ふざけ合いの延長でけがをさせた|「同意があった」は通るのか
この記事は、2025年のストーカー規制法改正(警察による職権での警告の導入)と、2025年6月施行の拘禁刑への一本化を反映した内容です。個別の事情によって評価は変わるため、一般的な考え方としてお読みください。
別れた相手と連絡が取れなくなり、「直接話せば分かってもらえるかもしれない」と相手の実家を訪ねてしまった、というご相談は少なくありません。交際中に挨拶に行ったことがある家であれば、なおさら抵抗なく足が向いてしまうこともあるでしょう。しかし、相手本人や家族が訪問を望んでいない場合、実家への訪問はストーカー規制法や刑法との関係で問題になることがあります。この記事では、実家を訪ねる行為がどのように評価されうるのか、すでに訪ねてしまった後に何を控えるべきかを、訪ねた側の立場から整理します。
実家を訪ねる行為が問題になりうる理由
ストーカー規制法は本人の家族への行為も対象にしている
ストーカー規制法の「つきまとい等」は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みの感情を満たす目的で、特定の者に対して一定の行為をすることを指します。ここで注意したいのは、対象が相手本人に限られていない点です。法律は、本人の配偶者、直系もしくは同居の親族、その他社会生活において密接な関係を有する者に対する行為も含めています(ストーカー規制法2条1項)。
相手の父母は直系の親族にあたるため、相手本人が実家に住んでいるかどうかにかかわらず、「娘さん(息子さん)に会わせてほしい」「復縁できるよう説得してほしい」と親に求める行為は、この枠組みで評価される可能性があります。面会や交際など、相手に義務のないことを求める行為は、つきまとい等の類型の一つとして定められています(同項3号)。
相手が実家で暮らしているなら住居への訪問になる
別れた後に相手が実家へ戻っている場合、その実家は相手の住居です。法律は、住居や勤務先などの「現に所在する場所」「通常所在する場所」を住居等とし、住居等への押し掛けや、その付近での見張り、みだりにうろつくことを、つきまとい等の典型として挙げています(同項1号)。実家に住んでいなくても、相手が頻繁に帰っている、その時点で実家にいるといった事情があれば、住居等として扱われることも考えられます。
押し掛けとされやすい訪問の特徴
警察の運用上、「押し掛け」は住居等の平穏が害されるような態様で行われる訪問であって、社会通念上容認されないものと整理されています。訪問した時点で相手が不在であったかどうかは問われず、後から訪問を知った相手が不安を覚えた場合も対象になりうるとされています。評価にあたっては、次のような事情が考慮されることが多いと考えられます。
- 相手や家族から「来ないでほしい」と伝えられた後の訪問であること。
- 連絡を断たれている状況で、予告なく訪ねていること。
- 夜間や早朝など、家族の生活に影響する時間帯であること。
- 帰るよう求められても玄関先や家の前にとどまったこと。
- 訪問が一度ではなく、繰り返されていること。
一方で、交際中に家族ぐるみの付き合いがあり、一度だけ用件を伝えて求めに応じてすぐに帰った、という場合とは評価が異なることもあります。ただし、一度の訪問でも、その後に連絡や訪問が重なれば全体として見られるため、「一回だけだから大丈夫」とは言い切れません。
ストーカー規制法以外に問われうるもの
実家への訪問は、ストーカー規制法だけでなく、他の法律との関係でも問題になることがあります。主なものを整理すると次のとおりです。
| 行為の例 | 問われうる規定 | ポイント |
|---|---|---|
| 門の内側や敷地、玄関内に入った | 住居侵入罪(刑法130条前段) | 家族の意思に反して立ち入れば成立しうる。法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金 |
| 帰るよう求められても立ち去らなかった | 不退去罪(刑法130条後段) | 最初は招き入れられていても、退去を求められた後にとどまると問題になりうる |
| 家族に強い言葉を向けた、物を叩いた | 脅迫罪・暴行罪など | 言葉の内容や行動の態様によって判断される |
| 恋愛感情以外の動機で繰り返し訪ねた | 東京都の迷惑防止条例など | ストーカー規制法の目的要件に当たらない場合でも、条例で規制されることがある |
実家の管理権は、多くの場合その家に住む親にあります。相手本人とのやり取りだけでなく、親が立ち入りを望んでいるかどうかが判断の基準になる点は、自分の家や相手の一人暮らしの部屋を訪ねる場合と異なるところです。
警察が関わる場合の一般的な流れ
実家への訪問をきっかけに、相手本人や家族が警察に相談することがあります。その後の対応は事案によって異なりますが、一般的には次のような段階を経ることが多いとされています。
