【カスハラ対策】厚労省指針が定める措置は10項目|どれから手をつけるか
「実家に帰ったら、見覚えのない契約書が置いてあった」「親が誰かに何度も現金を渡しているようだ」。高齢の親が何らかの要求を受けていると気づいたとき、家族としてはすぐに止めたいと考えるのが自然です。
ただ、法律の世界では、家族であるというだけでは、本人に代わって契約を解除したり相手と話をつけたりする権限は生じません。一方で、家族だからこそ先に動ける場面や、家族の側から使える窓口もあります。介入できる範囲を取り違えると、後から「その解除は効力がない」と言われたり、親本人との関係が固くなって事情を聞けなくなったりすることがあります。
この記事では、高齢の親が要求を受けている場面を想定し、家族がどこまで踏み込めるのか、どこから本人の意思が必要になるのかを、要求の出どころ別に整理します。金額の交渉術ではなく、動き出す前に確かめておきたい順序を扱います。
この記事が想定している場面
- 訪問してきた業者と、高額な工事や商品の契約をしていた。
- 電話勧誘を受けて、同じような商品を何度も購入していた。
- 同居している親族や身内が、生活費の名目で繰り返しお金を受け取っている。
- 団体や知人から、寄付や貸付けを求められている。
- 面識のない相手から電話が続き、通帳の出金が増えている。
いずれも「親が何かを求められている」という点では同じですが、相手が誰かによって使える制度も相談先も変わります。まずはそこを分けるところから始まります。
出発点は「家族に当然の代理権はない」こと
親子であることは代理権の根拠にならない
夫婦の間には日常の家事に関する債務の規定がありますが、成人した親子の間には、これに相当する一般的な代理の仕組みはありません。親が結んだ契約の当事者は親本人であり、子が自分の名前で解除の通知を出しても、原則として効力は生じません。相手方の業者が「ご本人からうかがいます」と述べたとき、それ自体は不当な対応とは言い切れないのです。
家族が本人に代わって動くには、本人からの委任、つまり本人の意思にもとづく代理権の付与が必要になります。逆にいえば、親に判断能力があり、親が「任せる」と言える状態であれば、委任状を用意することで家族が窓口に立てる範囲は広がります。
判断能力があるかどうかで話が二つに分かれる
親に判断能力があるなら、最終的に決めるのは親です。家族が納得できない契約でも、家族の判断だけで白紙に戻すことはできません。この場合に家族ができるのは、事実を確かめ、期間を管理し、本人が判断するための材料と窓口を用意することです。
判断能力が低下している場合は、契約そのものの有効性を争える余地や、家庭裁判所の手続を通じて権限を得る道が出てきます。ただしこの判断は医学的な評価を含むため、家族の印象だけで結論を出さず、かかりつけ医や地域包括支援センターへの相談を挟むのが現実的です。
要求の出どころで打てる手が変わる
| 要求の出どころ | 主に使う枠組み | 最初に相談する窓口 |
|---|---|---|
| 訪問販売・電話勧誘などの事業者 | 特定商取引法・消費者契約法 | 消費生活センター(消費者ホットライン188) |
| 同居の家族・親族 | 高齢者虐待の防止等に関する法律 | 市区町村の高齢者福祉担当・地域包括支援センター |
| 団体・法人による寄付の求め | 不当寄附勧誘防止法・民法 | 消費生活センター・弁護士 |
| 面識のない相手からの電話や訪問 | 刑法(詐欺・恐喝など) | 警察(#9110・110番) |
| 知人や友人など個人 | 民法(贈与・貸借の整理) | 弁護士 |
同じ「お金を求められている」でも、事業者相手なら消費者保護の制度が使え、親族相手ならむしろ福祉部門が窓口になります。どこに持ち込むかを間違えると、使えたはずの期間を過ぎてしまうことがあります。
事業者との契約なら、まず日付を確定する
クーリング・オフには起算点がある
訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、訪問購入では、法律で定められた書面を受け取った日から8日以内であれば、無条件で申込みの撤回や契約の解除ができるとされています。連鎖販売取引と業務提供誘引販売取引は20日間です。通信販売にはこの制度がありません。通知は書面のほか電磁的記録によることもできます。
家族が最初にすべきなのは、交渉ではなく書面を受け取った日を特定することです。契約書、パンフレット、封筒、レシートを、日付が分かる状態のまま集めてください。捨ててよいものはありません。
期間が過ぎていても、残っている手がある
| 使える手 | 起算点 | 期間 |
|---|---|---|
| クーリング・オフ | 法律で定められた書面を受け取った日 | 8日間(連鎖販売取引等は20日間) |
| 過量販売の解除 | 契約の締結時 | 1年 |
| 消費者契約法にもとづく取消し | 追認できる時/契約の締結時 | 1年/5年 |
通常必要とされる分量を著しく超える契約をさせられていた場合には、訪問販売と電話勧誘販売について、契約から1年以内であれば解除できる仕組みがあります。同じ商品を次々に買わされていた事案では、この枠組みが使えることがあります。
また消費者契約法は、加齢または心身の故障により判断力が著しく低下していることを事業者が知りながら、生活の維持に関する不安をあおって契約させた場合について、契約を取り消せると定めています(法4条3項7号)。取消権の行使期間は、追認をすることができる時から1年、契約の締結時から5年です。霊感などによる勧誘の類型については3年および10年とされています。
