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カスタマーハラスメント対策が事業者の義務となる日まで、あと1か月を切りました。準備を進めている事業者がいる一方で、「何から手をつければよいのか分からないまま9月になってしまった」というご相談も届いています。
結論から申し上げると、今からでも、最低限の形は整います。ただし、1か月で仕上がるものと、10月以降に回してよいものを分けて考える必要があります。すべてを同時に進めようとすると、どれも中途半端なまま施行日を迎えることになります。
この記事では、残された期間で何を優先すべきかを、着手の順序として整理します。
本記事は2026年9月1日時点の内容です。制度の詳細や指針の解釈については、公表されている資料の最新版をご確認ください。
この記事の要点
- 先に決めるのは、方針・窓口・手順の3点です。この3つは書面と掲示だけで形になります。
- 研修やマニュアルの整備は、10月以降に回して差し支えありません。
- 従業員が1人でも対象になります。規模による猶予は設けられていません。
- 何もしないまま施行日を迎えた場合でも、着手が遅れた分を後から積み上げることはできます。
10月1日に何が変わるのか
事業者に、カスタマーハラスメントを防ぐための措置を講じる義務が生じます。努力目標ではなく義務であること、そして従業員の人数による例外が置かれていないことが、これまでの制度との違いです。
アルバイト1人の店舗であっても、対象から外れるわけではありません。義務の全体像については、【2026年10月施行】カスハラ対策が義務に|アルバイト1人の店も対象ですで解説しています。
講じるべき措置の中身は、国の指針で10の項目として示されています。この10項目を1か月で完了させることは、多くの事業者にとって現実的ではありません。そこで、先に形にすべきものと、後から積み上げてよいものを分けるという考え方が必要になります。
今から間に合うもの、回してよいもの
| 項目 | 今から着手した場合 | 判断 |
|---|---|---|
| 方針を決めて文書にする | 半日程度 | 9月中に必ず |
| 相談窓口を決めて周知する | 半日程度 | 9月中に必ず |
| 対応手順を決める | 1日程度 | 9月中に必ず |
| 就業規則への反映 | 数日〜数週間 | 規模により判断 |
| 従業員への研修 | 準備を含め数週間 | 10月以降でよい |
| 対応マニュアルの整備 | 数週間 | 10月以降でよい |
| 録音設備・掲示物の導入 | 発注から納品まで | 10月以降でよい |
上の3つは、決めて書いて伝えるだけで形になります。費用もほとんどかかりません。この3点さえ9月中に済ませれば、着手していない状態からは抜けられます。
9月中に整える3点
1. 方針を決めて文書にする
どのような言動をカスタマーハラスメントとして扱うのか、そうした言動があった場合に事業者としてどう対応するのかを、文章にします。A4で1枚あれば足ります。
難しく考える必要はありません。正当な要望と、度を越えた言動の区別については、正当なクレームと悪質クレームの線引き|「社会通念上許容される範囲」とはで整理していますので、そちらを参考にしてください。
作った文書は、従業員が見られる場所に置くか、渡すところまでが1セットです。作っただけで周知していない状態は、措置を講じたことにはなりません。
2. 相談窓口を決めて周知する
従業員が困ったときに誰へ言えばよいのかを決め、それを伝えます。外部に委託する必要はなく、経営者本人が窓口を兼ねても差し支えありません。
1人で兼ねる場合の具体的な運用は、【カスハラ対策】相談窓口を経営者が1人で兼ねる場合|小規模事業者の現実的な運用で解説しています。
3. 対応手順を決める
実際に起きたときに、その場でどう動くかを決めておきます。誰が対応を代わるのか、どの時点で打ち切るのか、記録は誰が残すのか。この3点だけでも決めておけば、現場は動けます。
完璧な手順書である必要はありません。10月以降、実際の事例に合わせて直していけば足ります。
後回しにしてよいもの
研修、マニュアルの整備、録音の設備、掲示物の作成。これらは時間も費用もかかりますが、9月中に終わっていなくても、着手していない状態にはなりません。
特に研修は、方針と手順が固まっていない段階で実施しても効果が薄くなります。3点を決めてから、11月以降に行うほうが実質的です。
