本番があった場合、処罰されるのは誰か|客・嬢・店の責任の違い
本記事は、2026年10月1日時点の法令と、公表されている最高裁判所の判断をもとに作成しています。消滅時効については、2020年4月1日施行の改正民法の規定を前提にしています。個別の事情によって結論が変わることがあります。
風俗店を予約するときや会員登録をするときに、本名ではない名前を伝えたという方は少なくありません。その後、店やキャスト側から「罰金」「損害賠償」などの名目で連絡が来ると、「本名は知られていないはずなのに、請求は来るのか」「このまま連絡を断てば終わるのか」という疑問が生じます。
結論から言うと、偽名で利用していたことは、請求が来ない理由にも、請求を止める理由にもなりにくいと考えられます。相手が本名を知らない状態は、請求が「来ない」状態ではなく、正式な手続に乗せる前に「特定」という段階が一つ挟まっている状態と捉えるほうが実態に近いといえます。
この記事では、偽名で利用した後に請求や連絡を受けた方、あるいは受けるかもしれないと不安に感じている方に向けて、本名が分からない相手がどこから請求してくるのか、名乗るべきかどうか、どこまで自分で対応できるのかを整理します。
先にお伝えしたいこと|今日やることと控えたいこと
連絡が来た当日は、「早く終わらせたい」という気持ちが先に立ちがちです。ただ、その場で決めたことには後から戻しにくいものが多いため、まずは次の点を押さえてください。
今日のうちにしておきたいこと
- 届いた電話・SMS・LINEの内容を消さず、画面の写しで残すこと。
- 利用した日時・店名・予約に使った電話番号と、そのとき名乗った名前を書き出すこと。
- 相手が何を理由に、いくらを求めているのかを、分かる範囲でメモすること。
- 返答の期限を切られていても、その場で約束せず、弁護士に相談する時間を確保すること。
今日は控えたいこと
- 本名・住所・勤務先を、自分から相手に伝えること。
- 求められた金額を、その場で振り込むこと。
- 相手が用意した書面や、LINE上での「誓約」に応じること。
- 別の偽名を重ねて名乗ったり、偽名のまま書面に署名したりすること。
- 電話番号を変えれば終わると考えて、記録ごと手放すこと。
偽名で利用したこと自体は問題になるのか
風俗店の予約や会員登録で本名以外の名前を使うことは、それだけで犯罪になるとは通常考えにくいところです。店の側も、客が本名を名乗っているとは限らないことを前提に運営している場面が多く、名前よりも電話番号で顧客を管理しているのが一般的です。
相手から「偽名を使ったのは最初から逃げるつもりだったからだ」と責められることもあります。しかし、請求の根拠になるのは、その場で何があったのか、どのような損害が生じたのかという点です。偽名だったことが、それだけで支払う金額を増やす理由になるとは言いにくいと考えられます。
書面に偽名で署名すると話が変わる
注意が必要なのは、示談書・誓約書・借用書など、名義人がその責任を負うことを前提とする書面に偽名で署名する場面です。最高裁判所は、偽名で作成した履歴書や雇用契約書について、書面に表示された名義人と作成者が別人格であることが明らかだとして、有印私文書偽造罪の成立を認めた判断を示しています(最高裁平成11年12月20日決定)。
予約の際に伝える名前と、責任を引き受ける書面に書く名前とでは、求められている意味が異なります。どのような書面で問題になりうるかは、書類にサインを代筆した|私文書偽造罪の成立範囲も参考にしてください。また、偽名のまま署名した示談書は、後から「本当の当事者と合意したことにはならない」と争われる余地を残すことになり、自分を守る書面として機能しにくくなります。
本名が分からなくても請求が届く経路
相手が本名を知らなくても、手元に残っている手がかりから、本名や住所にたどり着く経路はいくつかあります。主なものを整理すると次のとおりです。
| 相手の手元にある手がかり | 本名・住所につながる経路 | 押さえておきたい点 |
|---|---|---|
| 予約に使った電話番号 | 弁護士が事件を受任したうえで、携帯電話会社に照会する | 番号を変えたり解約したりしても、過去の契約の記録がすぐに消えるわけではない |
| クレジットカードや電子決済の記録 | 決済事業者を通じた照会 | 明細上の表示が店名と違っていても、取引の記録は残る |
