相談と依頼はどう違うのか|相談したら必ず依頼しなければならないのか

若井亮

若井亮

テーマ:一般

弁護士に連絡をとると、そのまま依頼することになってしまうのではないか。そう考えて、問い合わせをためらう方は少なくありません。

 実際には、「相談」と「依頼」は別の場面であり、別の契約です。相談したからといって、その弁護士に事件を任せる義務が生じるわけではありません。逆に、弁護士の側にも、相談を受けた事件をすべて引き受ける義務はありません。

 この記事では、相談と依頼が制度のうえでどう違うのか、どの時点から「依頼」になるのか、依頼しないと決めたときに何が起きるのかを整理します。掲載時点の法令・制度に基づく一般的な説明であり、個別の事情によって結論は変わります。

「相談」と「依頼」は別の契約


相談は助言を受けること、依頼は事件処理を任せること


 法律相談は、起きている出来事を弁護士に伝え、それが法律上どう位置づけられるか、どんな手段があるか、期限は動いているか、といった助言を受ける場です。この段階で、弁護士が相手方に連絡することはありません。

 依頼は、その先の段階です。相手方との交渉、書面の作成・送付、調停や訴訟の手続などを、自分に代わって弁護士に進めてもらうことを取り決めます。民法上は委任契約(民法643条)または準委任契約(同656条)にあたり、弁護士は代理人として動くことになります。

 この違いは、料金表の違いというより、誰が相手方と向き合うかの違いです。相談だけの段階では、相手方に返事をするのも、書面を出すのも、期限を管理するのも本人です。

相談・依頼・裁判は、同じことではない


 弁護士に相談すること、弁護士に依頼すること、裁判を起こすことは、それぞれ別の段階です。弁護士会の広報でも、この三つを一つのものとして捉えている相談者が少なくない、という指摘がされています。

 相談したら依頼することになり、依頼したら裁判になる、という順路が決まっているわけではありません。依頼したうえで、交渉や調停の段階で終わることも珍しくありません。

相談と依頼は、ここが違う


比べる点相談依頼
していること事実を伝え、助言を受ける事件の処理を任せる
契約の性質法律相談(助言の提供)委任・準委任契約(民法643条・656条)
契約書作成しないのが通常(規程30条2項)作成するのが原則(規程30条1項)
相手方との窓口本人弁護士(代理人)
主な費用相談料着手金・報酬金・実費など
期限の管理本人弁護士と分担
終わり方その日で完結する委任契約の終了手続が必要


相談したら、必ず依頼しなければならないのか


依頼するかどうかは相談者が決める


 相談した弁護士に依頼しなければならない、という決まりはありません。相談の場で「検討します」と伝えて持ち帰ることも、ほかの事務所にも相談したうえで決めることもできます。

制度も「相談」と「依頼」を別の判断として組み立てている


 このことは、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助のしくみを見るとはっきりします。法テラスは、無料の法律相談(法律相談援助)と、弁護士費用等の立替え(代理援助など)を分けて運用しています。

 無料法律相談を利用できるのは、収入等が一定額以下であることと、民事法律扶助の趣旨に適することの二つを満たす方です。これに対し、費用の立替制度を利用するには、この二つに加えて「勝訴の見込みがないとは言えないこと」という条件も満たす必要があります。

 つまり、相談は利用できても立替えは利用できない、ということが制度上あり得ます。相談と依頼では、審査の対象も要件も別だということです。

 法テラスは、無料法律相談を同一の問題につき3回まで利用できるとしたうえで、相談をした弁護士・司法書士に必ず依頼をしなければならないというものではなく、回数の範囲内であれば別の弁護士に相談することもできる、と公表しています。1回の相談時間は30分で、3回分をまとめて90分にすることはできない運用です。なお、刑事事件に関する相談は民事法律扶助の対象外とされています。

弁護士の側にも、受任する義務はない


 医師については、医師法19条1項に、正当な事由がなければ診療を拒んではならないという定めがあります。弁護士法には、これにあたる規定が置かれていません。弁護士は、事件を引き受けるかどうかを自分の判断で決めます。

 弁護士職務基本規程34条は、事件の依頼があったときは速やかに諾否を通知しなければならない、と定めています。これは返事を先延ばしにしてはならないという義務であって、引き受ける義務ではありません。

 実際、費用倒れが見込まれる場合、方針が合わない場合、取り扱っていない分野の場合、利益相反にあたる場合などには、受任を断られることがあります。依頼は、相談者と弁護士の双方が合意して初めて成立するもの、と考えておくと認識のずれが少なくなります。

