風俗トラブルは相談のタイミングが命|早いほど有利になる理由
この記事は、2026年10月時点の刑法・刑事訴訟法・民法・弁護士法の規定をもとに、風俗店を利用した客の側から、女性に「顔を叩かれた」と言われた場面を整理したものです。刑法の法定刑は、2025年6月1日施行の改正(拘禁刑の導入)を反映しています。
「プレイ中に顔を叩かれたと女の子が言っている」と店から電話があった。「体勢を変えたときに手が当たっただけなのに、暴行だと言われている」。風俗店を利用した後、このようなご相談をいただくことがあります。ご本人にそのつもりがなかったとしても、女性が痛みや恐怖を感じたと訴えている以上、店から慰謝料や治療費、罰金を求められたり、「被害届を出す」と告げられたりすることがあります。
一方で、「そんなつもりはなかった」という事情が法律上どのような意味を持つのかは、場面によって大きく異なります。この記事では、暴行罪・傷害罪が成立する場面と、民事上の賠償や店の規約との違いを分けたうえで、言われた直後にしておきたいことを整理します。
「叩いた」と言われる場面には、いくつかの型がある
ひと口に「顔を叩かれた」と言っても、実際にあった出来事はさまざまです。ご相談の中でみられるのは、たとえば次のような場面です。
- 体勢を変えたり抱き寄せたりした拍子に、手や腕が女性の顔に当たった場面。
- 盛り上がった流れで、ふざけて頬を軽くはたいた場面。
- お尻を軽く叩くなど、プレイの一部のつもりでした行為の延長で、手が顔に及んだ場面。
- 女性の手を払いのけたり、取られたスマートフォンを取り返そうとしたりしたときに、手が当たった場面。
- 叩いた記憶がなく、何を指して言われているのか分からない場面。
どの型に当たるかによって、刑事上の責任の考え方も、示談に向けた進め方も変わります。まずは自分の記憶の中で何があったのかを、できるだけ具体的に思い出すことが出発点になります。身に覚えがまったくない場合の考え方は、【風俗トラブル】キャストに怪我をさせたと言われたが身に覚えがないでも解説しています。
暴行罪・傷害罪は、どのような場合に成立するのか
暴行罪と傷害罪の違い
暴行罪(刑法208条)は、人の身体に不法に力を加え、けがには至らなかった場合に成立する罪です。顔を叩く行為は、典型的な「暴行」に当たります。叩いた結果、女性がけがをした場合は、傷害罪(同法204条)の問題になります。
| 罪名 | 成立する場面 | 法定刑 | 公訴時効 |
|---|---|---|---|
| 暴行罪(刑法208条) | 故意に身体へ力を加え、けがに至らなかった場合 | 2年以下の拘禁刑、30万円以下の罰金、拘留または科料 | 3年 |
| 傷害罪(刑法204条) | 暴行によって、けがを負わせた場合 | 15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 | 10年 |
| 過失傷害罪(刑法209条) | 不注意によって、けがを負わせた場合 | 30万円以下の罰金または科料 | 3年 |
暴行罪と傷害罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる罪です。一方、過失傷害罪は、告訴がなければ起訴できないとされています(刑法209条2項)。
「そんなつもりはなかった」が意味を持つ場面
暴行罪が成立するには、人の身体に力を加えることについての故意が必要です。そのため、体勢を変えた拍子に手が当たったなど、相手の身体に力を加えるという認識そのものがなかった場合は、暴行罪は成立しないと考えられます。この場合、けががなければ刑事上の罪には当たらず、けががあったとしても過失傷害罪の問題にとどまる可能性があります。
もっとも、偶然に当たったのかどうかは、最終的には周りの事情から判断されます。当たった位置や強さ、その前後のやり取り、当たった後の態度などが手がかりになるため、「わざとではない」と言うだけでなく、その説明を裏づける経緯を整理しておくことが大切です。
「痛めつけるつもりはなかった」だけでは足りない場面