| 会員登録のメールアドレス・LINEアカウント | サービスを運営する事業者への照会 | 回答が得られるかどうかは事業者の判断による |
| ホテルの利用記録・防犯カメラ・車のナンバー | 利用した場所や所有者の記録をたどる | 日時と場所が絞られるほどたどりやすくなる |
| 警察が捜査を始めた場合 | 捜査機関による照会や捜査 | 民事の請求で使える手段より広い範囲で調べられる |
弁護士会照会は、弁護士が受任している事件について行うもので、「住所を知りたい」という目的だけでは使えません。仕組みの詳細は弁護士会照会とは|風俗トラブルで相手方を特定する仕組みで解説しています。一方で、弁護士を通さずに、調査を業とする者に依頼するなどして電話番号から身元を調べられるケースもあるとされています。どの経路で調べられたかによって、その後の連絡のされ方も変わってきます。
「本名で呼ばれた」ときに考えられること
偽名で予約したのに、相手から本名で呼ばれて動揺したという相談もあります。電話番号から身元を調べられた可能性のほか、電話帳の情報を共有する仕組みのアプリなどを通じて、知人のスマートフォンに登録された名前が相手の画面に表示される場合もあります。
いずれにしても、その場で「なぜ知っているのか」と問い詰めたり、「その名前ではない」と否定を重ねたりすると、かえって相手に確認の材料を与えることがあります。本名が知られているかどうかにかかわらず、こちらから新しい情報を足さないことが基本です。
本名が分からないことが請求の場面で意味すること
内容証明郵便は宛先の氏名と住所がなければ送れず、訴訟を起こす場合も、訴状に当事者を特定して記載する必要があります。そのため、本名や住所が分からない段階の相手は、まず電話・SMS・LINEといった手元の連絡手段で接触し、支払いや名乗りを求めてくるのが一般的な流れです。
裏を返すと、この段階で届く「期日までに払わなければ内容証明を送る」「裁判にする」といった連絡は、相手がまだ特定を終えていないことを示している場合があります。ただし、特定を進めている途中である可能性もあり、「まだ知られていないから大丈夫」と判断できる材料にはなりません。
時間が経てば終わるとは限らない
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者が「損害及び加害者を知った時」から3年(けがなど人の身体に関わる場合は5年)で時効にかかるとされています。最高裁判所は、この「加害者を知った時」について、加害者の住所氏名を的確に知らず、請求が事実上できない状況にある場合には、その状況がやみ、住所氏名を確認した時が起算点になるという考え方を示しています(最高裁昭和48年11月16日判決)。
つまり、偽名のために相手が本名を知らない間は、3年の期間がそもそも進み始めていない可能性があります。別に不法行為の時から20年という上限はありますが、「本名を知られないまま3年たてば終わる」とは言えない点に注意が必要です。時効の全体像は風俗トラブルの時効早見表|公訴時効と民事の消滅時効はいつ終わるのかで整理しています。
刑事事件として扱われた場合
本番行為の強要や盗撮など、店とのやり取りが刑事事件として扱われた場合には、捜査機関が必要な照会を行うため、偽名であることは身元が分からない理由になりにくくなります。この場合は民事の請求とは別の流れで進むため、早い段階で弁護士に状況を伝えておくことが大切です。
連絡が来たときに名乗るべきか
相手から本名や住所を求められたときは、「名乗らないこと」と「偽ること」を分けて考える必要があります。
本名・住所・勤務先は、いったん伝えると取り戻すことができません。相手が特定を終えていない段階であれば、自分から伝えることで、請求の手続を相手に代わって進めてしまうことにもなります。一方で、別の偽名を名乗る、偽りの住所を伝えるといった対応を重ねると、後で事実関係を整理するときに、こちらの説明全体の信用を損なうおそれがあります。
伝え方としては、「名前や連絡先は、代理人を通じてお伝えします」「今この場ではお答えできません」のように、答えない理由を短く示すにとどめるのが一つの方法です。事実関係についても、電話口で認めることも、強く否定し続けることも避け、書面で確認する形に移すことが考えられます。すでに自分で相手とやり取りしてしまった方は、【風俗トラブル】弁護士に頼む前に自分で連絡してしまった|その後の交渉への影響もご覧ください。
