【不貞慰謝料・請求する側】相手の親や家族に伝えることのリスク
「裁判所から封筒が届きました。中を見たら訴状でした」——不貞慰謝料をめぐるご相談では、こうしたお問い合わせをいただくことがあります。逆に、請求する側の方から「訴えを起こしたのに、相手方から何も出てこない」というご相談を受けることもあります。
訴状が届いた場合の説明として、「無視せずに答弁書を出しましょう」「答弁書を出しておけば第1回の期日は欠席できます」という案内をよく見かけます。それ自体は誤りではありません。ただ、この説明だけでは見えてこない部分があります。ひとつは、「期限」と呼ばれているものが実は何種類かあり、過ぎたときに起きることがそれぞれ違うこと。もうひとつは、「欠席」にもいくつかの型があり、答弁書を出したかどうかだけで結果が決まるわけではないことです。
この記事では、訴状を受け取ってから第1回口頭弁論期日までの期間に絞って、期限の種類と欠席の型を整理します。届いた書面が裁判所からのものかどうかの見分け方や、支払督促への対応、返事をしないまま放置した場合に最終的に何が起きるかについては別の記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。
この記事で扱うこと
次の順で説明します。
- 訴状と一緒に届く書類が、それぞれ何を伝えているのか。
- 「期限」と呼ばれているものの三つの種類と、その違い。
- 答弁書に何を書き、どこへ届くのか。
- 「欠席」の三つの型と、それぞれの扱われ方。
- 第1回期日の日時は動かせるのか、法廷に行く以外の出頭の方法はあるのか。
訴状と一緒に届く書類が示していること
訴状だけが単独で届くことはほとんどありません。多くの場合、訴状の写しのほかに、原告が提出した証拠書類の写し、口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状、答弁書の記載例や用紙などが同封されています。
日付が二つ書かれている
呼出状には、第1回口頭弁論期日の日時と、答弁書の提出期限という二つの日付が書かれています。この二つは性質の違うもので、混同すると対応を誤ることがあります。第1回期日は、実務上、訴えが起こされてから1か月から2か月ほど先の日が指定されることが多く、答弁書の提出期限はその1週間ほど前に設定されることが一般的です。第1回期日の日時は、被告の都合を聞かずに決められています。原告側とだけ日程を調整して指定されるのが通常だからです。
証拠書類は原告の主張の裏づけとして出されている
同封されている証拠の写しは、原告が「この事実を証明したい」と考えて選んだものです。手元に届いた段階で、相手方がどこまでの材料を持っているのかが分かります。その読み方や、資料と結論のあいだにある弱点の探し方については、請求を受けた側から見た証拠の読み方を扱った記事で詳しく述べています。
「期限」は一つではない
訴状が届いた後に出てくる「期限」には、決めている人も、過ぎたときに起きることも異なる三つの種類があります。
| 期限の名前 | 決めているもの | 過ぎたときに起きること |
|---|---|---|
| 答弁書の提出期限 | 裁判所(呼出状に併記される) | 受付が閉じるわけではないが、相手方や裁判所が読む時間がなくなる |
| 第1回口頭弁論期日の日時 | 裁判所(原告の都合を聞いて指定) | 出頭しないこと自体が、後で述べる扱いにつながる |
| 控訴ができる期間 | 法律(民事訴訟法285条) | 判決の内容をそれ以上争えなくなる |
この三つのうち、取り返しがつかなくなるのは三つ目だけです。控訴の期間は不変期間とされていて、判決書の送達を受けてから2週間を過ぎると、原則としてその判決を争う道がなくなります。上の二つは性質が違います。
答弁書の提出期限を過ぎたら、もう出せないのか
「期限までに答弁書を出さないと、自動的に請求が認められる」という説明を目にすることがありますが、正確ではありません。
提出期限は何のために定められているのか
民事訴訟規則79条1項は、答弁書その他の準備書面は、記載した事項について相手方が準備をするのに必要な期間をおいて裁判所に提出しなければならない、と定めています。つまり提出期限は、相手方が読んで準備するための時間を確保するために置かれているものであって、それを過ぎたら書面を出す権利を失う、という性質の期限ではありません。実務上も、期限を過ぎた後に届いた答弁書が受け付けられないという扱いはされていません。
ただし、遅れることには実質的な不利益がある
受け付けられることと、不利益がないことは別です。期日の直前に届いた答弁書は、裁判所も相手方も内容を検討する時間がないまま期日を迎えることになり、その場で実質的なやり取りができません。結果として、期日が一度空転することもあります。また、間に合いそうにないときに何の連絡もしないままにしておくと、争う意思がないと受け取られるおそれがあります。提出が遅れる見込みであれば、事前に担当の裁判所書記官へ連絡しておくことが望ましいと考えられます。
