【風俗トラブル】示談後に女性が別の店で働いていると知った、示談に影響はある?

若井亮

若井亮

テーマ:風俗トラブル

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・刑事訴訟法に基づいて解説しています。2023年の刑法改正による不同意性交等罪・不同意わいせつ罪の新設を反映しています。


「示談金を払ったのに、相手の女性が別の店で何事もなかったように働いていた。あの示談は何だったのか」というご相談を受けることがあります。反対に、「示談が済んだのだから、相手がどこで働いていても自分には関係ないはず」と考えつつ、念のため確かめておきたいという方もいます。

 インターネット上では「示談が成立すれば終わり」と説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、示談の効力が誰との間で、何について及ぶのかは示談書の書き方によって変わり、女性の働き先が変わったことをきっかけに、確かめておいた方がよい点が見えてくることもあります。

 この記事では、風俗トラブルで示談をした後に、相手の女性が別の店で働いていると知った場面に絞って、示談への影響と、知った後に避けたい対応を整理します。示談後に追加の請求を受けた場合は示談したのに再度請求された|清算条項と蒸し返しへの対応を、示談後に警察から連絡が来た場合は【風俗トラブル】示談した後に警察から連絡が来ることはある?をご覧ください。

女性が別の店で働いていても、示談の効力は原則として変わらない

示談は争いをやめる合意で、女性の働き先は条件に入っていない

 示談は、当事者が互いに譲り合って争いをやめる合意で、法的には和解契約にあたります(民法695条)。風俗トラブルの示談書で定められるのは、一般に、示談金の額と支払方法、女性が処罰を求めない旨(宥恕)、接触禁止や口外禁止、ほかに債権債務がないことを確かめる清算条項といった内容です。

 女性がその後どの店で働くか、そもそも仕事を続けるかは、通常は示談の条件になっていません。示談書に女性の就労について定めがない限り、別の店で働いていることは、示談の成立や効力を左右する事情にはならないと考えるのが基本です。

和解には、後から蒸し返させない効力がある

 民法は、和解によって争いをやめた事項について、後から反対の証拠が出てきても、和解で定めた内容を優先させる考え方をとっています(民法696条)。たとえば「本当はそれほどの被害ではなかったのではないか」と思える事情が後から見つかっても、それだけで示談をやり直せるわけではありません。

 この効力は、利用者側にとっても意味があります。示談で定めた以外の請求を女性側から受けにくくなるのも、同じ仕組みによるものだからです。

働けていることと、精神的な苦痛は別に考えられる

 「すぐに別の店で働けるのなら、被害はなかったのではないか」と感じる方もいます。ただ、示談金の多くは精神的な苦痛に対する慰謝料の性質を持つもので(民法710条)、仕事を続けているかどうかと直接結び付くものではありません。

 生活のために働き続ける必要がある場合や、元の店に居づらくなって店を移る場合もあり、働き先が変わったことから被害の有無を推し量るのは難しいといえます。

示談の効力が問題になり得るのはどんな場面か

 原則は上のとおりですが、示談書の内容や示談に至った経緯によっては、女性が別の店で働いていると分かったことが、示談の内容を確かめ直すきっかけになる場面もあります。

場面問題になり得ること
示談の前提として「仕事を続けられなくなった」と告げられていた前提となった事情の誤りとして、錯誤や詐欺による取消しが検討される余地がある
示談金の内訳に休業補償が含まれていた金額の根拠が気になるが、和解で確定した額は原則として維持される
示談書の当事者が店だけで、女性本人が入っていない女性本人との関係では争いが終わっておらず、別に請求や申告を受ける余地が残る
示談後に女性側から追加の請求が来た清算条項の範囲で、既に解決した事項かどうかを確かめる


示談の前提となった事情が事実と違っていた

 和解の効力が及ぶのは、当事者が争いの対象とし、譲り合って決めた事項です。これに対し、示談の前提として当事者が疑わなかった事情に誤りがあった場合には、錯誤による取消し(民法95条)が問題になる余地があります。また、相手が事実と異なる説明をして示談に応じさせた場合には、詐欺による取消し(同法96条)が検討されることもあります。