就業規則への反映は、事業所の規模によって手続が変わります。詳しくは、【カスハラ対策】就業規則にカスハラ条項を入れる|届出が要る規模・要らない規模をご確認ください。
3点を「決めた」と言える状態とは
方針・窓口・手順を決めたつもりでも、形が残っていなければ、外から見たときに確認のしようがありません。次の3つが揃っているかを目安にしてください。
- 文書がある。紙でもデータでも構わないが、口頭のみは避ける。
- 日付が入っている。いつから運用しているのかが分かる形にする。
- 従業員に渡した、または見られる場所に置いたことが分かる。
特に3つ目が抜けやすい部分です。作成した文書を経営者だけが持っている状態は、周知が済んでいないことになります。朝礼で配った、休憩室に掲示した、といった事実まで含めて1セットと考えてください。
記録の残し方の実務は、クレーム対応の記録の残し方|あとで警察・弁護士が動ける形にするで解説しています。
業種によって、先に確認すべき点が変わる
同じ3点を整えるにしても、業種によってつまずきやすい箇所が異なります。
予約・オンラインでのやり取りが多い場合
対面での言動だけを想定していると、実際に起きたときに手順が使えません。メッセージや口コミ、予約サイト経由の言動をどう扱うかは、【カスハラ対策】予約サイト・SNS経由の言動も対象になるのか|対面以外のカスハラをご確認ください。
相手が顧客とは限らない場合
医療、教育、介護のように、患者・保護者・利用者という立場の相手が中心となる業種では、そもそも対象に含まれるのかという確認から必要になります。【カスハラ対策】患者・保護者・利用者は『顧客』に含まれるのか|業種別の当てはめで扱っています。
取引先とのやり取りが中心の場合
消費者を相手にしていない事業者であっても、対象から外れるとは限りません。取引先の担当者からの言動をどう位置づけるかは、【カスハラ対策】取引先の担当者からの言動|『顧客等』はどこまでを指すのかで整理しています。
10月1日を過ぎてしまった場合
施行日に間に合わなかったとしても、そこで終わりではありません。着手が遅れた分を、後から積み上げることはできます。
むしろ問題になりやすいのは、何も決めていない状態で実際にトラブルが起きることです。従業員が対応を1人で抱え、体調を崩す。あるいは、その場の判断で不適切な対応をしてしまう。措置を講じていなかったことが、後の場面でどう評価されるかについては、【カスハラ対策】義務を果たしていなかったことは民事の責任を重くするのかで整理しています。
小規模な事業者が陥りやすい3つの誤解
「うちは小さいから対象外だろう」
人数による例外はありません。従業員を雇っているのであれば、規模を問わず対象になります。
「就業規則がないから何もできない」
就業規則の作成義務がない規模であっても、方針を文書にして周知することはできます。規則の有無と、措置を講じられるかどうかは別の問題です。
「窓口を作っても相談が来ない」
相談が来ないこと自体は問題ではありません。困ったときに言える場所があると従業員が知っている状態を作ることが、措置の趣旨です。
よくあるご質問
Q. 家族だけで営んでいる場合も対象になりますか。
雇用関係にある従業員がいるかどうかで判断されます。ご自身とご家族だけで、雇用している方がいない場合は、事業者としての措置義務の場面とは異なります。ただし、要求への対応そのものは必要になりますので、備えておく意味はあります。
Q. 何から手をつけるか迷っています。
窓口を決めて伝えるところからで構いません。所要時間が最も短く、従業員に伝わりやすい項目です。
Q. 10月までに専門家に依頼したほうがよいでしょうか。
3点を整えるだけであれば、事業者ご自身で対応できます。実際にトラブルが起きている、あるいは従業員から相談を受けている場合は、内容を確認したうえで進め方をご案内します。
まとめ
- 9月中に整えるのは、方針・窓口・手順の3点。いずれも決めて書いて伝えるだけで形になる。
- 研修・マニュアル・設備は10月以降でよい。特に研修は3点が固まってから行うほうが実質的。
- 従業員が1人でも対象になり、規模による例外は置かれていない。
- 施行日を過ぎてから着手する場合でも、積み上げることはできる。
- 何も決めていない状態で実際にトラブルが起きることが、最も避けたい形になる。
当事務所では、事業者からのご相談を受け付けています。すでに要求を受けている、従業員から相談を受けているといった状況であれば、施行を待たずにご相談ください。経過を整理したうえで、対応の順序をお示しします。


