【解決事例】勤務先のクラブから損害賠償請求・暴行を受けた|弁護士の介入で不当な支配関係を解消し請求を阻止した事例
「父が亡くなった後、しばらく連絡を取っていなかった親族から突然電話がかかってきて、金額を示して支払いを求められている」「実家を引き継いだところ、親族から『自分にも取り分がある』と言われ、印鑑を押すよう迫られている」。相続をめぐる親族からの要求について、このようなご相談をお受けすることがあります。
一方で、要求する側にも事情があります。「介護をほとんど一人で担ったのに何も残らなかった」「遺言があると聞かされただけで、内容の説明も受けられない」といった声もあり、その全てが根拠を欠くものというわけではありません。相続の場面で親族が持ち出す要求には、法律上の受け皿が用意されているものが少なくないためです。
「法的根拠のない要求に応じる義務はない」という説明自体は誤りではありません。ただ、相続の場面ではその言い方だけでは足りない部分があります。根拠のある要求とない要求が、同じ口調で並べて出てくることが多いうえ、根拠があっても要件や期間の壁で止まるものが相当数あるからです。この記事では、相続をめぐって親族から受ける要求を四つの関門で仕分ける考え方を整理します。ある要求が不当要求にあたるかどうかを一般的な枠組みで判断する方法は別稿に譲り、ここでは相続の場面への当てはめに絞ります。
この記事で扱う場面
次のような場面を想定しています。
- 相続人の一人から、法定相続分と異なる内容の遺産分割に同意するよう求められている。
- 遺産を受け取らない代わりに金銭を支払うよう求められている。
- 相続人ではない親族から、介護や援助を理由に金銭を求められている。
- 生前の預金の使い道について説明と返還を求められている。
- 葬儀や納骨の費用を全額負担するよう求められている。
いずれも、要求されている側と要求している側の双方から相談が寄せられる場面です。この記事は一方の立場に立って相手を退けるためのものではなく、要求の中身を根拠・要件・期間・態様の四つに分けて確かめるための手順としてお読みいただくことを想定しています。
見分けの出発点は「根拠の有無」だけではない
相続をめぐる要求は、次の四つの関門を全て通ったときにはじめて、法的な意味で相手の言うとおりになります。
- 誰が言っているのか。その人にその権利があるのか。
- 何を根拠にしているのか。法律上の受け皿があるのか。
- いつまでに言えるのか。期間の制限を過ぎていないか。
- どういう形で言ってきているか。伝え方が許される範囲にとどまっているか。
実務でよく見られるのは、根拠がまったくない要求よりも、根拠はあるものの、要件・期間・相手方・金額のいずれかで止まる要求です。「根拠がないから応じない」と切り捨てても、「根拠があるから言い値どおり」と受け入れても、いずれも実際の落としどころからは離れてしまいます。
根拠があることと、その額が通ることは別
たとえば介護をしたという事情は、法律上まったく評価されないわけではありません。ただし、評価される道筋と、そこで認められる金額の水準は、当事者の実感とは別の基準で決まります。要求の根拠の有無を確かめる作業と、金額の相当性を確かめる作業は、分けて進める必要があります。
関門1 誰が言っているのか
最初に確かめるのは、要求してきた親族が相続人にあたるかどうかです。相続人になるのは、配偶者と、子などの直系卑属、直系尊属、兄弟姉妹に限られます。おじ・おば、いとこ、子の配偶者などは、原則として相続人にはあたりません。
相続人であっても、権利の内容には差があります。たとえば遺言によって取り分がゼロになった場合に一定額の金銭を請求できる遺留分の制度は、兄弟姉妹には認められていません(民法1042条1項)。「兄弟なのだから遺言があっても最低限はもらえるはずだ」という説明は、この点で成り立ちません。
相続人ではない親族からの要求
相続人ではない親族が被相続人の療養看護などを無償で行い、それによって財産の維持や増加に特別の寄与をしたときは、相続人に対して金銭の支払を請求できる場合があります(民法1050条1項)。子の配偶者が介護を担った場合などが典型例です。
ただし、この制度で請求できる相手は相続人であり、遺産そのものを分けてもらう権利ではありません。また、後述するとおり期間の制限が短く設定されています。相続人ではない親族からの要求については、まずこの受け皿にあたるかどうかを確かめることになります。
関門2 何を根拠にしているのか
よく持ち出される要求と、法律上の受け皿の有無を並べると、次のように整理できます。
| 要求の言い方 | 法律上の受け皿 | 確かめる点 |
|---|---|---|
| 法定相続分どおりに分けてほしい | 民法900条・907条 | 相続人の範囲と遺言の有無 |
| 遺言で取り分がないので最低限は払ってほしい | 遺留分侵害額請求(民法1046条) | 請求者が兄弟姉妹でないか、期間内か |
| 生前に多額の援助を受けたのだから返すべきだ | 特別受益の持戻し(民法903条) | 分割の計算上の調整であり、現物の返還請求ではない |
| 介護をしたのだから多く受け取りたい | 寄与分(民法904条の2) | 分割の中で主張するもので、単独の請求権ではない |