どの時点から「依頼」になるのか


委任契約は合意によって成立する


 委任契約は、当事者が合意すれば成立し、契約書があることが効力の条件とされているわけではありません。

 もっとも弁護士については、弁護士職務基本規程30条1項が、事件を受任したときは弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない、と定めています。同条2項では、法律相談、簡易な書面の作成、顧問契約その他の継続的契約に基づくものなどが例外とされています。

 言い換えると、相談には契約書を作らないのが通常で、依頼には契約書を作るのが原則という違いがあります。

実務上の目印は三つ


  • 委任契約書に署名・押印したか
  • 着手金の金額と支払方法が決まったか
  • 委任状を差し入れたか


 このいずれもしていない段階であれば、まだ相談の途中であることが多いといえます。見積りをもらった、方針の説明を受けた、という段階は、通常はまだ依頼ではありません。

「まだ決めていない」は言葉にしておく


 一方で、契約書がないから何も始まっていない、と言い切れるわけでもありません。やり取りの内容によっては、依頼する合意があったかどうかが後から問題になることもあります。

 迷っている段階では、「今日は相談までにしたい」「持ち帰って決めたい」と口に出しておくほうが、双方の認識がそろいます。

費用がどこで変わるのか


名目ごとに、発生する時点が違う


費用の名目何に対する費用か発生する時点
相談料相談そのもの相談を受けたとき
着手金事件処理に着手すること依頼(受任)のとき
報酬金得られた結果事件が終了したとき
実費・日当印紙代・郵券・交通費など手続の進行に応じて


 相談料は相談そのものへの対価で、依頼するかどうかとは関係なく発生します(初回を無料としている事務所もあります)。着手金は事件処理に着手することへの対価で、希望どおりの結果にならなかった場合でも返還されないのが原則です。

 相談料を着手金に充当する扱いをしている事務所もありますが、これは事務所ごとの取り決めです。確認しておきたい点のひとつになります。

一律の相場を示しにくい理由


 弁護士報酬については、かつて日本弁護士連合会の報酬基準がありましたが、2004年に撤廃され、現在は各事務所が自分で定めています。そのため、「相談料はいくら」「着手金はいくら」と一律に示すことはできません。金額は、相談を申し込む段階で確かめておくとよいでしょう。

「相談だけで終える」という選択


相談だけで足りることもある


  • 相手方が話し合いに応じており、提示された条件の当否だけを確かめたい場合
  • 請求されている金額に比べて、費用の負担が大きくなりそうな場合
  • 内容証明・少額訴訟・民事調停など、自分で使える手続で進められる見込みがある場合
  • まだ相手方が動いておらず、対応の方針だけ決めておきたい場合


相談を重ねながら、自分で進めるという形


 依頼はせず、節目ごとに相談を繰り返すという進め方もあります。相手方とのやり取りや書面の提出は自分で行い、判断に迷う場面で助言を受ける形です。

 この場合、費用は相談料が中心になりますが、期限の管理も相手方への対応も自分に残ります。継続的な相談を受けているかどうかは事務所によって異なるため、初回の相談時に確かめておきたい点です。

相談しても、状況が変わらないことがある


 相談すれば必ず状況が動く、というものでもありません。法律上の根拠が乏しい、相手方に支払能力がない、費用と時間が見合わない、ほかの窓口のほうが適している——そうした説明で終わることもあります。

 ただ、どこまでが争えて、どこからが難しいのかの線が引けること自体には意味があります。何を求め、何を手放すかを決められるのも、判断の材料がそろってからです。

その場で決めなくてよい


即答を避けたいときの伝え方


  • 今日は状況の整理までにして、依頼するかは持ち帰って決めたいです
  • 見積りと委任契約書の案をいただけますか。読んでから返事をします
  • ほかにも相談を予定しているので、決めるのは来週にさせてください


 期限の迫った書面が届いている場合は、いつまでに返事をすればよいかもあわせて聞いておくとよいでしょう。

説明を求めてよい根拠


 弁護士職務基本規程は、受任にあたって弁護士がすべきことを定めています。

  • 事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬及び費用について適切な説明をすること(29条)
  • 依頼者に不利益な事項について説明すること(32条)
  • 法律扶助制度などを説明し、利用を助言すること(33条)
  • 経済的利益、事案の難易、時間、労力などに照らして適正かつ妥当な報酬を提示すること(24条)
  • 弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成すること(30条1項)


