依頼するかどうかを決める5つの判断軸
弁護士に依頼して「今後のご連絡は代理人宛にお願いします」という通知を出した。それなのに、相手方本人から電話が鳴り、メッセージが届き、自宅にまで人が来る——。依頼後によく寄せられる相談のひとつです。
このとき多くの方が最初に抱くのは、「これは違法ではないのか」「弁護士に頼んだ意味がないのではないか」という疑問だと思います。この記事では、依頼後に相手方から直接連絡が来たときに何が起きているのかを整理したうえで、窓口を一本に保つための具体的な運用をご説明します。
「窓口一本化」とは何をしている状態か
窓口一本化とは、その事件についてのやり取りの宛先を、代理人である弁護士に集約する運用のことをいいます。弁護士に依頼すると、通常は相手方に対して代理人に就任した旨の書面(受任通知)が送られ、以後の連絡は事務所宛にしてほしい旨が記載されます。
「一本化」はこちら側の運用ルールであって、相手を縛る制度ではない
ここが最初につまずきやすい点です。窓口一本化は、依頼した側が「自分はこの窓口を通して対応します」と宣言し、それを守るという運用です。相手方本人に対して「連絡してはならない」という法的な義務を新たに発生させるものではありません。
そのため、通知を出したあとに相手方本人から直接連絡が来ること自体は、それほど珍しいことではありません。想定外の異常事態ではなく、起こり得ることとして手順を決めておくのが実務的な備え方になります。
なお、受任通知そのものの記載内容や送り方については別の記事で扱っています。ここでは「送ったあとの運用」に絞ってご説明します。
相手方が直接連絡してくる理由は一つではない
直接連絡が来ると、どうしても「嫌がらせだ」と受け取ってしまいがちです。しかし実際には、次のようにいくつかの背景が考えられます。
- 通知がまだ届いていない、あるいは届いたが内容を読んでいない
- 弁護士を通すと費用や時間がかかると考え、直接話したほうが早いと思っている
- 「本人同士で話せば分かってもらえる」と考えている
- 事件と関係のない用件(子どもの受け渡し、共有物、同じ職場や近隣の事情など)が混ざっている
- こちらに心理的な圧力をかける意図がある
背景が違えば、こちらの返し方も変わります。少なくとも、最初の1回目の連絡をもって相手の意図を決めつけない、という姿勢は持っておいたほうがよいと思われます。
直接連絡は「違法」なのか——止める力の3つの層
この点は、いくつかの層に分けて整理すると理解しやすくなります。
| 区分 | 根拠となるもの | 誰を縛るか | 実際の効き方 |
|---|---|---|---|
| 法律上の禁止 | 貸金業法21条1項9号、債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)18条8項 | 貸金業者・債権回収会社 | 弁護士等からの書面通知後、本人に直接弁済を要求することが禁じられる |
| 弁護士を縛る規律 | 弁護士職務基本規程52条 | 相手方に就いた弁護士 | 正当な理由なく、代理人の承諾を得ずに直接本人と交渉してはならない |
| 事実上の効果 | 受任通知の記載と取引上の慣行 | 法的に縛るものではない | 多くの場面で連絡は代理人宛に移るが、移らないこともある |
整理すると、相手方が個人の場合、本人がこちらに直接連絡すること自体を禁じる法律の規定は、原則として見当たりません。つまり、多くのケースで働いているのは三段目の「事実上の効果」です。
もっとも、これは「連絡が来ても何もできない」という意味ではありません。連絡の頻度や態様が一定の線を越えれば、別の問題として扱われます。この点は後半で改めて触れます。
それでも窓口を一本に保つ理由
法律上の禁止がないのなら、少しくらい応じてもよいのではないか——そう考える方もいらっしゃいます。しかし、依頼した側にとって一本化を保つことには、次のような実利があります。
- 主張が二本立てにならない。代理人が組み立てている方針と、本人がその場で口にした内容が食い違うと、後で説明の手間が増えます
- その場の一言が記録として残り得る。通話やメッセージは相手方が保存していることがあり、後の手続で提出されることもあります
- 本人限りで法律上の効果が生じてしまうことがある。代理人がついていても、本人が自ら合意すれば和解が成立し得ますし、支払義務を認める言動が時効の更新(民法152条1項)につながることもあります
