「本番強要」と訴えられた|まず取るべき行動とやってはいけないNG行動
風俗店を利用するとき、入店時に書面へ署名を求められたり、予約フォームで「禁止事項を確認しました」というチェックを入れたり、店に電話をかけると録音している旨の案内が流れたりすることがあります。多くの方は、そのときは深く考えないまま先に進みます。
ところがトラブルが起きると、店側から「記録は残っている」「あなたが署名した書面がある」と言われる場面が出てきます。ここで初めて、あのとき書いたものや押したチェックが何だったのかを考えることになります。
これらはしばしば「同意の記録」と呼ばれます。しかし、その記録が実際に何を写しているのかは、名前から受ける印象とかなり違います。この記事では、店が集めている記録を種類ごとに分け、それぞれが何を示す材料になり得て、何を示さないのかを整理します。
はじめに——この記事が扱う範囲
先に射程をはっきりさせておきます。
- 成人同士の場面を前提としています。相手が18歳未満である可能性がある場合は、まったく別の枠組みの問題になります
- すでに逮捕された、警察から呼び出しを受けているという段階の方は、この記事を読むよりも先に個別にご相談ください
- 店のルールに違反することを勧める趣旨の記事ではありません。また、店が保管している記録を消させる、書き換えさせるといった方向の話も扱いません
- 記録の意味だけを扱います。支払義務があるかどうか、どの条文の要件を満たすかといった論点は、それぞれ別の記事に譲ります
被害を訴える側の困りごとが実在することを前提にしたうえで、記録という一点に絞って書いています。
店が集めている記録は、大きく三種類
現場で「同意の記録」と呼ばれているものは、性質の違う三つが混ざっています。
- 署名や記名を求められる書面(入店時の誓約書、利用規約承諾書、年齢確認の書面など)
- 申込みのときのチェックと本人確認(予約フォームの確認チェック、身分証の提示や撮影、電話番号の登録)
- 録音や通信の記録(店への電話の録音、予約時のメッセージ、受付や送迎中のやり取り)
なぜ店がこれらを集めるのかというと、店側の目的は「説明したこと」と「相手が誰か」を残すことにあるからです。実際、風俗店向けに利用規約の承諾書の書式が商品として販売されており、その売り文句として掲げられているのは、規約を掲示するだけでは「読んでいない」「聞いていない」と言われてしまうため、署名入りの書面で説明した事実を残す、という点です。
つまり、これらの記録は最初から「同意の有無を判定するため」に作られているわけではありません。この出発点のズレが、あとで効いてきます。
| 記録の種類 | 誰と誰の間の記録か | 示す材料になり得ること | そこからは分からないこと |
|---|---|---|---|
| 署名を求められる書面 | 客と店 | 禁止事項の説明を受けたこと、書面の内容を示されたこと | 部屋の中で実際に何があったか |
| チェックと本人確認 | 客と店 | 申込みの経緯、あなたが誰であるか | 行為についての相手方の意思 |
| 録音・通信の記録 | 客と店(または店の従業員) | 前後のやり取りの内容とその時刻 | 会話に残らなかった部分 |
「同意の記録」という呼び名がずれている理由
表を見ていただくと分かるとおり、三種類に共通するのは、いずれも客と店との間で作られた記録であるという点です。
一方で、後から刑事の問題として検討されるときに見られるのは、店との間の約束ではなく、その場にいた相手方本人の状態と、行為をした側の認識です。誓約書は店との関係についての書面であって、そのあと個室で相手がどういう状態だったかを写したものではありません。
この向きの違いは、両方向に働きます。書面が整っていることは、その場の出来事について何かを語るわけではありません。逆に、書面が何もなかったとしても、それだけで有利になるわけでもありません。条文がどこを見ているかについては、成立要件を条文から確認する別の記事で扱っています。
署名した書面は、何を「推定」させるのか
ここが、この記事で最もお伝えしたい部分です。
民事訴訟法228条4項は、私文書について、本人またはその代理人の署名または押印があるときは、真正に成立したものと推定する、と定めています。ただし、ここで推定されるのはその書面が本人の意思に基づいて作られたものであること(成立の真正)です。
これに対し、書面に書かれている内容が真実であることまでを法律上推定する規定は、置かれていません。書面の中身をどれだけ重く見るかは、裁判所が他の事情と合わせて評価する事柄とされています。
