【不貞慰謝料】ホテルの出入りは何回分必要と言われるのか

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

配偶者と交際相手がホテルに出入りする場面をおさえたとき、次に多くの方が気にされるのが「これで足りるのか、もう何回分か必要なのか」という点です。インターネット上には2回、3回といった具体的な数字が並んでいますが、その数字がどこから出てきたものなのかまで説明している記事は多くありません。

 この記事では、ホテルの出入りの回数がどのような意味を持ち、どのような場面で必要になるのかを、慰謝料を請求する側と請求を受けた側の双方の視点から整理します。

法律に「何回分必要」という決まりはない

 はじめにお伝えしておくと、不貞行為を立証するために必要な回数を定めた法律の規定はありません。何回分あれば足りるという基準が示されているわけでもありません。

 裁判所は、提出された資料を全体として見たうえで、性的な関係があったと考えるのが自然かどうかを判断します。回数は、その判断を支える事情の一つとして扱われるにとどまります。

1回の関係でも責任が生じることがある

 不貞行為は、配偶者以外の相手と性的な関係を結ぶことを指すものと理解されています(最高裁判所昭和48年11月15日判決。離婚原因についての判断の中で示されたものです)。関係が1回であっても、それを示すことができれば責任が生じ得ます。回数は、責任が生じるための条件ではありません。

それでも「何回分」が気になる理由

 性行為そのものを直接示す資料が手元にあることは、まずありません。そのため実際には、二人でホテルに入り、一定の時間を過ごして出てきたという外から見える事実から、室内での出来事を推し量ることになります。

 この推し量りは、相手から別の説明を出されると揺らぐことがあります。回数が話題になるのは、相手の説明が成り立たないと言えるだけの材料がそろっているかという問いを、分かりやすい形に置き換えたものだからです。

出回っている数字はどこから来ているのか

 「2回は必要」「3回以上が望ましい」といった数字は、主に調査を行う事業者側の説明の中で語られてきたものです。裁判所が示した基準ではありません。

数字が語られる場面その数字が意味していること裁判所の判断との関係
調査の見積りやプランの説明報告書として一定の形に仕上げるための、調査設計上の目安判断の基準として示されたものではない
施設の種類ごとの説明説明のつきにくい施設ほど記録を重ねて補うという実務上の工夫同じ趣旨の考慮はされるが、必要な回数が決まっているわけではない
紹介されている事案の印象複数回の記録が提出された事案が多く取り上げられていること事案ごとの判断であり、他の事案にそのまま当てはまるものではない


 数字そのものが誤りだというわけではありません。調査を組み立てる側にとっては、目安がなければ費用も期間も決められないからです。ただ、その目安は「これだけあれば認められる」という保証ではなく、「このくらい重ねておけば説明がつきやすい」という経験に基づく見立てに近いものだと受け止めておくほうが安全です。

見られているのは回数そのものではない

 実際の判断では、次のような事情が組み合わせて見られています。回数は、このどこかが弱いときに、それを補う位置にあります。

見られている事情そこから読み取られること回数が補いやすい場面
その施設がどのような目的で使われる場所か部屋に入った目的を、ほかにどこまで説明できるか利用目的の幅が広い施設のとき
入ってから出るまでの時間と、その時間帯短時間の立ち寄りにとどまらないといえるか滞在が短めで、休憩や待ち合わせと説明され得るとき
二人だけで同じ部屋にいたといえるか第三者の同席や別室利用の可能性が残らないか別々に入っているなど、同室と言い切りにくいとき
その日の前後の行動と全体の流れ偶然や一度限りの出来事として説明できるか前後の行動についての記録が乏しいとき


回数は弱いところを補う働きをする

 施設の性質から目的が絞られ、滞在した時間も相応にあり、二人で入って二人で出てきたことが分かる記録であれば、1回分でも相応の意味を持ちます。逆に、どこかに説明の余地が残る場合には、同じことが繰り返されている事実が、その説明を成り立ちにくくします。

 証拠の種類ごとの強さの順序については、「不貞の証拠になるもの・ならないもの」で扱っています。

何を示したいのかで必要な回数は変わる

 足りるかどうかは、資料の枚数だけでは決まりません。何を示そうとしているのかによって、必要になる材料が変わります。

示したいこと1回分でも足りることがある場合回数が求められやすい場合
不貞行為があったこと施設の性質と滞在時間から目的が絞られ、二人が誰であるかも確認できるとき人物の判別が弱い、滞在が短いなど、単独では説明の余地が残るとき
関係が続いていたことやり取りの記録など、継続を示す別の資料があるときホテルの記録以外に手元の資料が乏しいとき
いつからいつまでの関係だったか開始と終了の時期を示す資料が別にあるとき期間の長さそのものが争われているとき
相手が既婚者だと知っていたことやり取りの中に家庭の話題が現れているとき知らなかったという説明が出され、接触の積み重ねから判断する必要があるとき
夫婦関係は既に壊れていたという反論への対応別居の有無など、時期の前後がはっきりしているとき関係のあった時期が争われ、どの時点の出来事かを示す必要があるとき


 なお、回数が慰謝料の金額にどう響くかは、立証の場面とは別の問題です。金額への影響については「不貞の期間・回数はどこまで金額に響くのか」をご覧ください。

同じ「2回分」でも中身は異なる


入るところと出るところで一組になる

 入る場面だけの記録では、そのまま引き返した可能性を否定しきれません。出てくる場面と組み合わせて、初めて滞在の事実として意味を持ちます。1回分と数えられるのは、この一組がそろっている場合です。写真や動画そのものの性質と限界については、別の記事で詳しく扱っています。