 たとえば「もうこの仕事は続けられない」「しばらく働けない」と告げられ、その説明を前提に金額が決められたといった経緯がある場合です。もっとも、事情は示談の後に変わることもあり、示談の時点での説明の内容や、働き始めた時期を証拠で示す必要があるため、取消しが認められるかは個別の事情によります。別の店で働いていると分かっただけで、示談を取り消せるとは限らない点には注意が必要です。脅されて署名した場合の考え方は脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いで解説しています。

休業補償の名目で金額が決められていた

 示談金の内訳として「休業補償」が書かれている場合、女性が早い時期に別の店で働いていたと知ると、その部分は不要だったのではないかと考えたくなります。ただ、休業の期間や金額も含めて譲り合って決めた以上、和解で確定した額は原則として維持されます(民法696条)。

 返金を求められるかどうかは、前の項目で触れた前提の誤りといえる事情があるかによって判断されることになります。支払済みの金銭を取り戻せる場面については払ってしまった示談金・違約金は取り戻せるか?返金請求の可否をご参照ください。

示談書の当事者に女性本人が入っていない

 店の担当者とだけ示談書を交わしている場合、合意の効力は原則として店との間にしか及びません。女性本人が当事者に含まれていなければ、女性が店を移った後に、本人として別に請求をしたり、被害を申告したりする余地が残ります。

 女性が元の店を離れると、店を通じた連絡もしにくくなります。女性が別の店に移ったと知ったときは、示談書に誰の名前があるかを改めて確かめておくことが大切です。詳しくは【風俗トラブル】示談書に女性本人の名前がない場合、何が問題になる?で説明しています。

女性が別の店で働いていると知った後に避けたい対応

新しい店を訪ねる・女性本人に連絡する

 事情を確かめたい、ひと言伝えたいという気持ちから、新しい店を予約したり、店を通じて女性に連絡を取ろうとしたりする方もいます。しかし、多くの示談書には女性への接触を禁じる条項があり、その範囲は元の店の中に限られていないのが通常です。店が変わっても接触禁止の約束は続いており、違反すれば違約金を求められることがあります。

 また、刑事手続が進んでいる場面で、事件について話を聞き出そうとしたり、示談の内容への不満を伝えたりすれば、証人等威迫罪(刑法105条の2)が問題になるおそれもあります。確かめたいことがあっても、女性本人や新しい店に直接連絡するのは控えるのが無難です。性犯罪が問題になった事案で本人が連絡してはいけない理由は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で取り上げています。

分割払いを自分の判断で止める

 分割払いの途中で「相手が普通に働いているのなら、もう払わなくてよいのでは」と考え、支払いを止めてしまうことがあります。しかし、示談の効力が残っている以上、支払いを止めれば約束に反することになり、期限の利益喪失条項がある場合には残額の一括請求や違約金を求められることがあります。

 示談を見直したい事情があるときでも、支払いの扱いは弁護士に相談してから決めることをおすすめします。分割払いの注意点は【風俗トラブル】分割払いの示談に応じる場合|風俗トラブル固有の注意点をご参照ください。

在籍情報や示談の経緯をSNSや掲示板に書き込む

 納得できない気持ちから、女性の源氏名や新しい店名とともに、示談の経緯をインターネットに書き込むことは避けるべきです。示談書の口外禁止条項に反するほか、内容によっては名誉毀損(刑法230条)やプライバシーの侵害として、損害賠償を求められることがあります(民法709条)。書き込みをきっかけに、収まっていた問題が再び動き出すこともあります。