注意したいのは、「叩くつもりはあったが、痛い思いをさせるつもりはなかった」という場合です。暴行罪の故意は、相手の身体に力を加えることを認識していれば足り、痛みや恐怖を与える意図までは求められないと考えられています。ふざけて頬を軽くはたいたという場合、ご本人の感覚としては冗談のつもりでも、暴行に当たり得ることになります。
また、傷害罪は、暴行の故意があれば、けがをさせるつもりがなくても成立し得る罪です。「けがをさせるとは思わなかった」という事情は、罪の成立を否定する理由にはなりにくく、処分や示談の内容を考える際の事情として扱われることが多いといえます。
プレイの一部として叩いた場合
女性から求められた場合や、店のサービス内容として叩く行為が予定されていた場合は、女性の同意の範囲内であったかどうかが問題になります。同意がある場合でも、同意の有無だけで決まるのではなく、行為の目的や方法、身体のどの部分にどの程度の力が加わったかなども含めて判断されると考えられています。
お尻を軽く叩くことが同意の範囲に入っていたとしても、顔は別に扱われることが多く、女性が嫌がる様子を見せた後も続けた行為は、同意の範囲を外れたと評価されるおそれがあります。SM系のサービスでの考え方は、【風俗トラブル】SMクラブで「怪我をさせられた」と言われた|同意の範囲と責任で詳しく解説しています。
刑事・民事・店の規約は分けて考える
店や女性から求められる金銭には、性質の異なるものが混ざっていることがあります。「そんなつもりはなかった」という事情がどこまで意味を持つかも、それぞれで異なります。
| 問われる場面 | 主な根拠 | 「そんなつもりはなかった」の意味 |
|---|---|---|
| 刑事上の責任 | 刑法208条・204条・209条 | 暴行の故意がなければ、暴行罪・傷害罪は成立しない |
| 民事上の賠償(慰謝料・治療費など) | 民法709条・710条 | 不注意によるものでも責任を負うことがあり、主に金額の判断に影響する |
| 店の規約に基づく罰金 | 店と客との間の約束 | 規約の内容と、利用前に示されていたかどうかが問題になる |
民事上の損害賠償は、故意だけでなく過失によって他人の身体を傷つけた場合にも認められます(民法709条)。そのため、刑事上の罪に当たらない場面でも、女性にけがや精神的な苦痛が生じていれば、一定の賠償が問題になることはあります。ただし、求められた金額がそのまま認められるわけではなく、けがの程度や治療の期間、行為に至った経緯、女性側の事情(民法722条2項)などを踏まえて判断されます。慰謝料の考え方は【風俗トラブル】女性を傷つけたとして「慰謝料」を求められたら、払う必要はある?を、診断書を示された場合の見方は【風俗トラブル】キャストの診断書を見せられた|怪我や体調不良を理由にした請求をご覧ください。
また、店の担当者が女性に代わって慰謝料の交渉を取り仕切っている場合は、女性本人の意思に基づく請求なのかを確かめる必要があります。弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事務を扱うことは、弁護士法72条との関係で問題となり得るためです。
言われた直後にしておきたいこと
事実と違う内容の書面に署名しない
その場で店のスタッフから、「女性の顔を叩いたことを認めます」といった念書や、金額の入った誓約書への署名を求められることがあります。署名した書面は、後の交渉や捜査の場面で、こちらが行為を認めた証拠として扱われるおそれがあります。手が当たったこと自体は事実でも、「叩いた」という言葉が自分の認識と違う場合は、内容を確かめないまま署名することは避け、「弁護士に相談してから回答します」と伝えて持ち帰ることを検討してください。
謝ることと、認めることを分けて考える
女性が痛い思いをしたこと自体に対して、お詫びの気持ちを伝えたいと考える方は少なくありません。ただ、その場の謝罪の言葉が、後から「叩いたことを認めた」と受け取られることもあります。「当たってしまって痛い思いをさせたのなら申し訳ない」というように、何について謝るのかを自分の認識に沿って区切っておくと、気持ちと事実関係とを混同せずに済みます。
記憶が新しいうちに経緯を書き留める
