マナーうんちく話486≪大切にしたい序列のマナー≫
11月7日は二十四節気の「立冬」でしたが、暦通りの寒い日になりました。
こうなると鍋料理や熱燗が恋しくなりますが、そんな中、ユネスコが日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録するよう勧告したという嬉しいニュースが報じられました。
結婚式や祭事といった日本の社会文化的行事に酒が不可欠であることなどが評価されたようですが、これを機会に人々の暮らしを豊かに彩ってきた日本の酒文化が再評価されればいいですね。
今回は年々影が薄くなってきた、日本の飲み会やお酌文化に触れてみます。
●飲み会のメリットデメリットは人それぞれ
お酌はパワハラだとかセクハラなどと、とかく否定的にとらえられがちな傾向にありましたが、コロナがこれに追い打ちをかけた感があります。
また「お酌」以前に、「飲みに行く」文化そのものが否定的に捉えられている傾向が強くなっています。
面倒だから、時間外労働だから、時間の無駄だから、酒を通じたコミュニケーション以外にも他にコミュニケーションをとる方法はいくらでもあるなどなどの理由が挙げられます。
様々な考えがあってしかりですが、「飲み会」には飲み会ならではのメリットも多々あります。
スナックや居酒屋が繁盛しているのはそのためではないでしょうか?
私自身は多くの飲み会を通じ、自分なりに人間力が向上したと思っています。
何よりも多くのふれあいを得た気がしています。
デメリットばかりに目を向けるのではなく、メリットもたくさん存在することを先輩は教えて頂きたいものです。
注意していただきたい点は、酒は好きな人と、そうでない人とでは捉え方が大きく異なると思います。
互いの気持ちを汲み取り、それを尊重することを心がけて下さい。
●相手の幸せを祈る気持ちが込められている「お酌」
そして飲み会には「お酌」が存在しますが、その効果もぜひ理解していただければと思っています。
勿論飲み会で「お酌」を強要することはよろしくありません。
それを前提とすれば、お酌には様々な効果が存在します。
なぜなら、酒を注ぐことを指す「お酌」は、本来「相手の幸せを祈念する気持ちが込められている」からです。
以前ホテルでブライダルを担当していた時に、数多くの「神前結婚式」を担当してきましたが、そこで取り交わされる「三三九度」や「親族杯」の儀式にも、互いの絆を深める意味が込められています。
神様にお供えした御神酒をみんなで戴くことにより、神様の霊力をいただき、ご加護を受けるわけです。
巫女さんが恭しくお酌をしてくれ、それをありがたく頂戴するわけですが、身が引き締まる思いです。
ちなみにお神酒は3口で飲みます。
一口目と二口目は口をつける程度で、3口目で飲み切るわけですが、これは室町時代に確立された武家礼法によるものだと思います。
また戦国時代には殿様が家臣に対して、戦の労をねぎらうためにも酒を注いだようです。
●沢山あるお酌の効用
お酌をすることで、話しやすい雰囲気を作ることができます。
つまりお酌は緊張を解きほぐし、相手との心理的距離を縮める効果があるということです。
「お酌=相手に対する配慮や気遣い」だと思っていただければいいと思います。
日本には相手の気持ちを「酌(く)む」という文化があります。
今流に表現すれば、その場の空気を読むということでしょうか。
自分の気持ちや意思を明確に伝える西洋の文化とは異なりますが、私は相手を思いやる日本ならではの「美しい心遣い」だと思っています。
日本のマナーは「思いやり」が根源になっていますが、このように相手の気持ちを「酌む」ことにより、思いやりの心が備わってくるわけです。
●「お酌」の美しい作法
高級レストランでフランス料理を頂くような会ではお酌はスタッフの仕事ですが、気軽な飲み会などの席では、目の前や隣の人に気軽に声をかけられたらいいと思います。特に最初の一杯はお勧めです。
お酌は長年日本の伝統的文化として脈々と受け継がれたものであり、日本独特の飲み会の文化であります。
そして「もてなしの心」を表現する素晴らしい作法だと思っていただければ、前向きになれると思います。
難しい作法は存在しませんが、年少者から年長者へ、立場の下位者から上位者へ、接待する側からされる側へ注ぐことを心がけて頂けたらいいでしょう。
加えて宴会等で席を立ってお酌をして回るときには、徳利やビール瓶をもって相手の席に行くのではなくて、相手の前に行って挨拶を済ませ、相手の席にある徳利やビール瓶を利用して酌をします。徳利をのぞいたり振ったりするのは感心しません。
お酒を注いでいでいただく側は、盃やグラスを持ちます。
ただしワイングラスは持ちません。
●お酌文化を気楽に楽しんで
最後に、田舎暮らしだと店も少なく自宅で、四季の花鳥風月を楽しみながら日本酒を頂くことも多いのですが、これはこれで、日本人ならではの雅な風習でいいものです。
しかしいろいろな仲間とともに、楽しく頂く酒も格別です。
お酌は年少者や下位者の義務ではけっしてありません。
また強要されるものでもないです。
従って嫌なら無理をしてまでするものではないのですが、あまり堅苦しく考えず、今日のご縁に感謝しながら、ほんのあいさつ代わりに「お世話になっています」「お忙しいですか」と声をかけながら、軽い気持ちでお酌を楽しむのもお勧めです。
加えて何かと先輩が若手社員に気を使う時代のようですが、お酌文化が何百年も続いたのにはそれなりのメリットが多々あったからです。
こんなに素晴らしい文化が日本には存在するということも教えて頂きたいものです。