知ったときに整理しておきたいこと

手元の示談書で確かめる点

 まずは、示談書の控えや写真を手元に用意し、次の点を確かめます。

  • 当事者欄に女性本人の氏名と署名があるか、店だけになっていないか。
  • 示談金の名目と内訳に、休業補償など女性の就労に関わる項目が含まれているか。
  • 宥恕(処罰を求めない旨)と清算条項が入っているか。
  • 接触禁止・口外禁止の範囲と、違反したときの違約金の定め。
  • 分割払いの場合、残りの回数と期限の利益喪失の条件。


 示談書の控えが手元にない場合の考え方は【風俗トラブル】示談書の原本を店しか持っていない|控えを求めるべき理由で説明しています。

どのように知ったかを記録しておく

 別の店で働いていると知ったきっかけが、店の在籍情報、口コミサイト、知人の話のいずれなのかを、日付とともに記録しておきます。源氏名は店ごとに付けられる呼び名で、同じ源氏名の別人であったり、写真が似ているだけであったりすることもあります。

 同一人物かどうか、いつから働いているかが分からないまま結論を出さないことが、後の判断を誤らないための前提になります。

示談を見直したいときは、示談に至った経緯を弁護士に伝える

 示談の前提が事実と違っていたと考える場合には、示談の時点で何を告げられ、それを前提に何を決めたのかが判断の中心になります。メッセージのやり取りや録音があれば、それも含めて弁護士に伝えます。

 取消しを主張するかどうかは、認められる見込みと、解決した問題を再び動かすことによる負担を比べて判断することになります。示談書の当事者に女性本人が入っていない場合には、本人との間で改めて合意を整えることを検討する場面もあります。

よくあるご質問

女性が移った先の店から連絡や請求が来ることはありますか。

 新しい店は示談の当事者ではないため、示談で解決した件について、新しい店が請求する立場にあるわけではありません。もっとも、元の店と系列関係にある店どうしで情報が共有されていることもあります。系列店などから連絡が来た場合の考え方は【風俗トラブル】系列店からも連絡が来た|店同士の情報共有と請求の関係をご覧ください。

支払った示談金の一部を返してもらうことはできますか。

 女性が別の店で働いているという事情だけで、返金を求めるのは難しいのが一般的です。示談の前提として事実と異なる説明を受け、それを信じて金額を決めたといえる場合には、取消しを主張して返還を求める余地がありますが、説明の内容と働き始めた時期を証拠で示す必要があります。

女性が別の店で働いていることは、刑事手続で有利な事情になりますか。

 示談が成立し、女性本人が処罰を求めない意思を示していれば、それ自体が起訴・不起訴の判断で考慮されます(刑事訴訟法248条)。女性の働き先が変わったことで、その評価が変わるわけではありません。反対に、働き先が変わったことを理由に被害がなかったと主張しても、それだけで有利に扱われるとは言いにくいでしょう。示談の後に処罰を求める意思が示された場合については示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのかで説明しています。

まとめ


  1. 示談は当事者間の和解契約で、女性の働き先は通常、示談の条件に含まれていない(民法695条)。
  2. 和解で争いをやめた事項は、後から反対の事情が分かっても原則として覆らない(民法696条)。
  3. 示談金の多くは精神的苦痛に対する慰謝料の性質を持ち、働いているかどうかと直接結び付かない(民法710条)。
  4. 示談の前提として告げられた事情が事実と違っていた場合は、錯誤・詐欺による取消しが検討される余地がある(民法95条、96条)。
  5. 示談書の当事者が店だけの場合、女性本人が別に請求や申告をする余地が残る。
  6. 新しい店や女性本人への接触は、接触禁止条項への違反や証人等威迫罪(刑法105条の2)が問題になり得るため控える。
  7. 分割払いを自分の判断で止めたり、経緯をインターネットに書き込んだりせず、示談書を確かめたうえで弁護士に相談する。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、風俗トラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。示談書の内容の確認から、示談の見直しを検討すべきかどうかの判断、女性側や店との連絡の窓口まで、ご事情に応じて対応します。

示談の後に相手の女性が別の店で働いていると知って不安を感じている方、示談書の当事者や条項に気がかりな点がある方は、新しい店や女性本人に連絡する前にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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