時間がたつと、細かな経緯は思い出しにくくなります。当日のうちに、次のような点をメモに残しておくと、後で事実関係を説明する際の支えになります。
- 入室から退室までの時間の流れ。
- どのような体勢で、どちらの手が、顔のどのあたりに当たったのか。
- 当たった直後の女性の反応と、自分がかけた言葉。
- その後もサービスが続いたのか、その場で中断したのか。
- 店のスタッフとのやり取りの内容と、求められた金額や書面。
店や女性とのメッセージ、着信履歴、予約の記録なども、消さずに残しておいてください。
けがの有無と程度を確かめる
女性にけががあるのか、あるとすればどの程度なのかは、問題となる罪名や賠償の額を大きく左右します。診断書が示された場合は、作成日や受診日、記載された傷病名や治療の見込み期間が、利用した日時や手が当たった位置と合っているかを確かめることになります。こうした確認は、相手方と直接やり取りするよりも、代理人を通じて進めた方が冷静に行えることが多いでしょう。
被害届が出された場合の流れ
暴行罪や傷害罪は告訴がなくても捜査の対象になる罪であり、女性が警察に被害を申告すれば、捜査が始まる可能性があります。多くの場合、まずは警察から電話などで連絡があり、任意で事情を聴かれることになります。このとき話した内容は供述調書にまとめられ、後の処分を判断する材料になります。
事情を聴かれる前に弁護士に相談しておくと、自分の記憶のどこが確かで、どこがあいまいなのかを整理したうえで臨むことができます。被害届が出された後の流れは【風俗トラブル】被害届が受理されたと言われた|その後の流れと呼び出しまでの期間で、届が出される前にできることは【風俗トラブル】店から「警察に行く」と言われた翌日にすること|被害届が出る前の時間で解説しています。
なお、暴行罪の公訴時効は3年です(刑事訴訟法250条2項6号)。数日たって連絡が来なくなったからといって、その時点で問題が終わったとは言い切れない点にも留意が必要です。
弁護士に相談すると何ができるのか
弁護士がご依頼を受けると、店や女性に対して、今後の連絡は弁護士にするよう求める通知を送り、やり取りの窓口を一本にします。そのうえで、ご本人の記憶や残っている記録をもとに、偶然当たったものとして事実関係を争うのか、行為があったことを前提に示談を目指すのかを、見通しを踏まえて一緒に検討します。
示談を目指す場合は、請求の名目と金額の根拠を確かめ、女性本人の意思を確認したうえで、被害届についての意向や今後の接触をしないことなどを書面に盛り込む形で解決を図ります。被害届が出た後でも、示談が成立したことが処分の判断で考慮されることはあります。当事務所が扱った例として、【解決事例】デリヘル利用後にキャストの怪我を主張された男性が、店舗との合意書締結で解決した事例もあわせてご覧ください。自分で交渉するか迷う場合は、【風俗トラブル】店との交渉を自分でするか弁護士に任せるか|分かれ目になる5つの事情も参考になります。
まとめ
- 顔を叩く行為は暴行罪(刑法208条)に当たり得ますが、相手の身体に力を加える認識がなく偶然に手が当たった場合は、暴行罪は成立しないと考えられます。
- 「痛めつけるつもりはなかった」という事情だけでは暴行の故意は否定されにくく、けがが生じれば傷害罪(同法204条)の問題になることがあります。
- プレイの一部であっても、顔への行為や、女性が嫌がった後も続けた行為は、同意の範囲を外れたと評価されるおそれがあります。
- 刑事上の責任、民事上の賠償、店の規約に基づく罰金は、それぞれ根拠が異なるため、分けて考える必要があります。
- その場で事実と違う書面に署名せず、記憶が新しいうちに経緯を書き留め、警察から連絡が来る前に弁護士へ相談することをおすすめします。
「叩いた」と言われた場面では、自分の認識と相手の受け止め方が食い違っていることが少なくありません。その食い違いを感情的なやり取りで埋めようとせず、何があったのかを落ち着いて整理することが、解決に向けた第一歩になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