- 交渉の順序と期限をこちら側で管理できる。相手方が設定した期限に、その場で答えを出す必要がなくなります
特に3点目は見落とされがちです。弁護士に代理権を与えても、本人が当事者であることは変わりません。裁判の場面でも、代理人の事実に関する陳述を本人がその場で取り消し・訂正できる旨の規定が置かれています(民事訴訟法57条)。代理人を立てることは、本人が何も言えなくなることを意味しません。だからこそ、自分の側で「言わない」と決めておく必要があります。
連絡が来たときの初動——手段別の考え方
実際に連絡が来たときの扱いは、手段によって異なります。以下は一般的な考え方であり、事案や危険の程度によって適切な対応は変わります。
| 連絡手段 | その場の対応の考え方 | 残しておきたいもの |
|---|---|---|
| 電話(着信) | 出ない選択も、出て用件だけ聞く選択もあり得ます。いずれにしても事件の中身の話には入りません | 着信日時・番号・回数 |
| 留守番電話 | 再生したうえで保存します。折り返すかどうかは弁護士と相談してから決めます | 音声データと日時 |
| SMS・メッセージアプリ | 既読や返信を急ぎません。削除もしません | 画面全体と日時が分かる形 |
| メール | 返信せず、弁護士に転送します | 元のメール(ヘッダーを含む) |
| 郵便・書面 | 封筒ごと保管し、開封した日を控えます | 消印と受領日 |
| 自宅や職場への訪問 | 応対を続けず、退去を求めます。人のいる場所へ移ることも検討します | 日時・滞在時間・居合わせた人 |
| 家族や職場を経由した連絡 | 取り次いだ方に、日時と伝えられた内容を控えてもらいます | 伝えられた文言 |
「出ない」ことが常に最善とは限らない
着信をすべて無視すると、相手方が別の手段に切り替え、家族や勤務先に連絡が及ぶことがあります。事案によっては、用件だけ聞いて切る対応のほうが波及を抑えられることもあります。どちらを選ぶかは、相手方との関係や事件の性質を踏まえて、依頼している弁護士と方針を合わせておくとよいでしょう。
返す場合の「型」を決めておく
返答するのであれば、内容は短く、事件の中身に触れず、宛先を示すだけにとどめるのが基本形です。たとえば次のような文面です。
「ご連絡ありがとうございます。本件は◯◯法律事務所の△△弁護士に委任しております。恐れ入りますが、今後のご連絡は同事務所宛にお願いいたします。」
この型を事前に用意しておくと、突然の連絡にその場で言葉を探さずに済みます。逆に、次のような返し方は避けたほうが無難です。
- 金額や事実関係に触れる(「あの件はそちらにも落ち度がある」など)
- 謝罪や約束と受け取られ得る表現を使う(「必ず払います」「後で連絡します」など)
- 相手の主張を評価する(「その言い分はおかしい」など)
- 感情的なやり取りに応じ、往復を重ねる
いずれも、それ自体が直ちに不利になるとは限りません。ただ、後になって「このとき本人はこう言っていた」と持ち出される材料になり得ます。
着信拒否・ブロックは正解か
連絡を物理的に遮断したくなるのは自然な気持ちです。ただ、一律の遮断には次のような副作用も指摘できます。
- どのような連絡がどの頻度で来ていたかの記録が残らなくなる
- 相手方が別の手段や第三者経由に切り替え、把握しにくくなる
- 子どもの受け渡しなど、事件と別の必要な連絡まで届かなくなる
- やり取りの経緯を後から説明する際に、遮断の事実が争点として持ち出されることがある
中間的なやり方として、受信は残したまま返信しないという設計があります。通知だけをオフにする、専用のフォルダに自動で振り分ける、事件用に別の連絡先を用意する、といった方法です。安全上の懸念が大きい場合は遮断を優先すべき場面もありますので、どこまで遮断するかは弁護士と相談して決めるのが安全です。
記録の残し方と、弁護士への渡し方
直接連絡は、後になって経緯を説明する必要が出てくることがあります。次の5点が揃っていると、代理人が状況を把握しやすくなります。
- 日時(年月日と時刻)
- 手段(電話・SMS・メール・訪問など)
- 相手(本人か、第三者を介したものか)
- 内容(要旨で足ります。逐語である必要はありません)
- その後の対応(出た/出ない/返した/返していない)
