【不貞慰謝料】不貞の示談書に入れるべき条項|過去の清算と将来の約束を分ける
この記事は、2026年10月時点の民法(令和6年4月1日施行の改正後の嫡出推定・認知無効の規定を含む)、家事事件手続法、母体保護法に基づいて解説しています。個別の事案での判断は、事実関係によって異なります。
「交際を終えて数か月がたってから、元交際相手から『実は妊娠していた』と連絡が来た」「別れてずいぶんたつのに、子どもがいると聞かされた」。男女トラブルのご相談では、こうした後から出てきた妊娠の話に戸惑う声が寄せられます。一方で、話を切り出した側からも「伝えるのが遅くなったことを責められ、話を聞いてもらえない」というご相談があります。
妊娠を告げられたら事実を確認し、誠実に話し合う。一般にはそう説明されることが多く、それ自体は誤りではありません。ただ、「後から」告げられた話は、妊娠がまだ続いているのか、すでに中絶していたのか、出産していたのかによって、確認すべきことも、関わる法律も変わります。最初の返信の仕方によっては、後の選択肢を自分で狭めてしまうこともあります。
この記事では、別れた後に妊娠の話を告げられた側に向けて、その話がどの段階の話なのかを見分ける視点と、段階ごとの向き合い方を整理します。中絶費用の分担の考え方は【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方で、妊娠を理由とした金銭請求の見極め方は「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方で、それぞれ扱っています。
「後から」告げられた話は、どの段階の話かで中身が変わる
同じ「妊娠していた」でも、指している段階は一つではない
「妊娠していた」という言葉は過去形で語られることが多いものの、実際に指している状況は人によって異なります。まだ妊娠が続いている場合もあれば、中絶や流産によってすでに妊娠が終わっている場合、出産を終えて子どもが生まれている場合もあります。最初に確かめたいのは、話の真偽よりも先に「いま、どの段階の話なのか」です。段階によって、だれが何を決めるのか、どの法律が関わるのかが変わるためです。
| いまの段階 | 確認したいこと | 主に問題になること |
|---|---|---|
| 妊娠が続いている | 受診した医療機関と、医師から伝えられた妊娠の時期 | 出産するかどうかの意思、費用の分担、出産後の認知 |
| すでに中絶していた | 手術を受けた事実と、かかった費用の資料 | 費用の分担、慰謝料の主張の当否 |
| すでに出産していた | 子の生年月日と、現在だれが戸籍上の父とされているか | 認知、養育費、過去の分の扱い |
| 流産した・確認がとれない | 話の根拠となっている資料の有無 | 支払った金銭の扱い、繰り返される連絡への対応 |
時期の数字は、そのまま比べると食い違って見えることがある
後から出た話では、「交際していた時期と妊娠の時期が合わないのではないか」という疑問がよく生じます。もっとも、妊娠週数は一般に最終月経の開始日から数えるため、週数をそのまま交際期間に当てはめると、実際とずれて見えることがあります。時期の食い違いを理由に話を退ける前に、相手が医療機関で伝えられた内容を、資料に基づいて確認するほうが確かです。
あわせて、ご自身の側でも、交際していた期間や最後に会った日、別れた時期などを、手元のやり取りやカレンダーをもとに整理しておくと、後の話し合いで役立ちます。
最初の返信で避けたい3つの応じ方
突然の連絡に対して、最初の返信をどうするかで、その後の話し合いの進み方は変わります。避けたい応じ方は、大きく分けて次の3つです。
すぐに否定し、相手を責める
「自分の子のはずがない」「今さら何のつもりか」といった返信は、気持ちとしては自然なものです。ただ、相手を責める言葉はやり取りとして残り、後に話し合いや調停になった場合、こちらの対応の誠実さを問われる材料になることがあります。中絶をめぐる慰謝料の請求では、妊娠が分かった後の対応が考慮される場合もあると考えられています。疑問がある場合も、否定ではなく「確認させてほしい」という形で伝えるほうが、後の選択肢を残せます。
その場で父であると認め、約束をする
反対に、動揺から「責任をとる」「すぐに認知する」と約束してしまう方もいます。認知は一度すると、本人の判断で取り消すことはできません(民法785条)。血縁がないことを理由に認知の無効を求める道はありますが、認知をした本人が訴えを起こせるのは、原則として認知の時から7年以内に限られます(同法786条1項)。事実を確かめる前に、認知や金銭の支払いを約束する書面を作ることは控えたほうがよいでしょう。
返事をせずに放置する
関わりたくないという思いから、連絡に応じないままにする方もいます。しかし、子の認知を求める訴えは、父が生きている間はいつでも起こすことができ(民法787条)、認知を求める権利は放棄することもできないとされています(最高裁昭和37年4月10日判決)。放置しても話そのものがなくなるわけではなく、後から調停や訴訟の形で届くことがあります。
最初の返信では、結論を出さずに、次のような点を落ち着いて伝える形が考えられます。
