【不当要求対応】ペット関連事業への要求|生き物をめぐるトラブルの特殊性

若井亮

若井亮

テーマ:不当要求

預かっていた犬が施術中にけがをした、販売した子猫に引き渡しの数日後から症状が出た、手を尽くした診療の結果に納得してもらえない。ペット関連の事業では、こうした場面から飼い主の要求が始まります。

 ただ、そこから先の進み方は、ほかの業種のクレームとかなり事情が違います。相手は家族同然の存在を預けた方であり、対象は時間とともに状態が変わる生き物です。何がいつ起きたのかを確かめられないまま、金額や責任の話だけが先に進んでしまいます。

 この記事では、ペット関連事業に向けられる要求について、責任があるかどうかを決める前に、いま何が起きているのかを固定する。そのうえで、要求の「内容」と「手段」を分けて答えるという進め方を、生き物ならではの事情に沿って整理します。

生き物のトラブルが、ほかの業種と違うところ

 同じ「商品やサービスに問題があった」という申し出でも、対象が生き物である場合には、次のような違いが生じます。

違いが出るところ生き物ならではの事情交渉で起きやすいこと
対象の状態時間の経過とともに回復も悪化もする数日後には、いつ生じた症状なのかを確かめられなくなる
事実の資料診断や検査の記録は、飼い主が選んだ動物病院にある事業者側が自分で経過を確かめる手段を持ちにくい
損害の枠組み法律上は「物」として扱われる一方、飼い主の受け止めは家族に近い法律上の整理と、求められる金額の感覚が離れやすい
時間の圧力命や健康に関わるため、判断を急がされるその場で責任や金額を答えてしまいやすい
事業の前提多くの業種で登録と基準の遵守が求められる行政への通報が交渉の材料として持ち出されることがある


「物」として扱われることが、かえって話をこじれさせる

 日本の法律では、犬や猫は民法上の「物」として扱われ、損害賠償の入口も物が壊れた場合と同じ枠組みから出発します。しかし飼い主にとっては、家族が傷つけられたという受け止めになります。この落差を説明の場でそのまま口にすると強い反発を招くため、法律上の整理は、こちらが金額の見当をつけるための内部の物差しとして使うものと考えたほうが安全です。

事実が失われていく速さが、ほかの業種より速い

 異物混入や商品の不具合であれば、現物を保管しておけば後から確かめられます。生き物の場合、傷は治り、腫れは引き、同じ症状が別の原因でも現れます。預かった時点の状態を残していなければ、数日後には「もともとあったのか、預かっている間に生じたのか」を誰も判定できなくなります。

最初の数時間ですること

 異変に気づいた時点、あるいは申し出を受けた時点で、その日のうちにしておきたいことがあります。

連絡を先送りにしない

 施術中や預かり中の異変を後からまとめて伝えると、事実そのものよりも「隠していた」という点が争いの中心になります。判明した時点で状況を伝え、受診の要否を相談する形が、結果として説明の負担を軽くします。

受診の費用と、責任の承認を分けておく

 かかりつけの動物病院への受診を優先し、費用をこちらで一時的に負担する対応はよく取られます。ただ、その場で費用の負担と、法的な責任を認めることは別のものという位置づけを添えておかないと、後から「治療費を払ったのだから責任を認めたはずだ」という前提で話が進みます。「原因はこれから確認させていただきますが、まずは診ていただくことを優先させてください」という伝え方であれば、誠実さを損なわずに分けられます。

記録は当日中に残す

 その日のうちに残しておきたい項目は次のとおりです。

  • 預かった時刻と返した時刻、担当した従業員の氏名。
  • 異変に気づいた時刻と、そのときの状況。
  • 患部や状態が分かる写真と、撮影した日時。
  • 飼い主に連絡した時刻、伝えた内容、相手の反応。
  • 預かり時に聞き取っていた既往、体質、性格に関する情報。
  • 同じ日に施術や預かりを行った他の個体の有無と、その状況。


 評価ではなく、評価の材料を書くのが原則です。「暴れやすい子だった」ではなく「台の上で2回、体をひねる動きがあった」と書けば、後から読む人が自分で判断できます。記録の様式や保管の考え方は、クレーム対応の記録を扱った記事で別に整理しています。