家族が代わりに通知を出すときの注意
実務では、家族が本人の意思を確認したうえで通知の作成や発送を手伝うことがあります。その場合でも、通知の名義は契約の当事者である本人とし、本人が署名するか、委任状を添えるのが基本です。本人の意思を確かめないまま家族の判断だけで出した通知は、後から効力を争われる余地が残ります。
期間が迫っているときは、内容を完璧に整えることより、期間内に発信した事実を残すことが優先されます。発信の記録が残る方法を選び、通知の控えを保管してください。判断に迷う場合は、発送前に消費生活センターへ相談すると、必要な記載を確認できます。
相手が親族や同居者である場合
「経済的虐待」という枠組みがある
高齢者虐待の防止等に関する法律は、養護者または高齢者の親族が、高齢者の財産を不当に処分することや、高齢者から不当に財産上の利益を得ることを、高齢者虐待の一類型として定めています。同居している家族が生活費の名目で年金を持ち出している、通帳と印鑑を預かったまま返さないといった相談は、この枠組みで扱われることがあります。
注意したいのは、対象が養護者に限られず親族も含まれている点です。介護をしていない親族による持ち出しであっても、この定義の外に出るわけではありません。
通報には二段構えの規定がある
同法は、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人について、生命または身体に重大な危険が生じている場合は速やかに市町村へ通報しなければならないと定め、それ以外の場合も通報の努力義務を課しています。通報を受けた市町村の職員は、通報者を特定させる事項を漏らしてはならないとされています。
「家族の恥を役所に持ち込むようで気が引ける」という声はよく聞きます。ただ、市町村や地域包括支援センターは、まず本人の状況確認から入り、関係者の調整を含めて対応を組み立てる役割を担っています。刑事の手続に直結する相談ではないという点は、知っておいてよいところです。
警察に持ち込むかどうか
親族間の財産に関する犯罪には、刑法上、刑が免除される特例が置かれている類型があり、相手との関係によって扱いが変わります。恐喝についても準用の規定があります。相手が親族の場合は、刑事の道だけを想定するより、福祉部門への相談と民事上の整理を並行させるほうが現実的なことが多いといえます。
お金の流れを確かめる――銀行でできること
銀行の窓口では立場ごとに扱いが分かれる
全国銀行協会は2021年2月に、高齢の顧客や代理の方との金融取引に関する考え方を公表しています。そこでは、本人に認知判断能力がある場合、低下している場合、法定代理人との取引、任意代理人との取引、代理権のない親族からの依頼という区分ごとに、対応の考え方が整理されています。
このうち代理権のない親族からの払戻し依頼については、成年後見制度を利用していない、または利用できない場合の極めて限定的な対応と位置づけられ、本人が支払っていたであろう医療費の支払いなど、本人の利益に適合することが明らかな場合に限って応じることが考えられる、という整理がされています。なおこの考え方は各行の参考として示されたもので、一律の対応を求めるものではないとされており、実際の扱いは金融機関ごとに異なります。
元気なうちにできる備え
本人に判断能力があるうちであれば、金融機関に代理人を届け出ておく方法や、任意後見契約を結んでおく方法があります。要求を受けている場面が落ち着いた後で、次に同じことが起きたときに家族が動ける道を作っておくという発想です。親と話しにくい話題ではありますが、備えの話は、判断能力が十分なうちにしかできません。
判断能力が下がっている場合の制度
現在は3つの類型が動いている
法定後見の制度は、本人の判断能力の程度に応じて補助、保佐、後見の3類型に分かれています。家庭裁判所に申立てをして、選任された補助人、保佐人、成年後見人が、代理権や取消権にもとづいて本人を支援する仕組みです。取消権が付与されていれば、本人が単独でした一定の契約を後から取り消せる場合があります。
申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族などです。申立てから選任までには一定の時間がかかるため、クーリング・オフの期間内に間に合わせる手段としては使えません。目の前の契約への対応と、制度の申立ては、別の時間軸で進むものと考えてください。
2026年に成立した改正法との関係
2026年6月17日に成立し、同月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は、後見と保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化するという内容を含んでいます。本人に必要な事項について個別に代理権や取消権を付与する形に改め、制度を利用する必要がなくなったときには利用を終了できるようにするものです。
成年後見制度に関する部分の施行日は、公布から2年6月を超えない範囲内で政令で定める日とされており、この記事の執筆時点では現行の3類型が動いています。すでに開始している後見や保佐については、経過措置が置かれています。いま申立てを検討している場合でも、制度が改まる方向にあることは、専門家に相談する際に伝えておくとよい情報です。