答弁書には何を書くのか
民事訴訟規則80条1項は、答弁書に、請求の趣旨に対する答弁を記載するほか、訴状に記載された事実に対する認否および抗弁となる事実を具体的に記載し、立証を要する事由ごとに関連する重要な事実と証拠を記載しなければならない、と定めています。2項では、重要な書証の写しを添付することも求められています。
訴状の事実には四通りの応じ方がある
訴状に書かれた個々の事実に対しては、認める、否認する、知らない(不知)、争う、という四通りの応じ方があります。どれを選ぶかで、その後に何を立証しなければならないかが変わります。なお、否認する場合にはその理由を記載しなければならないとされています(民事訴訟規則79条3項)。認めることの重みについては、不貞を「認める」前に確認すべきことを扱った記事で述べています。
第一段階の答弁書はすべてを書き切るものではない
規則が求める記載事項をすべて満たすには時間がかかります。そのため実務では、やむを得ない事由により記載できない場合には提出後速やかに準備書面を出せばよいという規定(同規則80条1項後段)を前提に、第1回期日までは請求を争う姿勢と主要な認否を示すにとどめ、詳細な主張と証拠は第2回以降に出すという進め方が一般的です。答弁書の段階で反論のすべてを書き切れていなくても、争う姿勢を明確にしておくことには意味があります。
答弁書は裁判所だけでなく、相手方にも届く
見落とされやすい点ですが、訴状と答弁書では相手方への届き方が違います。
訴状は送達、答弁書は直送
訴状は裁判所が被告に送達します。これに対して答弁書は、裁判所に正本を提出すると同時に、当事者が相手方へ直接送ることとされています(民事訴訟規則83条1項)。これを直送といい、手渡しや郵送、ファクシミリの送信によって行われます(同規則47条1項)。相手方が受け取った旨の書面を裁判所へ提出する仕組みもあわせて置かれています。
書いた内容は相手方本人が読むことになる
不貞慰謝料の訴訟では、原告が相手方の配偶者本人であることが少なくありません。原告に代理人が付いていなければ、答弁書に書いた説明や経緯は、その方が直接読むことになります。事実として述べる必要のあることと、書かなくてよいことを分けて考える理由がここにあります。なお、直送が困難な事情があるときは、裁判所書記官に送付を求めることができるとされています(同規則47条4項)。
「欠席」には三つの型がある
第1回期日を欠席した場合の扱いは、一つではありません。裁判所の説明でも、被告が欠席した場合には、答弁書などにおいて原告の請求を争う意図を明らかにしていない限り、原告の請求どおりの判決が言い渡される可能性がある、とされています。分かれ目は、出席したかどうかではなく、争う意図が書面から読み取れるかどうかにあります。
| 期日までにしたこと | 第1回期日での扱い | 根拠となる規定 |
|---|---|---|
| 争う内容の答弁書を出したうえで欠席した | 答弁書に記載した事項を陳述したものとみなされる | 民事訴訟法158条 |
| 答弁書は出したが、争う姿勢が読み取れない内容だった | 争っていないものとして扱われることがある | 民事訴訟法254条1項1号 |
| 何も提出せずに欠席した | 訴状に書かれた事実を認めたものとみなされる | 民事訴訟法159条1項・3項 |
真ん中の型は、あまり知られていません。答弁書を出しさえすれば安全というわけではなく、その中身が訴状の事実を認めるだけで反論を含んでいなければ、争いのない事件として扱われることがあります。この場合、判決書を作らずに、主文などを電子調書に記録する簡易な方法で言い渡すことも可能とされています。
第2回以降は扱いが変わる
書面を出しておけば欠席できるという扱いは、地方裁判所では第1回期日に限られます。第2回以降の期日に欠席すると、原則として、書面を提出していても陳述したものとは扱われません。この点は法テラスの案内でも明示されており、原告の主張を認めたものとして敗訴するおそれがあるとされています。
ただし簡易裁判所については特則があり、続行の期日についても同じ扱いが準用されています(民事訴訟法277条)。不貞慰謝料の訴訟がどちらの裁判所で行われるかは請求額によって分かれ、140万円以下であれば簡易裁判所、それを超えれば地方裁判所が第一審となります。
第1回期日の日時は動かせるのか
「指定された日は変更できない」と説明されることがありますが、条文はもう少し柔軟です。
民事訴訟法93条3項は、口頭弁論の期日の変更は顕著な事由がある場合に限り許すと定めたうえで、ただし書で、最初の期日の変更は、当事者の合意がある場合にも許すとしています。第1回期日は被告の都合を聞かずに指定されるため、変更を認める必要性が比較的高いと考えられているからです。