事実をどう確かめるか

 生き物のトラブルでは、事実確認の資料が自社の外にあります。ここが、ほかの業種と最も大きく違う点です。

診断書と明細は、飼い主の協力なしには届かない

 獣医師には診療簿を作成し、一定期間保存する義務があります(獣医師法21条2項)。一方で、診療簿を飼い主以外の第三者に開示する明文の義務はありません。事業者側が動物病院に直接問い合わせても、経過を教えてもらえるとは限らないということです。

 現実的には、飼い主から診断書と診療明細を出していただく形になります。診療をした獣医師は、飼い主から診断書の交付を求められた場合、正当な理由がなければ拒めないとされています。治療費を負担するのであれば、その根拠として写しをお願いする求め方に無理はありません。

時間と範囲、3つの物差し

 自社の管理下で生じたことなのかを考えるとき、次の3点が手がかりになります。

  1. 預かってから申し出までにどれだけ時間が空いているか。返した直後なのか、数日後なのか。
  2. 同じ時間帯に預かった他の個体に同様のことが起きているか。起きていなければ、環境や設備よりも個体側の事情が関係している可能性が出てきます。
  3. 預かり時の聞き取りに、既往や体質に関する記載があるか。事前に把握できなかった事情なのかどうかが分かれ目になります。


 なお、「もともと悪かったのではないか」といった疑いを口にすることは避けます。結果的に正しくても、その時点で相手の目的が補償から謝罪の要求に変わってしまうためです。確認したいことは、疑いの形ではなく質問の形で聞くようにします。

責任の入口は、契約の型で変わる

 ペット関連事業と一口に言っても、飼い主との間に成立している契約の型は業態ごとに異なります。何を約束したことになるのかが違えば、問われる義務も変わります。

業態契約の型として整理されることが多いもの中心になる義務
販売(ペットショップ・ブリーダー)売買引き渡した個体が契約の内容に適合していること
預かり(ペットホテル・一時預かり)寄託善良な管理者の注意をもって保管すること
施術(トリミング)預かりと請負などの組み合わせ傷つけないよう配慮して施術し、仕上げること
診療(動物病院)準委任その時点で適切とされる方法を尽くすこと
訪問(ペットシッター・出張訓練)準委任依頼された範囲の世話と、住居や鍵の管理


販売の場合

 引き渡した個体が契約の内容に適合していないとき、買主は追完(治療や代替個体の引渡し)、代金の減額、契約の解除、損害賠償を求めることができます(民法562条から564条まで)。争点になるのは、その症状が引き渡しの前から存在していたのか、引き渡しの後に生じたのかという一点です。

 種類や品質の不適合については、買主が不適合を知った時から1年以内に通知しなければ、原則として請求できなくなります(民法566条)。申し出が遅い場合は、この点も確認事項に入ります。また、販売時には動物の状態を直接見せ、対面で飼養方法などを説明することが求められており(動物の愛護及び管理に関する法律21条の4)、このときの記録が後の「聞いていない」という主張への反証になります。

預かりと施術の場合

 営業として有償で預かる以上、善良な管理者の注意をもって保管する義務を負います。トリミングは預かる部分と施術する部分が組み合わさっており、裁判例では、施術に際して動物を傷つけないよう配慮すべき注意義務が認められています。

 「仕上がりが思っていたものと違う」という申し出は、これとは性質が異なります。契約の内容に適合しているかどうかは客観的に判断されるため、好みの差にとどまる場合には、返金や再施術に応じる法的な義務まではないと整理されることが多い領域です。ただし、施術前の希望の聞き取りを記録に残せば、同種の申し出そのものを減らせます。

診療の場合と、他への加害

 診療契約では、治すという結果までは約束していません。問われるのは、その時点で適切とされる方法を尽くしたかどうかです。したがって「亡くなったのだから責任がある」という前提には立ちませんが、説明が十分だったか、記録が残っているかは結論を左右します。

 また、動物が他人に損害を与えたとき、その動物の占有者に代わって管理する者も責任を負うとされています(民法718条2項)。預かっている間に他のお客様の動物や従業員がけがをした場合には、この規定が問題になります。

金額はどう組み立てられるか

 飼い主から示される要求は、多くの場合、治療費などの実費、施術代の返金または再施術、慰謝料、その他の費用(通院の交通費、亡くなった場合の費用など)のいずれか、あるいはその組み合わせです。