渡し方については、スクリーンショットだけでなく元のデータも残しておくと、あとで確認が必要になったときに困りません。証拠の残し方そのものについては別の記事で詳しく扱っています。
事件と別の用件が混ざるときの切り分け
相手方との関係が完全に切れていない場合、連絡をすべて止めることが現実的でないこともあります。子どもの受け渡し、共有している不動産や車、同じ職場や近隣であること、共同名義の契約などが典型です。
このような場合は、用件ごとに窓口を分けるという設計が考えられます。事件に関する話は代理人宛、日常的に必要な連絡は限定した手段と時間帯のみ、といった線引きです。線引きの内容と、境界にある話題(たとえば費用負担の話)をどちらに寄せるかは、あらかじめ弁護士と決めておくと迷わずに済みます。
線を越えた連絡には別の枠組みがある
直接連絡それ自体が原則として違法ではないとしても、その頻度や態様が一定の程度を超えると、話は変わってきます。
- 執拗な架電や深夜早朝の連絡が繰り返される場合
- 害を加える旨を告げるような文言が含まれる場合
- 義務のないことを行わせようとする言動がある場合
- 店舗や勤務先に押しかけ、業務に支障が生じている場合
- 恋愛感情やその裏返しの感情に基づくつきまといに当たり得る場合
これらは、刑法の脅迫罪・強要罪・業務妨害罪や、ストーカー行為等の規制等に関する法律の枠組みに関わり得ます。また、民事の手続として、面談の強要や接近を禁じる仮処分の申立てが選択肢になることもあります。
どの枠組みが使えるかは、記録の量と質に左右されます。前項でご説明した記録が、ここで意味を持ってきます。なお、身体の安全に不安がある場合は、手続の検討より先に警察への相談を含めた安全確保を優先してください。
相手方にも弁護士がついている場合
相手方本人から直接連絡が来たとき
弁護士職務基本規程52条は弁護士に向けられた規律であり、相手方本人の行動を縛るものではありません。したがって、相手方に代理人がいても、本人がこちらに連絡してくること自体は起こり得ます。
この場合は、こちらの弁護士から相手方代理人に対して、本人への助言を求める申入れをすることが考えられます。代理人を介した申入れによって連絡が収まることもありますが、必ず収まるとは限りません。
相手方の弁護士から、こちら本人に直接連絡が来たとき
こちらに代理人がついていることを知りながら、相手方の弁護士が直接連絡してきた場合は、規程52条に関わる問題になり得ます。まずは応答せず、依頼している弁護士に伝えてください。多くは弁護士間の申入れで整理されます。
制度としては、弁護士について懲戒の事由があると考える場合に、所属弁護士会に懲戒を求める仕組みがあります(弁護士法58条1項)。ただし最高裁は、事実上または法律上の根拠を欠く懲戒請求について、請求者がそのことを知りながら、または通常の注意を払えば知り得たのにあえて請求したなど、制度の趣旨目的に照らして相当性を欠く場合には、不法行為を構成し得ると判断しています(最高裁平成19年4月24日第三小法廷判決)。使うかどうかは慎重に検討すべき手段であり、まずは代理人と事実関係を確認するところから始めるのが順序といえます。
依頼した段階で決めておきたいこと
直接連絡は、起きてから対応を考えるより、起きる前に手順を決めておくほうが負担が小さくなります。委任契約を結ぶ前後に、次の点を確認しておくとよいでしょう。
- 相手方から連絡が来たとき、出るのか出ないのか、事務所としての方針
- 返す場合の文面の型と、その範囲
- 連絡があった際、いつ・どの手段で事務所に共有するか
- 着信拒否やブロックをどこまで行うか
- 事件と別の用件がある場合の切り分けの線
- 夜間や休日に連絡があったときの連絡先
おわりに
依頼後に相手方から直接連絡が来ることは、弁護士に頼んだ意味がなかったことを示すものではありません。窓口一本化は、相手を縛る制度ではなく、こちら側が守る運用だからです。
大切なのは、連絡が来ること自体をゼロにしようとするより、来たときに何をして何をしないかを決めておくことだと考えています。返さない、記録する、代理人に渡す——この3つが習慣になっていれば、多くの連絡は交渉の流れに影響を与えないまま処理できます。
連絡の頻度や内容に不安を感じている場合や、事件と別の用件が絡んで切り分けに迷っている場合は、そのまま抱え込まず、依頼している弁護士に早めに状況を伝えていただければと思います。当事務所でも、依頼後のやり取りの設計を含めてご相談をお受けしています。