 説明を求めることは、遠慮の要る行為ではありません。分からない部分を残したまま契約する必要はなく、その場で理解できなければ持ち帰って構いません。

断っても、話した内容の扱いは変わらない


 依頼しないと決めた場合でも、相談で話した事柄の扱いが変わるわけではありません。弁護士法23条は、弁護士は職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う、と定めています。

 ただし同条には「正当な理由がある場合」という除外が置かれており、あらゆる場面で例外なく守られると言い切れる規定ではありません。自宅への郵便を避けたい、家族に知られたくないといった事情がある場合は、相談の冒頭で伝えておくのが現実的です。

相談だけでも起きること


相談を受けた事務所は、相手方の依頼を受けられなくなることがある


 弁護士法25条は、弁護士が職務を行ってはならない事件を挙げています。1号は「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」、2号は「相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと認められるもの」です。弁護士職務基本規程27条にも、ほぼ同じ規定があります。

 ここでいう「賛助」について、最高裁は、相談を受けたものの対応を断ったり特に法的な助言をしなかったりした場合には当たらないが、事情を聴いたうえで法的な助言をした場合には当たる、という考え方を示しています(最高裁昭和33年6月14日判決)。

 つまり、依頼に至らなかった相談であっても、その事務所は、同じ事件について相手方から依頼を受けられなくなることがあるということです。相談は、何も起きていない状態ではありません。

予約のときに相手方の名前を聞かれる理由


 相談の予約をする際に、相手方や関係者の氏名を尋ねられることがあります。すでにその相手方から相談や依頼を受けていないかを確かめるためです。

 法テラスも、相談を担当する弁護士等がすでに事件の相手方やその関係者から相談や依頼を受けている場合には、利害の対立を避けるため相談を受けられないことがある、と説明しています。裏を返せば、相手方が先に相談していた事務所には、こちらは相談できないことがある、ということでもあります。

ただし、どんな相談でもそうなるとは限らない


 立ち話程度のやり取りや、具体的な事実関係を伝えない抽象的な質問にとどまる場合には、25条2号にいう「信頼関係に基づく」協議とまでは認められないこともあります。相談したという事実だけで相手方の代理人を封じられる、という趣旨の制度ではありません。

依頼したあとに考えが変わったら


委任は、いつでも解除できる


 民法651条1項は、委任は各当事者がいつでも解除することができる、と定めています。依頼した後に方針が合わないと感じた場合、契約を終了させること自体は可能です。

 ただし同条2項は、相手方に不利な時期に解除した場合などについて損害賠償の定めを置いています(やむを得ない事由があるときを除く)。精算の問題も残ります。すでに行われた事務の割合に応じた報酬(民法648条3項)、立て替えた費用の償還(同650条)、預かった書類や金銭の引渡し(同646条)などです。

契約の前に「終わり方」を確かめておく


  • 途中で終了した場合、着手金はどのように扱われるか
  • 実費の精算はどうなるか
  • 預けた資料や預り金はいつ返ってくるか(規程45条)
  • 終了時にどのような説明を受けられるか(規程44条)


 着手金の扱いは、委任契約書の定めによります。始め方よりも終わり方のほうが、後から食い違いが生じやすい部分です。

相談の前に決めておくとよい三つのこと


  1. 今日は聞くだけにするのか、条件次第で依頼まで決めてよいのか
  2. 依頼するとしたら、どこまで任せたいのか(交渉まで/調停・訴訟まで)
  3. いつまでに決める必要があるのか(期限の書かれた書面が届いていないか)


 この三点を先に整理しておくと、相談の場で流されにくくなります。とくに三つ目は、相談そのものの急ぎ具合を左右します。裁判所からの書面や、回答期限の記載された通知が届いている場合は、準備が整うのを待つより先に相談日を確保したほうがよい場面もあります。

まとめ


  • 相談は助言を受ける場、依頼は事件処理を任せる契約で、別のものである
  • 相談した弁護士に依頼しなければならない決まりはなく、法テラスの制度も相談と依頼を別の要件で運用している
  • 弁護士の側にも受任義務はなく、依頼は双方の合意で成立する
  • 委任契約書・着手金・委任状が、相談と依頼を分ける実務上の目印になる
  • 依頼に至らなかった相談でも、その事務所は相手方の依頼を受けられなくなることがある
  • 依頼後も委任はいつでも解除できるが、精算が残るため、契約前に終わり方を確かめておく


 依頼するかどうかを決めるためにも、まず材料が要ります。相談は、その材料をそろえるための場です。決めるのはそのあとで構いません。

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Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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