治療費と、返金・再施術

 実際にかかった費用であっても、そのすべてが当然に賠償の対象になるわけではなく、今回の出来事と結びつく相当な範囲かどうかが問われます。もともと予定していた検査や別の疾患の治療まで含まれていないかは、明細で確認します。

 法律上「物」として扱われる以上、その個体の時価が一つの目安になるという考え方があります。一方で生き物については、時価を上回る治療費であっても、必要かつ相当な範囲であれば認められる余地があるとする裁判例も見られます。返金については、施術の途中でけがをさせて中断した場合、仕事を完成したとは言いにくくなります。逆に軽微で受診の必要もない程度であれば、返金の義務までは生じないと整理されることもあります。

慰謝料

 物が壊れた場合、慰謝料は原則として認められにくいとされています。ただしペットについては、生命を持ち、飼い主との間に相互の愛情に基づく関係が築かれていることを理由に、慰謝料を認めた裁判例が複数あります。

 もっとも、認められる場合でも、飼い主が当初求める金額とは開きが出ることが少なくありません。請求された金額が、そのまま支払うべき金額になるわけではないということです。責任の「有無」と「範囲」の分け方は、過大な請求への対応を扱った記事で扱っています。

要求の「内容」と「手段」を分ける

 ここまでは、要求の内容をどう検討するかという話でした。これとは別に、要求の伝え方そのものが別の問題になる場面があります。この2つは、同じ物差しで測るものではありません。

 治療費や返金を求めること自体は、正当な申し入れです。一方で、深夜や早朝の連続した連絡、閉店後の長時間の居座り、担当した従業員個人への攻撃、投稿や公表を条件にした金銭の要求といった伝え方は、内容が正当かどうかとは別に評価されます。

 2026年10月1日からは、改正された労働施策総合推進法により、顧客等からの著しい迷惑行為について、事業主が相談体制の整備などの措置を講じることが義務づけられます。労働者を1人でも雇用していれば対象となるため、小規模なサロンや個人経営の動物病院も含まれます。東京都では、2025年4月1日からカスタマー・ハラスメント防止条例も施行されています。

 どこからが線を越えた対応にあたるのかという判断の枠組みは、正当なクレームと悪質なクレームの線引きを扱った記事で別に整理しています。ここで大切なのは、手段に問題があるからといって、内容まで検討しないという扱いにはしないことです。

行政への通報を持ち出されたとき

 ペット関連事業では、「動物愛護センターに通報する」「登録を取り消させる」といった言い方をされることがあります。事業の根拠が登録に基づいている以上、この言葉は強い圧力として働きます。

行政の手続と、民事の賠償は別の流れ

 第一種動物取扱業は、販売、保管、貸出し、訓練、展示、競りあっせん、譲受飼養の区分ごとに登録が必要です(動物の愛護及び管理に関する法律10条)。登録した事業者には基準の遵守義務があり(同法21条)、都道府県知事は報告を求め、事業所に立ち入って検査することができます(同法24条1項)。基準を守っていないと認められる場合には期限を定めた勧告や命令が行われ(同法23条)、命令に従わないときなどには登録の取消しや業務の停止に至ることがあります(同法19条)。

 ただし、これらは飼い主への賠償とは別の流れです。行政の調査で改善を求められたことが、そのまま個別のけがについての賠償責任を意味するわけではありませんし、逆に賠償に応じたことで行政上の評価が決まるわけでもありません。この2つを混ぜると、行政の話を止めるために金額を譲るという判断につながりかねません。

 なお、行政への申し出は誰でもできるもので、それ自体を止めることはできません。むしろ立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものではないとされており(同法24条3項)、日常の記録と施設の状態が整っていれば、過度に身構える必要のある手続ではありません。「通報されたくなければ」という条件をつけた要求がなされた場合は、内容の当否とは別に、伝え方の問題として記録を残します。

自社の責任とは考えにくい場合の伝え方

 確認の結果、こちらの管理に問題があったとは言いにくいという結論に至ることもあります。その場合の伝え方には、いくつかの工夫があります。

  • 結論だけでなく、確認した過程を具体的に述べる。誰が、いつ、何を確認したのかを順に伝えると、押し返しではなく説明として受け取られやすくなります。
  • 断定を避ける。「絶対にありません」ではなく、「確認できた範囲では、こうした経過でした」という形にとどめます。
  • 先に負担した費用と、その後の判断は別であることをあらためて伝える。
  • その場で結論を出さず、回答の期限を伝えて持ち帰る。期限に幅があるときは、遅いほうの日付を伝えておくと約束を守りやすくなります。