無視を続けることの限界
電話番号しか知られていない段階では、連絡を返さないことで一時的に静かになることもあります。ただ、相手が特定の手続を進めている場合、次の連絡は自宅への郵便や、より強い形での接触になるおそれがあります。電話番号を変えても過去の番号の契約記録は残るため、特定の経路を断つことにはなりにくいと考えられます。放置した場合に起こりうることは、店からの電話・LINEを無視し続けるとどうなるか|放置の先に起きることの時系列で時系列に沿って説明しています。
弁護士が窓口になると変わること
本名を知られていない状態で請求を受けている方にとって、弁護士に依頼する意味は、相手との交渉を任せられることだけではありません。自分の情報を、いつ、どこまで、誰に開示するかを選べるようになることにあります。
- 弁護士の名前で連絡するため、相手があなた本人の本名や連絡先を探す必要性が薄れます。
- 請求の根拠や金額の内訳、何があったとされているのかを、書面で示すよう求めることができます。
- 本名を相手に伝えるかどうか、伝えるとしても相手方の弁護士限りとするかなどを、交渉の中で調整できます。
- 示談書の当事者の表示や原本の保管方法を工夫し、本名が相手の手元に残る範囲を絞る余地があります。
- 清算条項や接触禁止の条項を入れ、同じ件で再び連絡が来ることを防ぐ形に整えられます。
本名を明かさずに示談できるか
相手が弁護士を立てている場合は、弁護士同士で当事者の情報を管理し、相手本人には開示しない形で合意がまとまることもあります。一方で、相手が身元の確認を強く求める場合や、刑事事件として扱われている場合には、本名を明かさないまま進めることが難しいこともあります。示談書は、誰と誰の間の合意なのかが特定できなければ、同じ請求を繰り返させないための書面として機能しにくいからです。
どこまで開示するかは、相手の姿勢と事案の中身を見ながら判断することになります。相手が用意した示談書の注意点は、店が用意した示談書にサインする危険性|宥恕条項・清算条項の落とし穴をご参照ください。
期限を切られて返答を迫られているときほど、その場で決めずに、一度弁護士に状況を伝えていただくことをおすすめします。当事務所では電話・メール・LINEでご相談をお受けしており、連絡が来たその日のうちにお電話でご相談いただくこともできます。
手元に残しておきたいもの
相談の際や、その後の交渉で事実関係を整理するために、次のものを消さずに残しておくと役に立ちます。
- 予約に使った電話番号・メールアドレス・アカウント名。
- 利用した日時・店名・キャストの名前と、予約時に名乗った名前。
- 支払方法と、カード明細やレシートなどの支払いの記録。
- 相手からの着信履歴・SMS・LINEの画面の写し。
- 相手が本名や住所を知っていると示した文面。
- 身分証を見せたり、写真を撮られたりしたかどうかの記憶。
身分証の提示や撮影に応じていた場合は、偽名で予約していても、店の側が本名を把握している可能性があります。その場面については身分証の提示・撮影を求められた場合|応じる義務と拒否の帰結で解説しています。
まとめ
- 偽名で利用していたことは、請求が来ない理由にも、請求を止める理由にもなりにくいと考えられます。
- 予約時に偽名を伝えることと、責任を引き受ける書面に偽名で署名することは、意味が大きく異なります。
- 相手は電話番号や決済の記録などから、本名や住所をたどる経路を持っていることがあります。
- 本名が分からない間は、時効の3年の期間が進み始めていない可能性があります。
- 連絡が来たときは「名乗らないこと」と「偽ること」を分け、自分から情報を足さないことが基本です。
- 弁護士が窓口になることで、自分の情報をいつ、どこまで開示するかを選べるようになります。
本名を知られていないという状態は、不安と同時に「このまま何もしなければ済むのではないか」という迷いも生みます。ただ、相手が特定を終える前の時期は、こちらが情報の出し方を選べる時期でもあります。家族や職場に知られずに進める方法については、家族・職場に知られずに風俗トラブルを解決する方法|弁護士が解説もあわせてご覧ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