| 相続人ではないが介護をした | 特別寄与料(民法1050条) | 親族にあたるか、無償か、期間内か |
| 預金が無断で引き出されている | 不当利得・不法行為、民法906条の2 | 引出しの時期と使途、相続人全員の同意の要否 |
| 印鑑を押す代わりに金銭がほしい | 明文の受け皿はない | 任意の解決金として合意するかどうかの問題 |
| 長男・跡取りだから全て引き継ぐ | 明文の受け皿はない | 遺言・生前贈与など別の根拠があるか |
| 葬儀の費用を全額負担してほしい | 明文の規定はない | 喪主・祭祀承継者の負担とした裁判例がある |
表のうち「明文の受け皿はない」とした項目は、支払ってはいけないという意味ではありません。話し合いで解決金を定めること自体は当事者の自由です。ただし、法律上の義務として支払わなければならないものではないため、金額も支払うかどうかも交渉の対象になるという位置づけになります。
「生前贈与を返せ」と言われた場合
生前に受けた贈与が特別受益にあたるときは、その額を相続財産に持ち戻して各人の取り分を計算します(民法903条1項)。もっとも、これは遺産分割の計算に組み込む仕組みであり、受け取った金銭そのものを相手に引き渡す義務が当然に生じるわけではありません。「まず返せ、話はそれからだ」という順序の要求には、根拠と手順の両面で確かめるべき点が残ります。
葬儀費用の負担を求められた場合
葬儀費用を誰が負担するかについて、民法に明文の規定はありません。裁判例には、あらかじめの契約や当事者間の合意がない場合について、通夜や告別式などの追悼儀式の費用は儀式を主宰した者が、埋葬などの費用は祭祀承継者が負担するのが相当であるとしたものがあります(名古屋高等裁判所平成24年3月29日判決)。異なる考え方を示した裁判例もあり、事案によって結論が分かれる領域です。「相続人なのだから当然に法定相続分どおり負担すべきだ」という説明が、そのまま通るとは限りません。
関門3 いつまでに言えるのか
相続の分野は、期間の制限が制度ごとにばらばらに置かれている点に特徴があります。根拠のある要求であっても、この関門で止まることがあります。
| 制度 | 期間 | 起算点 |
|---|---|---|
| 相続の放棄・限定承認 | 3か月 | 自己のために相続の開始があったことを知った時(民法915条1項) |
| 遺留分侵害額請求 | 1年 | 相続の開始と侵害する贈与・遺贈があったことを知った時(民法1048条前段) |
| 遺留分侵害額請求 | 10年 | 相続開始の時(民法1048条後段) |
| 特別寄与料の請求 | 6か月 | 相続の開始と相続人を知った時(民法1050条2項ただし書) |
| 特別寄与料の請求 | 1年 | 相続開始の時(同項ただし書) |
| 特別受益・寄与分の主張 | 10年 | 相続開始の時(民法904条の3) |
10年の期間制限には経過措置がある
最後の民法904条の3は、令和5年4月1日に施行された比較的新しい規定です。相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則として特別受益や寄与分による修正を求めることができず、法定相続分などを基準に分けることになります。
施行前に開始した相続にも適用がありますが、経過措置が設けられており、相続開始から10年を経過する時と、施行時から5年を経過する時のいずれか遅い時が基準になります。施行時から5年は令和10年3月31日にあたるため、古い相続で長く手つかずになっていた事案ほど、この時期を意識する必要があるということになります。10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしていた場合など、例外にあたる場合もあります。
この関門は、要求を受けている側だけでなく、要求している側にとっても重要です。「いつか話し合えばよい」と先延ばしにした結果、主張したかった事情を反映できなくなることがあります。
関門4 どういう形で言ってきているか
最後の関門は、要求の中身ではなく伝え方です。相続分の請求そのものが正当であっても、その通し方が度を超えれば、別の問題が生じます。権利を持つ者がその権利を実行することは、権利の範囲内であり、かつその方法が社会通念上一般に許容される程度を超えない限り違法の問題を生じないが、その範囲や程度を逸脱すれば違法となる、という枠組みが判例で示されています。
親族間だから何を言ってもよいわけではない
深夜に何度も電話をかける、自宅に押しかけて退去を求められても居座る、勤務先や近隣に知らせると告げて支払を迫るといった行為は、親族間であっても法律上の問題になり得ます。他方で、「支払わなければ家庭裁判所に申立てをする」「弁護士に依頼する」と伝えること自体は、権利行使の予告にあたり、直ちに違法とされるものではありません。両者を混同しないことが大切です。
なお、刑法には親族間の財産犯について特例があり、恐喝の罪にも準用されています。配偶者・直系血族・同居の親族との間では刑が免除され、それ以外の親族との間では告訴がなければ起訴できないとされています。ただし、この特例は犯罪の成立自体を否定するものではなく、慰謝料や返還を求める民事上の責任は別に残ります。また、不退去などの特例の対象外とされている罪もあります。この特例の範囲については、別稿で詳しく整理しています。