 返答を保留する際の具体的な伝え方は、その場で答えず持ち帰る方法を扱った記事で別に整理しています。

後から響きやすい対応

 その場をおさめるための対応が、後になって不利に働くことがあります。次のような点は、あらかじめ避けておきたいところです。

  • 原因が分からない段階で、金額を口にすること。
  • 「すべてこちらの責任です」といった包括的な言い方で謝罪すること。事実についてのお詫びと、法的責任を認めることは分けて伝えます。
  • 書面を確認しないまま、その場で示された念書や合意書に署名すること。
  • 投稿の削除や取り下げを条件にして、金銭や値引きを約束すること。
  • 飼い主が連れてきた第三者を窓口として、そのまま話を進めてしまうこと。
  • 担当した従業員に、一人で説明の場に出てもらうこと。


備えとして、事前にできること

 トラブルが起きてからできることには限りがあります。事前の備えのほうが、結果に与える影響は大きくなります。

預かり時の記録と、免責条項の限界

 既往、体質、性格、過去に施術中に暴れたことがあるかどうかの聞き取りを、口頭ではなく書面で残します。可能であれば預かり時の状態を写真で残しておくと、後から生じた症状との切り分けが容易になります。

 一方で、「当店は一切の責任を負いません」という条項を置いても、そのとおりには機能しません。事業者の債務不履行によって消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項は無効とされ、故意または重大な過失がある場合に責任の一部を免除する条項も無効です(消費者契約法8条1項)。軽い過失の場合にのみ適用されることを明らかにしていない一部免除の条項も無効とされます(同条3項)。責任の範囲を定めるなら、どの場面に適用されるのかを明確に書く必要があります。

保険と、一人で抱えない体制

 預かった動物に生じた損害を対象とする保険や、施設の管理に関する保険があります。加入の有無と補償の範囲は、事故が起きてからではなく平時に確認しておくものです。あわせて窓口を一本化し、担当した従業員が単独で矢面に立たない形を決めておくことが、2026年10月からの措置義務への備えにもなります。

よくあるご質問


施術代を払ってもらえないまま、返してほしいと言われています

 代金が支払われるまで物を留め置くという考え方は法律上ありますが、対象が生き物の場合、その間の飼養管理の責任を負い続けることになり、状態が悪化すれば新たな争いを生みます。代金の問題とは切り離し、引き渡しを先行させたうえで支払いを別途話し合う進め方が取られることが多い場面です。

預かったまま、引き取りに来てもらえません

 まずは連絡の記録を残し、書面で引き取りを求めることになります。追加の保管費用をどう扱うか、一定期間を過ぎた場合にどうするかは、あらかじめ契約書に定めておくべき事項です。長期化した場合の扱いは判断が難しいため、早い段階でご相談ください。

まとめ

 ペット関連事業に向けられる要求への対応で、押さえておきたい点を整理します。

  1. 生き物は時間とともに状態が変わるため、責任の判断より先に、いま確認できることを記録として固定する。
  2. 診断や検査の記録は飼い主側の動物病院にあるため、診断書と明細は飼い主の協力を得て取り寄せる。
  3. 費用の一時的な負担と、法的責任を認めることは別のものとして位置づけを伝えておく。
  4. 問われる義務は契約の型によって変わる。販売、預かり、施術、診療では、そもそも約束している内容が違う。
  5. 請求された金額が、そのまま支払うべき金額になるわけではない。相当な範囲かどうかを費目ごとに確認する。
  6. 要求の「内容」と「手段」は別の物差しで測る。手段に問題があっても、内容の検討は行う。
  7. 行政の手続と民事の賠償は別の流れとして扱い、混ぜて判断しない。


 ペットをめぐるトラブルは、事実の確認と感情の整理が同時に求められるため、事業者側だけで進めると対応が後手に回りがちです。要求の内容そのものよりも、伝え方や時間の使われ方に負担を感じている場合は、早い段階で窓口を切り替えるという選択肢もあります。

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、事業者の方に向けられる不当な要求へのご相談を承っています。池袋と新橋に事務所があり、対応の初期段階からのご相談にも応じています。お一人で抱えず、まずはお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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