証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とは
不当な要求を受けている方から、「弁護士に頼んだあと、自分の生活はどうなるのか」というご質問をいただくことがあります。費用や見通しよりも先に、依頼したあとに何が起きるのかが分からないことが、相談をためらう理由になっているようです。
この記事では、法律相談から受任、交渉、解決、終了までに何が起きるのかを時系列で整理しました。あわせて、弁護士に依頼しても起きないことについても率直に触れています。以下は一般的な流れの説明であり、事案の内容や相手方の対応によって進み方は変わります。
1. まず「相談」は「依頼」ではない
法律相談を受けたからといって、その場で依頼が成立するわけではありません。相談だけで終えてかまいませんし、相談したことを相手方に知らせる必要もありません。
相談の段階で分かるのは、おおむね次の3点です。
- その要求をどう評価できるか(法的な根拠のある請求なのか、金額として相当な範囲なのか)
- 取りうる手段は何か(交渉、書面での通知、訴訟、刑事手続、あるいは「動かない」という選択)
- 費用と見通し(どのくらいの費用がかかり、どのくらいの時間がかかりそうか)
弁護士には、職務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならない義務があります(弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条)。相談したことが家族や勤務先に事務所から伝わることは、原則としてありません。連絡手段や郵便物の送り先について希望がある場合は、相談の冒頭で伝えておくとよいでしょう。
「これは法律問題ではないのではないか」と迷う段階でも問題ありません。法的な根拠のない請求だと確認できること自体が、ひとつの結論になります。
2. 受任までに踏む手続き──説明と委任契約書
依頼する段階では、弁護士の側にも守るべき手順が定められています。おおまかには次のとおりです。
- 受けるかどうかの通知……事件の依頼があったときは、速やかに諾否を依頼者に通知することとされています(弁護士職務基本規程34条)。
- 見通しと費用の説明……受任にあたり、依頼者から得た情報に基づいて、事件の見通し、処理の方法、弁護士報酬および費用について適切な説明をすることとされています(同29条)。
- 委任契約書の作成……事件を受任するにあたっては、弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならないとされています(同30条1項)。法律相談や簡易な書面の作成、顧問契約その他継続的な契約に基づくものなどは例外とされています(同条2項)。
- 費用が心配な場合の説明……資力に乏しい依頼者に対しては、必要に応じて法律扶助制度などを説明することとされています(同33条)。
つまり、口頭でなんとなく始まることは想定されていません。見通しや費用について踏み込んで質問することは、遠慮すべきことではなく、むしろ手続きに沿った行動です。
断られることもあります
相談すれば必ず引き受けてもらえる、というものでもありません。実務上、受任に至らない主な理由は次のようなものです。
- 相手方が既存の依頼者であるなど、利益が相反する場合(弁護士法25条、弁護士職務基本規程27条・28条)
- 見込まれる回収額に対して費用が見合わない場合(いわゆる費用倒れ)
- 依頼者が望む進め方と、弁護士が適切と考える進め方が一致しない場合
- 依頼の目的または事件処理の方法が明らかに不当な場合(同31条)
断られた場合でも、別の弁護士に相談することは何ら差し支えありません。
表①:受任前に確認しておきたい5点
| 確認したいこと | 具体的に聞いておくとよいこと |
|---|---|
| 委任の範囲 | 交渉までなのか、訴訟や刑事手続への対応まで含むのか |
| 費用の内訳 | 着手金・報酬金・実費・日当の区別と、それぞれの支払時期 |
| 追加費用の条件 | 訴訟に移行した場合、相手方が増えた場合にどうなるか |
| 連絡の方法 | 連絡手段・時間帯、自宅や勤務先への郵便物の可否 |
| 終了の条件 | どういう状態になったら「終わり」として扱うのか |
とくに最後の「終了の条件」は、あとで認識の食い違いが起きやすいところです。契約の段階で言葉にしておくと、双方の見通しがそろいます。
3. 受任直後に起きること──窓口が変わる
依頼を受けた弁護士は、通常、相手方に対して代理人に就任した旨を通知します。内容証明郵便などの書面で、以後の連絡は弁護士宛てにするよう伝えるのが一般的です。
依頼者側で最も大きく変わるのは、相手方と直接やり取りをしなくてよくなるという点です。要求のたびに即答を迫られ、その場で判断させられる状態からは離れられます。心理的な負担が軽くなったという声は、実務上よく聞かれるところです。
ただし「法律上、連絡が止まる」わけではありません
この点は、正確に理解しておいたほうが安全です。
