていた場合の扱い
「酔っていたので延長を承諾した記憶が曖昧だ」という相談は少なくありません。ただし、判断能力を欠くほどの泥酔でない限り、飲酒していたことだけを理由に合意が無効になるわけではないのが原則です。飲酒した状態での高額なオプションや延長の承諾は、後から覆すのが難しい類型だと考えておいたほうが安全です。
極端に高額な後出し請求は、別の問題
一方、表示された料金と桁が違う金額を後から提示する、支払うまで退去させないといった対応は、料金の合意という枠を超えています。この場合は延長の合意の問題ではなく、不当な取立ての問題として整理すべきです。この点は別のコラムで扱います。
支払義務の有無を分ける5つのチェックポイント
3つの費目に共通する確認事項をまとめます。
- 合意はあったか:いつ、いくらで、どの費目について合意したといえるか
- 事前に示されていたか:料金表や規約が、利用前に確認できる形で示されていたか
- 金額は妥当か:店に生じる平均的な損害を超えていないか。超える部分は無効となりうる
- 店側に先に落ち度がなかったか:大幅な遅刻や別人の派遣など、店の不履行が先行していないか
- 求め方は適正か:畏怖して支払ったからといって、支払義務があったと確定するわけではない
なお、本番行為など違法な内容を前提とする合意については、その部分が公序良俗に反して無効と評価される余地があり(民法90条)、それを根拠とする違約金請求は成り立ちにくいと考えられます。ただし、無効であることは、すでに支払った金銭を取り戻す場面ではむしろ不利に働きうる点(民法708条)に注意が必要です。
請求を受けたときの実務的な対応
その場で避けたほうがよいこと
- 内容を理解しないまま示された書面にサインすること
- 提示された金額をその場で全額支払うこと、暗証番号を入力すること
- 「話が違う」と感情的に押し問答を続け、長時間その場にとどまること
金額の当否は、後から冷静に検討できます。その場で決着させる必要はありません。
残しておく記録
- 店のホームページの料金表・キャンセル規定・チェンジ規定の画面(日時がわかる形で)
- 予約時の通話履歴、メッセージのやり取り
- 入室・退室の時刻、支払いの記録(レシート、明細)
- 請求の経緯についての自分のメモ
一方、その場にいた相手を無断で撮影する行為は、それ自体が別の法的問題を生みます。記録を残す目的であっても行うべきではありません。
無視すればよいのか
少額の請求について、店が実際に訴訟まで起こす例が多いとはいえません。ただし、顧問弁護士がついている店であれば、弁護士会照会という手続で電話番号から契約者を調べたうえで、書面や訴状が自宅に届く可能性はゼロではありません。「連絡を絶てば終わる」という前提で動くのは、リスクの見積もりとしては楽観的です。
支払義務があると考えられる範囲については、早めに解決したほうが結果的に負担が軽くなります。無断キャンセルそのもののリスクについては、別のコラムで詳しく扱っています。
求め方を誤ると、立場が入れ替わる
金額に納得がいかない場合でも、対応の仕方によっては、こちらが責任を問われる側に回ります。
- 支払いを拒んで店舗や部屋から退去しない(不退去罪・刑法130条後段)
- 執拗な電話や来店で業務を妨げる(威力業務妨害罪・刑法234条)
- 事実と異なる内容を口コミなどに書き込む(名誉毀損罪・刑法230条など)
- 「ネットに晒す」などと告げて要求を通そうとする(脅迫罪・刑法222条、恐喝罪・刑法249条)
主張の中身が正しくても、通し方を誤れば守れるはずのものが守れなくなります。
反対に、店側の請求方法が、支払うまで帰らせない、勤務先に連絡すると告げるといった態様に及んでいる場合は、こちら側が被害者の立場に立ちます。その場では安全の確保を優先し、必要に応じて警察や弁護士に相談してください。
まとめ
- チェンジ料・キャンセル料・延長料金は、法律上の性質が異なり、判断の筋道も異なる
- キャンセル料は、予約時点の契約成立が出発点。ただし金額は「平均的な損害」を超える部分が無効となりうる
- チェンジ料と延長料金は、事前の表示と合意の有無が争点になる
- 店側に先に落ち度がある場合は、支払義務を負わない余地がある
- 請求額と支払義務のある額は一致するとは限らないが、無視すれば終わるとも限らない
金額が大きい、支払いを強く迫られている、家族や職場に知られることを避けたい――こうした事情があるときは、その場で判断せず、記録を持ったうえで弁護士にご相談ください。