- 相手本人または家族が、警察署の生活安全課などに相談する。
- 警察から電話や呼び出しで事情を聞かれ、口頭で注意を受けることがある。
- 反復のおそれがあると判断されると、ストーカー規制法に基づく警告が出される。2025年の改正で、相手の申出がなくても警察が職権で警告できるようになった。
- 警告後も行為が続くなどすると、公安委員会による禁止命令が出されることがある。
- 事案の内容によっては、ストーカー行為罪(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)や住居侵入罪などで捜査が行われる。
段階を一つずつ踏むとは限らず、危険性が高いと判断されれば早い段階で検挙が検討されることもあります。警告は前科になるものではありませんが、警告や禁止命令を受けた事実は、その後の判断に影響する事情になります。処分の分かれ目については、【刑事事件】ストーカーで前科はつくのか|警告・検挙・起訴の分かれ目と、不起訴になる場合で詳しく解説しています。
すでに実家を訪ねてしまった後に控えたいこと
訪ねてしまったことを悔やみ、すぐに状況を立て直したいと考える方は多いと思います。しかし、良かれと思って取る行動が、かえって「反復」と評価されることがあります。次のような行動は控えることをおすすめします。
- 謝罪や説明のために、もう一度実家を訪ねること。
- 相手の親やきょうだいに、手紙や電話で事情を伝えようとすること。
- 共通の知人に頼んで、相手や家族の様子を聞いたり伝言を頼んだりすること。
- 実家の近くを通って様子をうかがうこと。
- SNSに相手や家族に向けたと受け取られる投稿をすること。
謝りたいという気持ち自体は自然なものです。ただ、相手や家族が接触を望んでいない状況では、謝罪の連絡そのものが新たな不安の原因になることがあります。この点は【ストーカートラブル】謝りたい|謝罪の連絡そのものが問題になる理由でも取り上げています。
荷物やお金など、用件が残っているとき
実家を訪ねた理由が、預けた荷物の返却や貸したお金の清算だったという方もいます。用件が正当なものであっても、連絡の方法や頻度によっては、ストーカー規制法の問題と受け取られることがあります。直接のやり取りが難しくなっている場合は、弁護士を窓口にして書面でやり取りする方法が考えられます。詳しくは【刑事事件】元交際相手に荷物やお金の清算で連絡したい|正当な用件でもストーカーと言われる場面をご覧ください。
警察から連絡が来たときの考え方
警察から電話があった、事情を聞きたいと言われたという段階では、慌てて相手や家族に連絡を取ろうとせず、まずは訪問の日時や回数、そのときのやり取りを思い出せる範囲で書き出しておくことが大切です。事実と異なる受け止め方をされている部分があれば、それも整理しておくと、説明の際に役立ちます。任意の事情聴取に応じる際の準備については【ストーカートラブル】任意で事情を聞きたいと言われた|応じる場合の準備、早い段階で弁護士に相談する意味については【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味で解説しています。
よくあるご質問
交際中に何度も訪ねていた実家でも問題になりますか
交際中に招かれていたことは、別れた後の訪問を正当化する理由にはなりにくいと考えられます。関係が終わり、相手や家族が訪問を望んでいないことが分かっている状況では、以前と同じ感覚で訪ねることは避けた方がよいでしょう。
相手の親から「もう来ないで」と言われました。電話なら大丈夫ですか
訪問を断られた後に電話や手紙で接触を続けると、形を変えて同じ求めを繰り返していると受け取られることがあります。拒まれた後に連続して電話をかけたり文書を送ったりする行為も、つきまとい等の類型に含まれています(ストーカー規制法2条1項5号)。
相手の家族が警察に相談したかどうかを確かめる方法はありますか
相手や家族に直接確かめようとする行為は、それ自体が新たな接触になるため控えるべきです。気になる場合は、ご自身の行動を記録したうえで弁護士に相談し、今後の見通しを確認することをおすすめします。
弁護士に相談する意味
弁護士にご相談いただくことで、これまでの訪問や連絡がどのように評価されうるかを第三者の視点で確認し、今後控えるべき行動を具体的に決めることができます。警察から連絡があった場合の対応や、相手方との間で荷物やお金の清算が残っている場合の窓口としての対応も検討できます。
実家を訪ねた行為がどう扱われるかは、訪問の回数や時間帯、相手や家族とのやり取りによって大きく変わります。ご自身の行動を振り返り、これ以上の接触を控えたうえで、早めに状況を整理しておくことが、問題を大きくしないための第一歩になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