「サインしているから同意がなかったと推定される」という説明について
インターネット上には、利用前の誓約書に署名している以上、同意のない行為だったと推定され、争う余地がなくなる、という趣旨の説明が見られます。
しかし、署名から相手方の意思の内容が推定される、という法律上の仕組みは条文上見当たりません。誓約書が示すのは、原則として、その書面をあなたが作成したという範囲にとどまります。書面があることと、その後に起きた出来事の中身が決まることは、別の話です。
それでも書面を軽く見ないほうがよい理由
もっとも、法律上の推定がないことと、実際の評価に影響しないことは、まったく別です。書面は次のような形で意味を持ち得ます。
- 禁止されていると知っていたことを示す材料になり得る
- 店から金銭を請求される場面では、請求の根拠として持ち出されることがある
- 争い方によっては、書面があることを前提にした説明を求められる場面が出てくる
「法律上の推定はない」という指摘は、書面に意味がないという意味ではありません。過大に恐れる必要はないが、無視もできない、という位置づけです。なお、書面に基づく金銭請求そのものの当否は、誓約書と違約金を扱った記事に譲ります。
内容を読まずに署名していた場合
読んでいなかったという事情だけで、書面がなかったことになるわけではありません。他方で、書かれている条項の内容そのものを検討する余地は残ります。この点は、店の規約や約款の効力を扱う記事で整理しています。
チェックと本人確認が、実際に記録しているもの
予約フォームの確認チェックや、身分証の提示・撮影は、「同意を取った」という説明とともに求められることがあります。ただ、後から効いてくる意味は、多くの場合そこではありません。
これらが実際に残しているのは、あなたが誰であるかです。源氏名と番号だけの匿名のやり取りをしていたつもりでも、店の側には氏名、電話番号、住所、勤務先が残っていることがあります。
これは同意の証明の問題ではなく、連絡・請求・通知の問題として現れます。トラブル後に自宅や勤務先へ連絡が来る、書面が届く、といった展開の入口はここにあります。
年齢の確認は別の枠組み
なお、年齢に関する確認は、同意の有無とは切り離して考える必要がある領域です。相手が18歳未満である可能性がある場合、同意があったかどうかとは無関係に別の法律の問題になります。
録音が記録しているもの、していないもの
店に電話をすると録音の案内が流れることがあります。録音があると聞くと、それだけで不利に感じるかもしれません。
しかし、録音は会話の記録であって、部屋の中で起きたことの記録ではありません。そこに残るのは、通話した時刻、申込みの内容、そしてトラブルが起きた後にどんなやり取りをしたか、といった事柄です。
むしろ注意したいのは後者です。トラブル後に店へかけた電話も、同じように記録され得ます。動揺した状態で口にした言葉が、「同意の記録」ではなく事後のやり取りの記録として残ることがあります。折り返しの電話は、落ち着いてからでも遅くありません。
自分の側で録音・撮影しようとするとき
自衛のために記録を取ろうと考える方もいます。ただし、室内での撮影は、録音とはまったく別の法律の問題を生じさせ得ます。この線引きは、録音と撮影を分けて扱った別の記事で整理しています。
記録は、店の側にある
三種類の記録に共通するもう一つの特徴は、保管しているのが店であるという点です。あなたの側からは、どんな記録が残っているのか、そもそも残っているのかを確かめられません。
この非対称は、二つの方向で判断を誤らせます。
- 「証拠は押さえてある」と言われて、内容を確かめないまま応じてしまう。あると言われることと、実在することは別です
- 逆に「記録なんて残っていないはずだ」と決めつけて対応する。残っていた場合に、その前提で述べた説明が食い違うことになります
記録の中には、保存期間の経過で消えていくものもあります。ただ、それを見込んで時間を稼ぐ、あるいは消えるのを待つという発想は、別の不利益を招くことがあります。手元の記録を自分から削除することについても同様です。
店の記録を確認する方法はあるのか
まったく手がないわけではありませんが、いずれも条件と限界があります。
まず、個人情報保護法33条1項は、本人が、事業者に対して、自分が識別される保有個人データの開示を請求できると定めています。2022年4月1日からは、6か月以内に消去される短期保存のデータも保有個人データに含まれることになりました。