もっとも、これは相手方の合意を前提とする仕組みですから、こちらの都合だけで動かせるわけではありません。第2回以降は顕著な事由が必要とされ、仕事の都合だけでは足りないのが通常です。また、期日変更の申立てには、変更を必要とする事由を明らかにすることが求められています(民事訴訟規則36条)。
出頭の方法は法廷に行くことだけではない
裁判所が相当と認める場合には、ウェブ会議の方法によって口頭弁論の期日に出頭することも可能とされています。遠方の裁判所で審理が行われる場合や、平日の日中に長時間を空けることが難しい場合には、この方法が検討されることがあります。
また、令和8年5月21日以降に訴えが提起された民事訴訟事件では、事件の種類を問わず、裁判所の書類提出システムを利用してインターネット経由で書面を提出したり、訴訟記録を閲覧したりすることができるようになっています。弁護士などの訴訟代理人については、オンラインでの提出が義務づけられています。
訴えられる裁判所が遠方になることもある
訴えは原則として被告の住所地を管轄する裁判所に起こされますが、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えについては、不法行為が行われた土地を管轄する裁判所に起こすこともできます。不貞慰謝料は不法行為に基づく請求ですので、当事者が離れて暮らしている場合などに、自分の住まいから遠い裁判所へ呼び出されることがあります。この場合の負担については、期日の変更やウェブ会議の利用とあわせて、早い段階で検討しておく必要があります。
請求した側から見ると
訴えを起こした側から見れば、相手方から答弁書が出てこないまま第1回期日を迎えることもあります。その場合でも、請求した金額がそのまま認められると決まっているわけではありません。事実を認めたものとみなされる効果は、あくまで訴状に書かれた事実に働くものであり、慰謝料の額としていくらが相当かという評価は裁判所が行うからです。
また、相手方が争ってこないまま進んだ事件は、判決を得た後の回収という別の段階が残ります。訴状の段階でどこまで事実と証拠を具体的に書いておくかは、争われた場合だけでなく、争われなかった場合の判決の内容にも関わってきます。
よくあるご質問
答弁書はどこで入手すればよいのですか
訴状に同封されている用紙や記載例を使うことができます。裁判所のウェブサイトにも書式が用意されています。ただし、不貞慰謝料の事案では、どの事実を認めてどの事実を否認するかが後の審理の範囲を決めてしまうため、書式に沿って埋めれば足りるとは限りません。
代理人を立てれば、自分は裁判所へ行かなくてよいのですか
弁護士に依頼した場合、期日への出頭は代理人が行いますので、ご本人の出頭が必要になる場面は限られます。ただし、当事者尋問が実施される期日など、ご本人の出席が必要となる場合があります。
訴状が届いた後でも、話し合いで終わらせることはできますか
訴訟が始まった後でも、和解によって解決することは可能です。実際、判決に至る前に和解で終わる事件は相当数あります。分割払いなど、判決では定められない条件を含めた解決を望む場合は、その旨を早い段階で示しておくことになります。
まとめ
- 訴状と一緒に届く呼出状には、第1回期日の日時と答弁書の提出期限という、性質の違う二つの日付が書かれている。
- 「期限」には答弁書の提出期限、期日の日時、控訴の期間の三種類があり、取り返しがつかなくなるのは控訴の期間である(民事訴訟法285条)。
- 答弁書の提出期限は、相手方が準備するための期間として置かれたものであり(民事訴訟規則79条1項)、過ぎたら出せなくなる性質の期限ではない。
- 答弁書には請求の趣旨に対する答弁と訴状の事実に対する認否を記載する(同規則80条1項)。否認する場合には理由の記載が求められる(同規則79条3項)。
- 答弁書は裁判所への提出と同時に相手方へ直送されるため、書いた内容は相手方本人が読むことになる(同規則83条1項)。
- 欠席の扱いは、争う内容の答弁書を出したか(民事訴訟法158条)、争う姿勢が読み取れない内容だったか(同法254条1項1号)、何も出さなかったか(同法159条1項・3項)で分かれる。
- 第1回期日の変更は、顕著な事由がなくても当事者の合意があれば許される(同法93条3項ただし書)。第2回以降は扱いが異なる。
訴状が届いた方・訴訟をご検討中の方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。訴状を受け取った方からは、期日までに何をどこまで準備すればよいのか、書面にどこまで書くべきなのかというご相談を多くいただきます。
請求を受けた側の方は、第1回期日までの期間が限られていますので、書類一式をお手元にご用意のうえ、早い段階でご相談ください。請求する側の方についても、訴えを起こす前の段階から、書面と証拠の組み立てについてご相談いただけます。