制度を使うほどではないと感じるとき
判断能力の低下が軽い段階では、社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業のように、福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理を支援する仕組みもあります。家庭裁判所の手続に進む前に、地域包括支援センターで選択肢を確かめておくと、負担の少ない方法が見つかることがあります。
家族が交渉の窓口になれる範囲
家族が報酬を得ずに親の相談相手になり、事実関係を整理して相手方に連絡すること自体は、弁護士法の問題になりにくい行為です。ただし契約の当事者は本人ですから、相手方が本人との対応を求めた場合、家族が代わりに合意を成立させることはできません。合意の場面では、本人の署名か、本人からの委任が必要になります。
裁判になった場合はさらに絞られます。訴訟代理人となれるのは原則として弁護士に限られ、簡易裁判所については裁判所の許可を得て弁護士でない人が代理人となれる場合があります。また、裁判所の許可を得て補佐人として本人とともに出頭し、陳述を補う仕組みもあります。いずれも裁判所の判断を経る必要があり、家族の立場から当然に使えるものではありません。
本人が「放っておいてほしい」と言うとき
家族の相談で最も多い行き詰まりがここです。判断能力に問題がない親が、書類を見せない、相手をかばう、家族の介入を嫌がるという場面では、家族が動ける範囲は狭くなります。
それでも残っている選択肢はあります。
- 本人が話した内容と、支払いの日付や金額だけでも記録に残しておく。
- 消費生活センターや地域包括支援センターの連絡先を、本人が使える形で渡しておく。
- ケアマネジャーや民生委員など、本人が受け入れやすい第三者から声をかけてもらう。
- 本人が相談に行くと決めたときに同行できるよう、日程を空けておく。
- 生命または身体に重大な危険がうかがわれる場合は、市区町村に相談する。
説得を重ねるほど本人が口を閉ざし、状況が見えなくなることがあります。家族の役割は、決めさせることではなく、本人が決め直せる状態を保っておくことだと考えると、動きやすくなる場面があります。
記録として残しておきたいもの
- 契約書、見積書、パンフレット、届いた封筒を、日付が分かる状態でそのまま保管する。
- 通帳の記帳を続け、出金の日付と金額を時系列に書き出しておく。
- 訪問や電話があった日時と、親から聞いた内容を、聞いた日ごとにメモしておく。
- 工事が行われた場合や商品が届いた場合は、現状を写真で残しておく。
- 親から聞いた事実と、家族が推測した部分を分けて書いておく。
最後の点は見落とされがちですが、相談を受ける側にとっては重要です。推測が事実として混ざっていると、使える制度の判断がずれてしまうためです。
よくあるご質問
親が契約書を見せてくれません。何から始めればよいですか
契約書が手元になくても、通帳の出金や、届いた商品、始まった工事から、時期をおおよそ絞れることがあります。まずは日付の手がかりを集めたうえで、家族の立場で消費生活センターに相談することができます。本人からの相談を前提とする手続に進む段階で、あらためて本人の意思を確認する流れになります。
私が親の代わりにクーリング・オフの通知を出してもよいですか
通知の名義は本人とし、本人の署名か委任状を用意するのが基本です。本人の意思を確かめないまま家族の判断だけで出した通知は、効力を争われる余地が残ります。期間が迫っている場合は、その点も含めて消費生活センターや弁護士に事情を伝えてください。
相手が身内です。事を荒立てたくないのですが
市区町村や地域包括支援センターへの相談は、刑事の手続に直結するものではなく、本人の状況確認と関係者の調整から入るのが通常です。通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという規定も置かれています。刑事にするかどうかを決める前の段階で使える窓口だと考えてよいでしょう。
まとめ
- 家族であることだけでは、本人に代わって契約を解除する権限は生じない。
- 本人に判断能力があるなら、最終的に決めるのは本人であり、家族の役割は材料と窓口の用意になる。
- 相手が事業者か、親族か、面識のない第三者かで、使える制度も相談先も変わる。
- 事業者との契約では、交渉より先に書面を受け取った日を確定する。
- クーリング・オフの期間を過ぎていても、過量販売の解除や消費者契約法の取消しが残っている場合がある。
- 親族による持ち出しは、高齢者虐待の防止等に関する法律の経済的虐待として扱われることがある。
- 判断能力が下がっている場合は家庭裁判所の手続があるが、目の前の期間には間に合わないため別の時間軸で考える。
- 本人が拒んでいる間も、記録を残し、窓口の情報を渡しておくことはできる。
ご相談について
高齢のご家族が要求を受けている場面では、どの制度をどの順番で使えるかが、事実関係の細部で変わります。契約書が見当たらない、相手が身内である、本人が話したがらないといった事情があっても、いまある材料から取り得る手を整理することはできます。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ご家族からのご相談もお受けしています。お手元の書類やお金の動きが分かるものをご用意のうえ、まずはお気軽にご連絡ください。