よくある思い込み
相談の場でよくうかがう受け止め方を三つ挙げます。
「印鑑を押さなければ何も進まない」
遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立するため、一人でも同意しなければ協議はまとまりません。ただし、話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の調停や審判という手続が用意されています。押印を拒み続けることが最終的な解決になるとは限らず、押印を求める側にとっても、支払によって同意を得ることだけが道ではありません。
「一度署名したら取り返しがつかない」
順序が逆になっている場合があります。署名や押印は、それによって内容が固まる行為です。したがって、迷いがある段階で署名しないことのほうが重要になります。その場で判断を求められたときは、内容を持ち帰って確かめる旨を伝えることができます。
「弁護士名の書面が来たのだから支払義務は確定した」
代理人が就いたことを知らせる書面や、内容証明郵便が届いたことは、相手方が権利行使の意思を示したことを意味します。書面の形式が、その内容の正当性まで裏づけるわけではありません。書かれている根拠と金額は、届いた後でも確かめることができます。
いま整理しておくとよいこと
相談に進む場合も、ご自身で対応を続ける場合も、次の五点が整理されていると話が早くなります。
- 被相続人が亡くなった日と、それを知った日。
- 戸籍から確認できる相続人の範囲と、要求してきた人の続柄。
- 遺言の有無と、ある場合はその形式と保管場所。
- 分かる範囲での財産と負債の一覧、および預金の入出金の記録。
- 要求の内容を、いつ・誰から・どのような言い方で受けたかも含めて書き出したもの。
特に五点目は、要求の根拠を確かめるためにも、伝え方の相当性を検討するためにも役立ちます。やり取りが口頭のみで進んでいる場合は、要点を書面やメッセージで確認しておくと、後から整理しやすくなります。
よくあるご質問
親族から示された金額に応じないと、裁判を起こされてしまいますか
話し合いがまとまらない場合、相手方が家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てたり、遺留分侵害額の支払を求めて訴訟を提起したりすることは考えられます。ただし、手続に進むこと自体は権利行使であり、それを避けるために提示額を受け入れなければならないというものではありません。手続の中では、法定相続分や各制度の要件に沿って内容が検討されます。
「ハンコ代」を求められました。支払う義務はありますか
いわゆるハンコ代は法律上の用語ではなく、これを支払うべき義務を定めた規定もありません。合意を得るための解決金として当事者が任意に取り決めるものです。したがって、支払うかどうかも金額も交渉の対象になります。金額が大きくなる場合には、税務上の取扱いを含めて確認しておくことをおすすめします。
相続人ではないおじから金銭を求められています
相続人でない親族が請求できる余地があるのは、無償で療養看護などを行い財産の維持や増加に特別の寄与をした場合の特別寄与料です。要件にあたるかどうかに加えて、相続の開始と相続人を知った時から6か月、相続開始の時から1年という期間の制限があります。まずは、要求の根拠がこの制度なのか、それとも別の趣旨なのかを確かめることになります。
まとめ
- 相続をめぐる親族からの要求は、根拠の有無に加えて、権利者・要件・期間・態様の四つの関門で確かめる。
- 相続人になるのは配偶者と子などに限られ、兄弟姉妹には遺留分がない(民法1042条1項)。
- 相続人でない親族の受け皿は、特別寄与料の制度である(民法1050条1項)。
- 生前贈与は分割の計算に持ち戻すものであり、当然に現物の返還を求められるものではない(民法903条1項)。
- 遺留分侵害額請求は1年と10年、特別寄与料は6か月と1年、相続の放棄は3か月という期間の制限がある(民法1048条、1050条2項ただし書、915条1項)。
- 特別受益と寄与分の主張は相続開始から10年で制限され、経過措置により令和10年3月31日が一つの区切りになる(民法904条の3)。
- 要求の中身が正当でも、伝え方が度を超えれば別の問題が生じ得る。押印や署名は迷いのある段階では行わない。
親族からの要求への対応をご検討中の方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親族や関係者からの要求をめぐるご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。相続の場面では、根拠のある要求と、そうとは言い切れない要求が同じ場面で並んで出てくることが少なくありません。どこまでが応じるべき部分で、どこからが交渉の余地のある部分なのかを切り分けたうえで、方針を検討します。
要求を受けている方からのご相談はもちろん、ご自身の主張をどのように伝えればよいか迷っている方からのご相談もお受けしています。連絡が続いていて対応に困っている場合や、書面が届いて期限を示されている場合には、署名や送金の前の段階でご相談ください。