- 連絡を受け取ったことと、内容を確認したいと考えていること。
- いまどの段階の話なのかと、医療機関の受診の有無を教えてほしいこと。
- 回答には少し時間がほしいことと、今後の連絡方法。
やり取りは、後から経緯を説明できるよう、消さずに保存しておきます。記録の残し方は男女トラブルの証拠の集め方|LINE・録音・写真を法的に有効にするもあわせてご覧ください。
まだ妊娠が続いていると言われた場合
出産するかどうかを決めるのは、妊娠している本人
人工妊娠中絶について、母体保護法は本人と配偶者の同意を求めています(母体保護法14条1項)。ここでいう配偶者には、届出をしていない事実上の夫婦関係にある人も含まれますが(同法3条1項)、すでに別れた交際相手は、この同意を求められる立場にはないと考えられます。出産するかどうかは本人が決めることであり、告げられた側が中絶を強く求めたり、条件を付けて迫ったりすることは控える必要があります。中絶には時期の制約もあるため、相手にとっては時間に追われる話でもあることを念頭に置いておくとよいでしょう。
確認は、本人が受診した医療機関の資料を軸にする
妊娠の事実や時期は、医療機関の診察で分かるものです。確認を求める場合は、受診した医療機関や、医師から伝えられた妊娠の時期を示す資料を見せてもらえるか、丁寧に尋ねる形が考えられます。出生前に父子関係を調べる検査もありますが、妊娠している本人の協力が前提となるもので、求めれば応じてもらえるものではありません。出産後であれば、認知の手続の中でDNA鑑定が行われることが多くあります。
出産前に認知を求められたとき
子が生まれる前でも、父は認知をすることができます(胎児認知)。この場合には母の承諾が必要です(民法783条1項)。胎児認知をした場合、認知の無効を求める訴えの期間は、子の出生の時から数えることになっています(同法786条1項)。出産前に認知を求められた場合も、事実の確認を先に行い、手続の意味を理解したうえで判断することが大切です。交際していた当時の妊娠の基本的な整理は、交際・パパ活相手の妊娠|認知・養育費・中絶同意書の基礎知識で解説しています。
すでに中絶していたと後から言われた場合
費用の話は、資料をそろえてから
中絶を終えた後で、費用の負担を求められることがあります。中絶費用の分担について法律に明確な定めはありませんが、妊娠は双方の行為によって生じたものであることから、双方で分担すべきものと考えられています。金額の話に入る前に、手術を受けた医療機関の領収書などで、何にいくらかかったのかを確かめるのが落ち着いた進め方です。分担の割合については、【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方もご参照ください。
慰謝料の主張が添えられているとき
費用とあわせて慰謝料を求められることもあります。合意のうえでの交際による妊娠で、本人の判断で中絶に至った場合、それだけで慰謝料の支払義務が生じるとは一般に考えられていません。他方で、妊娠を告げられた後に話し合いを一方的に拒んだり、中絶を強く迫ったりしたことが、相手の心身に大きな負担を与えたと評価されれば、慰謝料が認められる場合もあります。交際中や連絡を受けた後の具体的なやり取りが判断の材料になるため、記録を整理したうえで対応を考えることが大切です。当事務所で扱った例として、【解決事例】交際相手の妊娠をめぐり100万円超を請求された事例|直接の面談に応じず解決金30万円で合意書を締結もご参照ください。
すでに出産していたと後から言われた場合
認知は、時間がたっても求められる
別れてから何年もたって、子どもがいると知らされることもあります。前に述べたとおり、認知の訴えは父の生存中はいつでも起こすことができ、父の死亡後も3年間は起こすことができます(民法787条)。認知を求める場合は、まず家庭裁判所での調停を申し立てるのが原則で(家事事件手続法257条1項)、その中で血縁の有無がDNA鑑定などにより確かめられます。認知に応じずにいても、調停や訴訟の場で判断されることになります。
相手が別の人と結婚している場合
別れた後に相手が別の人と結婚し、その婚姻中に子が生まれた場合、子は原則として結婚相手の子と推定されます。令和6年4月1日施行の改正により、婚姻前に懐胎し婚姻後に生まれた子も、その夫の子と推定されることが明記されました(民法772条1項)。この推定が及んでいる間は、血縁上の父であっても認知をすることはできず、推定を否認できるのは夫、子、母、前の夫に限られています(同法774条)。相手が結婚していると分かった場合には、自分が手続の当事者になる場面なのかどうかを、まず確かめる必要があります。
養育費は、過去の分に及ぶことがある
認知が成立すると、父は子を扶養する義務を負い、養育費の分担が問題になります。養育費は、実務上は請求した時点以降の分を定める扱いが多いとされています。もっとも、認知の効力は子の出生の時にさかのぼるため(民法784条)、認知の確定後すぐに分担を求めた事案で、出生の時までさかのぼって分担を定めた裁判例もあります(大阪高裁平成16年5月19日決定)。後から出産を知らされた場合でも、過去の分を含めた話になりうることを前提に、見通しを立てておくとよいでしょう。