ただし、限界があります。同条2項のただし書は、本人または第三者の権利利益を害するおそれがある場合、事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、他の法令に違反することとなる場合には、全部または一部を開示しないことができると定めています。また、対象は「本人が識別される」データですから、通話録音に他の人の発言が含まれていれば、そのまま全部が出てくるとは限りません。開示を求める記録の特定を求められることもあります。
訴訟になった段階では、裁判所を通じた方法があります。民事訴訟法226条の文書送付嘱託、同法234条の証拠保全です。いずれも訴訟や申立てが前提で、いつでも使える手段ではありません。
| 方法 | 根拠となる規定 | 使える場面 | 主な限界 |
|---|---|---|---|
| 本人からの開示請求 | 個人情報保護法33条1項 | 事業者が保有する自分に関するデータ | 不開示とし得る事由がある/他人の情報は対象外/記録の特定を求められる |
| 文書送付嘱託 | 民事訴訟法226条 | 民事の裁判になった後 | 訴訟が前提/所持者の対応に委ねられる面がある |
| 証拠保全 | 民事訴訟法234条 | あらかじめ調べておかないと使用が困難な事情があるとき | 裁判所が必要性を判断する/申立ての手続が要る |
| 捜査関係事項照会 | 刑事訴訟法197条2項 | 捜査機関が捜査のために行う | 本人や代理人が使える手段ではない |
そして最も大切な点として、これらを使ったとしても、同意があったかどうかを一発で決めるような記録が出てくるとは限りません。出てくるのは、多くの場合、申込みの経緯や前後のやり取りといった周辺の事実です。それでも、店側の説明と食い違いがないかを確かめる意味はあります。
その場で新しく作られる記録に注意する
トラブルが起きた後、その場で書面への署名、謝罪文、動画や音声での謝罪、メッセージアプリでの一文を求められることがあります。
これらは「同意の記録」ではありません。あなたの認識についての記録です。名前は同じ「記録」でも、性質がまったく違います。落ち着いてから振り返ると、事実と違う内容を認めていた、という相談は珍しくありません。
- 内容を確認しないまま署名する
- その場で謝罪文や念書を書く
- 録音や動画で「認めます」と述べる
- 手元の記録を消す、または相手に消させようとする
- 記録は残っていないはずだと決めつけて対応する
その場で示された示談書や誓約書に署名してしまった後にどう考えるかは、書面の効力を扱った記事で整理しています。署名してしまったからといって、そこで検討が終わるわけではありません。
相談の前に整理しておくとよいこと
弁護士に相談する際、次の点が整理されていると話が進みやすくなります。
- いつ、どの店を、どの方法(電話、ウェブ、アプリ)で申し込んだか
- 署名した書面があるか、その写真や控えが手元にあるか
- 身分証を見せたか、撮影されたか
- トラブルの後、店とどんなやり取りをしたか。時刻が分かる形で残っているか
記憶があいまいな部分は、あいまいなまま伝えるのが結果的に良いことが多いです。つじつまを合わせて埋めた説明は、後から出てきた記録と食い違ったときに、かえって重い意味を持ってしまいます。
まとめ
- 店が集める「同意の記録」は、署名を求められる書面、チェックと本人確認、録音や通信の記録の三種類に分けて考えると整理しやすい
- 三つに共通するのは、いずれも客と店との間の記録であり、その場にいた相手方の意思を写したものではないという点である
- 民事訴訟法228条4項が推定するのは書面の成立の真正であって、書かれた内容が真実であることや、その後の出来事までを法律上推定する規定は置かれていない
- 一方で、書面が禁止事項を知っていたことを示す材料になり得ることは事実であり、無視できるものでもない
- チェックや本人確認が残しているのは、同意の有無ではなく「あなたが誰か」であり、これは連絡や請求の問題として現れる
- 記録は店の側にあるため、「証拠がある」と言われて鵜呑みにするのも、「ないはずだ」と決めつけるのも、どちらも危険である
- 店の記録を確認する方法として、個人情報保護法に基づく開示請求や、訴訟段階での文書送付嘱託・証拠保全があるが、いずれも条件と限界がある
早く動いたからといって、望んだ結果が保証されるわけではありません。ただ、その場で新しい記録を作ってしまう前に一度立ち止まることには、はっきりした意味があります。判断に迷う段階で、事実関係を整理したうえでご相談ください。