弁護士からの通知によって直接の取立てが法律上禁じられるのは、貸金業者や債権回収会社が相手の場合です。貸金業を営む者等は、債務者が債務の処理を弁護士等に委託し、弁護士等から書面で通知があった場合に、正当な理由なく電話・訪問などの方法で弁済を要求することを禁じられています(貸金業法21条1項9号)。債権回収会社についても同様の規定があります(債権管理回収業に関する特別措置法18条8項)。
これに対し、相手が個人である場合には、これらの規定は適用されません。「弁護士に依頼したのだから連絡してはいけない」と法律が定めているわけではないのです。
実際には、代理人が就いたことを知って直接の連絡をやめる相手が多いのは確かです。ただし、止まらない場合を想定しておいたほうが落ち着いて対応できます。連絡が続いた場合は、次のように整理します。
- 自分で返信しない(返信すること自体が、やり取りの再開になります)
- 届いたメッセージ・着信履歴・郵便物は消さずに保存し、弁護士に渡す
- 押しかけ、居座り、身の危険を感じる言動があるときは、その場では警察(110番、緊急でなければ警察相談専用電話#9110)
- 面談の要求が執拗に続く場合には、面談強要の禁止を求める仮処分という手段もあります
依頼者にお願いすることは、この段階では基本的に2つだけです。自分で応じないことと、届いたものをそのまま渡すことです。
4. 交渉の段階──何を確定させ、何を争うのか
窓口が一本化されたあと、弁護士は事実関係の確認から始めます。いつ、誰との間に、何があったのか。相手方の言い分のうち、認められる部分と認められない部分はどこか。ここが定まらないと、方針も費用の見通しも立ちません。
そのうえで、交渉の方向は大きく3つに分かれます。
- 支払義務がないことを通知し、要求の撤回を求める……法的な根拠を欠く請求や、根拠はあっても金額が相当な範囲を超えている請求の場合です。
- 正当な範囲を確定して清算する……こちらにも一定の責任がある場合です。責任があること自体は否定できなくても、請求された額をそのまま受け入れる義務があるとは限りません。
- こちらから請求する……脅迫や業務妨害など、要求の態様によって実害が生じている場合には、逆に損害賠償を検討することもあります。
相手方にも代理人が就いた場合、話し合いの内容は感情のやり取りから条件の詰めへと移っていくことが多くなります。一方、相手方が通知を無視することもあります。その場合は、交渉を打ち切って様子を見る(相手方が請求してこなければそれで収束することもあります)か、こちらから債務不存在確認訴訟を起こして決着をつけるか、という判断になります。
交渉の場に依頼者本人が同席するのが原則というわけではありません。ただし、方針を決めるのは依頼者です。弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し(弁護士職務基本規程22条)、必要に応じて経過を報告し、協議しながら事件処理を進めることとされています(同36条)。報告がないまま話が進むことは、本来の建て付けではありません。
期間については、数週間で収束することもあれば、数か月かかることもあります。訴訟に移行すればさらに長くなります。相手方の対応次第の部分が大きく、一律の目安を示すことは難しいのが実情です。
5. 「解決」の形はひとつではない
「解決」と聞くと、相手が要求を取り下げて終わり、という一つの絵を思い浮かべがちですが、実際にはいくつかの終わり方があります。それぞれ、終わり方の確かさが違います。
表②:終わり方の類型
| 終わり方 | 内容 | 終結の確かさ |
|---|---|---|
| 相手方が要求をやめる | 連絡が来なくなる | 書面が残らないため、再開の余地が残ります |
| 合意書・示談書を作る | 清算条項を入れ、終わりを文字にする | 高い。ただし条項の書き方に左右されます |
| 正当な範囲を清算する | 認められる部分を支払い、書面化する | 高い |
| 債務不存在確認訴訟 | こちらから訴えを起こし、判決で確定させる | 高い。時間と費用はかかります |
| 刑事手続に乗せる | 被害届・告訴。民事上の義務の有無は別途残ります | 民事の問題は別に処理が必要です |
| こちらから請求する | 慰謝料・損害賠償を請求する | 事案により異なります |
実務上いちばん多いのは、要求が止まって、書面が残らないまま終わる形です。ただし、「連絡が来なくなった」ことと「相手方の請求権が消えた」ことは同じではありません。時間を置いて同じ要求が戻ってくることもあります。何をどこまで終わらせたのかを書面にしておく意味は、この点にあります。合意書の設計については、別のコラム「相手が要求を取り下げても終わりではない|再請求を防ぐ合意書の作り方」で詳しく扱っています。
どの終わり方を選ぶかは、依頼者が決めることです。徹底的に争って白黒をつけるのも、多少譲っても早く日常に戻るのも、どちらも合理的な選択です。
6. 終了時に起きること
事件が終わるときにも、いくつか決まった手続きがあります。
- 結果の説明……委任の終了にあたり、事件処理の状況や結果について、必要に応じて法的な助言を付して説明することとされています(弁護士職務基本規程44条)。