同じ日の2回は、継続性の材料としては1回に近い

 同じ日のうちに2度の出入りがあった場合、その日の出来事としての説明力は増しますが、関係が続いていたことを示す材料としては、日を分けた2回とは意味合いが異なります。日をまたいで繰り返されている事実のほうが、一度限りの出来事だったという説明を成り立ちにくくします。

別々に入っている場合は同室性が問われる

 時間をずらして別々に入っているときは、同じ部屋にいたといえるかどうかが問われます。この場面では、回数を重ねるほど、たまたま同じ施設を利用したという説明が難しくなっていきます。

回数を重ねても認められなかった例もある

 複数回の同室宿泊やホテルの利用が認められながら、不貞行為の存在までは認定されなかった裁判例もあります(福岡地方裁判所令和2年12月23日判決)。この事案では、当事者同士のやり取りの中に性的な関係を持たないようにしていたことをうかがわせる文面が相当数含まれていたこと、二人の間に特殊な関係があり、施設を利用した理由について一応の説明ができたことなどから、性的な関係があったという推し量りに疑いが残るとされました。

 これは例外的な事案で、同じような反論がいつも通るわけではありません。ただ、回数だけを積み上げても、他の材料と食い違えば結論は変わり得ることを示しています。裏を返せば、回数が少なくても、ほかの材料と矛盾なくつながっていれば足りることがあるということでもあります。

回数を増やすことには別の負担も伴う

 もう少し集めてから動きたいと考えるのは自然なことですが、待つことにも次のような負担があります。

  1. 調査を続ける期間が延びるほど、費用の負担が大きくなります。
  2. 損害と加害者を知った時から進む消滅時効の期間は、その間も進んでいきます。
  3. 尾行や張り込みが続けば、相手に気づかれ、関係の形が変わってしまうことがあります。
  4. 早い段階で話し合いに入れたはずの機会を逃してしまうことがあります。


 調査にかかった費用を相手に負担させられるかどうかは、また別の論点です。この点は「探偵費用は相手に負担させられるのか」で扱っています。

請求を受けた側から見た回数

 請求を受けた側にとっても、回数は最初に目が向きやすい点です。ただ、受け止め方には注意が必要な場面があります。

回数が少ないことは、それだけでは反論にならない

 1回分の記録しかないことは、直ちに不貞行為がなかったことを意味しません。示された記録の中身と、それに対して自分の側からどのような説明ができるかが問われます。

「1回だけだった」という説明の位置づけ

 回数を争おうとして「会ったのはその日だけだ」と述べると、その1回については認めたものとして扱われることになります。回数を減らす方向の説明が、不貞行為そのものを認める材料になってしまう場面は少なくありません。何をどこまで認めるのかは、先に整理しておく必要があります。

争う実益がどこにあるかを先に考える

 回数の多い少ないは、責任の有無だけでなく金額の話にもつながります。責任そのものを争うのか、金額の話として整理するのかによって、回数に触れる意味は変わってきます。

よくある質問


同じ日に2回の出入りがあります。2回分として扱われますか

 その日の出来事についての説明力は高まりますが、関係が続いていたことを示す材料としては、日を分けた記録とは意味合いが異なります。継続を示したい場合には、日をまたいだ記録や、やり取りの記録が併せて必要になることがあります。

1回分しかありませんが、相手は関係を認めています

 認める内容が具体的であれば、記録の少なさを補う材料になり得ます。もっとも、後から「言わされただけだ」と述べられることもあるため、認めた内容がどのような形で残っているかによって扱いが変わります。

宿泊の領収書が数枚あるだけです

 領収書だけでは、誰と一緒に利用したのかまでは示しにくいのが通常です。同行者の記載や予約の履歴、当日のやり取りなど、人物を結びつける材料と組み合わせられるかどうかが分かれ目になります。

追加の調査を続けたほうがよいでしょうか

 何を示したいのかによって答えが変わります。手元の資料でどこまで説明でき、どこに説明の余地が残っているのかを確認したうえで判断されるほうが、費用の面でも時間の面でも無駄が生じにくくなります。

まとめ


  • 不貞行為の立証に必要な回数を定めた法律の規定はありません。
  • 出回っている具体的な数字は、主に調査を設計するための目安であり、裁判所が示した基準ではありません。
  • 実際には、施設の性質、滞在した時間と時間帯、同室といえるか、前後の行動といった事情が組み合わせて見られています。
  • 回数は、これらのどこかが弱いときに、それを補う位置にあります。
  • 何を示したいのか(不貞行為の存在か、関係の継続か、期間か)によって、必要な材料は変わります。
  • 回数を重ねても、ほかの材料と食い違えば結論が変わり得ることを示した裁判例もあります。


 手元にある記録で足りるのか、追加の調査が必要なのかは、資料の中身と、これから何を求めていくのかによって変わります。判断に迷われる段階でご相談いただければ、余分な費用や時間をかけずに進められることがあります。

 当事務所では、慰謝料を請求される方からのご相談も、請求を受けた方からのご相談もお受けしています。ホテルの出入りの記録をお持ちの方、あるいは記録を示されてお困りの方は、お早めにご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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