話の裏付けがとれない場合
相手の事情を決めつけずに、確認できる範囲を伝える
流産したと告げられた場合や、資料の提示を求めても応じてもらえない場合など、話の裏付けがとれないこともあります。流産は本人にとって心身の負担が大きい出来事であることも多く、事実を確認する際も、相手を疑う言葉ではなく、必要な範囲を落ち着いて伝えることが大切です。確認がとれないことと、話が事実でないことは同じではありません。結論を急がず、確認できたことと確認できていないことを分けて考えます。
金銭の要求や連絡が繰り返される場合
確認がとれないまま金銭の支払いだけを強く求められる場合は、「妊娠した」「病気になった」と請求されたら|妊娠詐欺・示談金詐欺の見極め方が参考になります。連絡や要求が続く場合は、弁護士を窓口にして連絡を一本化することや、接触を控えるよう求めることも考えられます。別れ話のもつれでLINE・電話が止まらない|接触禁止を実現する方法もあわせてご覧ください。
話し合いを書面にまとめるときの線引き
書面で取り決められること・取り決められないこと
話し合いがまとまったときは、合意書にまとめるのが通常です。ただし、子に関わる事項には、当事者の合意で終えられないものがあります。子の認知を求める権利は放棄できないとされ(最高裁昭和37年4月10日判決)、扶養を受ける権利も処分することができません(民法881条)。「認知を求めない」「養育費を請求しない」と書面に記しても、子自身が後に認知や扶養を求めることまでは妨げられないと考えられています。
| 取り決めの内容 | 書面で終えられるか |
|---|---|
| 中絶費用の分担 | 当事者間の合意で取り決められる |
| 今後の連絡方法や接触の制限 | 当事者間の合意で取り決められる |
| 認知を求めないこと | 子の権利は放棄できないため、終えられない |
| 養育費を請求しないこと | 子自身が扶養を求める権利までは左右できない |
清算条項が及ぶ範囲
合意書には、当事者間にほかの債権債務がないことを確認する清算条項を入れることがあります。清算条項は当事者間の金銭の問題を区切るうえで役立ちますが、上で述べた子の権利までを消すものではありません。どこまでが合意で終えられる問題なのかを分けて、書面を作ることが大切です。清算条項の働きについては、清算条項の意味|後から追加請求されないためにもご参照ください。
よくあるご質問
何年も前に別れた相手から、子どもがいると知らされました。今からでも認知を求められることはありますか。
あります。認知の訴えは父の生存中はいつでも起こすことができ、年月の経過によって求められなくなるものではありません(民法787条)。まずは子の生年月日や、現在の戸籍上の父の有無など、事実関係の確認から始めることになります。
相手の親から連絡が来て、話し合いの場に来るよう求められています。
相手の家族が話し合いに出てくることは珍しくありません。ただ、家族が本人に代わって合意をする権限を持っているとは限りません。応じる前に、だれと何を話すのかを確認しておくことが大切です。【男女トラブル】相手の家族が代わりに交渉に出てきた|代理権の有無の確かめ方で詳しく解説しています。
いまの家族に知られずに対応することはできますか。
連絡の方法や書面の送付先を工夫することで、配慮できる部分はあります。ただし、認知をした場合、その事実は認知をした方の戸籍にも記載されるため、配慮には限りがあります。家族に知られずに解決できるか|連絡方法・書面の送付先の設計もご参照ください。なお、交際していた当時に既婚だった場合は、配偶者との関係も問題になります。【不貞慰謝料】不貞相手が妊娠した場合に生じる問題をあわせてご覧ください。
まとめ
- 後から告げられた妊娠の話は、妊娠中・中絶後・出産後など、いまどの段階の話なのかによって確認すべきことが変わる。
- 妊娠週数は一般に最終月経の開始日から数えるため、交際期間とそのまま比べると食い違って見えることがある。
- 認知は本人の判断で取り消せず(民法785条)、認知をした者による無効の訴えは原則として認知の時から7年以内に限られる(同法786条1項)。
- 認知の訴えは父の生存中いつでも起こすことができ(民法787条)、放置しても話はなくならない。
- 中絶するかどうかは本人が決めることで、別れた交際相手は母体保護法14条1項の同意を求められる立場にはないと考えられる。
- 相手が別の人と結婚して子が生まれた場合は、その夫の子と推定され(民法772条1項)、推定が及ぶ間は認知できない。
- 認知を求める権利や扶養を受ける権利は、合意書で放棄させることができない(最高裁昭和37年4月10日判決、民法881条)。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。別れた相手から妊娠の話を告げられた場合の返信の仕方や事実確認の進め方、合意書の内容についてもご相談いただけます。
妊娠の話を告げられて対応に迷っている方だけでなく、妊娠を伝えたものの話し合いに応じてもらえずにお困りの方も、どうぞお気軽にご相談ください。