- 預り金・実費の精算……委任契約に従って金銭を精算し、預り金や預り品を遅滞なく返還することとされています(同45条)。
- 報酬金の支払い……成果に応じた報酬が発生する契約であれば、この段階で支払います。
- 資料の返還……預けた原本などを返してもらいます。
このとき、**「同じ相手からまた連絡が来たらどうするか」**を確認しておくと安心です。同じ弁護士に相談できるのか、再度の対応には別途費用が必要になるのか。終了時に一言確認しておくだけで、次に何かあったときの動きが変わります。
7. 費用の考え方
まず整理しておきたいのは、弁護士に支払う費用と、相手方に支払う金銭(示談金・和解金など)はまったく別枠だということです。混同すると、見通しを立てにくくなります。
弁護士費用は、一般に次の要素で構成されます。
- 相談料……初回無料としている事務所もあります
- 着手金……依頼時に支払う費用。結果にかかわらず、原則として返還されません
- 報酬金……成果に応じて事件終了時に支払う費用
- 実費……郵便費用、収入印紙代、交通費など
- 日当……遠方への出張などが必要な場合
かつて日本弁護士連合会が定めていた報酬基準は2004年に撤廃され、現在は各事務所が自由に定めています。そのため、一律の相場を示すことは実際には難しく、金額の幅も事務所によって異なります。だからこそ、依頼前に内訳と支払時期を確認しておくことに意味があります。弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間および労力その他の事情に照らして適正かつ妥当な報酬を提示することとされています(弁護士職務基本規程24条)。
費用の負担が難しい場合
法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助を利用できる場合があります。無料の法律相談に加え、弁護士費用等を立て替える「代理援助」の制度があり、立て替えられた費用は毎月5,000円、10,000円といった分割で返済していく仕組みです。生活保護を受給している方などは、返済が猶予・免除される場合もあります。
利用には、収入・資産が定められた基準以下であること、勝訴の見込みがないとはいえないことなどの要件があり、審査を経て「援助開始決定」が出る流れです。なお、刑事事件に関する相談はこの制度の対象外とされています。
「費用倒れ」の見方
回収を目的とする事案では、回収見込額と費用を比べることができます。しかし、不当要求への対応は、支払わずに済ませること・要求を止めることが目的である場合が少なくありません。この場合、「取り返す金額」で費用対効果を測ることはできません。要求されている金額、それが繰り返される可能性、そして自分がその状態にどれだけ消耗しているか。この3つを並べて考えることになります。
8. 弁護士に依頼しても変わらないこと
期待と実際がずれやすい部分を、あらかじめ挙げておきます。
- 逮捕や捜査はできません。 犯罪として立件するかどうかを判断するのは捜査機関です。弁護士ができるのは、被害届や告訴の準備を支援し、警察との窓口に立つことまでです。
- その場に駆けつけて相手を追い返すことはできません。 押しかけや居座りに対しては、まず警察が現実的な窓口です。この使い分けについては、別のコラム「警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表」で整理しています。
- 相手に「連絡するな」と強制する法律上の効力はありません(第3章のとおりです)。
- 相手が応じなければ時間がかかります。 交渉は相手のあることで、こちらの希望だけで期日は決まりません。
- 正当な部分の支払義務は消えません。 弁護士が入ることで請求そのものが消えるのではなく、支払うべき範囲が適正な形に確定していく、というのが実際の姿です。
9. 途中でやめることはできるのか
委任契約は、各当事者がいつでも解除することができます(民法651条1項)。依頼者の側から契約を終わらせること自体は可能です。ただし、相手方に不利な時期に解除した場合などには損害賠償の問題が生じうるとされており(同条2項)、すでに処理された分の報酬や費用の精算は残ります(民法648条3項、650条)。
反対に、弁護士の側から辞任することもあります。信頼関係が失われた場合や、聞いていた事実と異なる事情が判明した場合などです。
なお、別の弁護士に意見を聞くこと(セカンドオピニオン)自体が禁じられているわけではありません。方針に納得できないまま進めるより、疑問はその都度確認したほうが、結果として早く終わります。
おわりに
弁護士に相談したからといって、直ちに全面的な対決になるわけではありません。相手の言い分に正当な部分があるのなら、その範囲を確定させて終えることも、立派な解決です。実際、要求のうち一部だけが根拠を欠いている、というケースは珍しくありません。
判断に迷う段階、「これは不当な要求なのだろうか」と考えている段階でご相談いただいて問題ありません。要求に応じるか応じないかを決める前に、その要求がどういう性質のものかを整理しておくことが、その後の負担を軽くします。


