マナーうんちくばなし2015《「なぜ「敷居」は踏んではいけないの?多く存在する境目におけるタブー》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:日常生活におけるマナー

ある講演先で、主催団体の世話役で、地域の役員の御婦人から伺った話です。

「日頃から懇意にしている人があるお願いに来られた際、家の敷居を踏んだまま長々話をされました。社会的地位があり、しかも高学歴を有し、実力もあるので尊敬していたのですが、それ以来すっかりその人に嫌気がして、疎遠になってしまった」ということです。

マナーは法律ではないので、違反した場合にも罰則規定はありません。
しかし悪気はなくても、知らず知らずしている行為が思わぬ結果につながるケースは多々あります。

特に地位が高い人ほど素敵なマナーを発揮してほしいものですね。

敷居は踏むものではなく、またぐものです。

ではなぜ踏んではいけないのでしょうか?
諸説あります。

「畳のへりを踏んではいけない」理由と似ていますが、忍者がある人物を殺傷するにあたり、縁の下にもぐって、畳と畳の間から差し込む光の具合により、その人物の居場所を探り、縁の下から刀を差し込むからという理由があります。

いくら優秀な忍者と言え、神業のようで、信ぴょう性に欠ける気がしますね。

ところで「敷居」とは何でしょう。

超高齢化に伴うバリアフリー化や西洋様式の住居の増加で、敷居の存在が薄れてきた感がありますが、日本建築ではとても大事な建具の一つです。

敷居とは、家の内と外との仕切りとして敷く横木です。
また部屋の境に敷くこともあります。障子や襖などを、開けたり、閉めたりするための溝やレールが付いた横木も敷居です。

つまり敷居は床ではなく、建具の一部であり、簡単に取り換えが利かないパーツだから大切に扱わないといけないわけです。
だから敷居は踏むものではなく、またぐものという説も存在します。

ちなみに、障子や襖をはめ込むために、下部ではなく上部に付けられた横木は「鴨居」といいます。

また敷居は家の外と内の「結界」だから踏んではいけないという理由もあります。
恐らくこれが有力な説だと思います。

結界とは《マナーうんちく話》にも何度も登場した言葉ですが、聖なる場所と俗なる場所(一般の場)との境で、本来は仏教用語です。ただ「しめ縄」に表現されるように神道にも同じ概念があります。

和の礼儀作法では、上座と下座の結界などという表現もあります。
改まった座礼の時扇子を置くのも、和食の箸を横に置くのも同じ概念です。

結界は、こちらでもない、そちらでもない。つまり、どちらにも属しないとても不安定な場ですから、多くのタブーが存在したのでしょう。このように、結界は不気味な存在で、心を不安定にさせるので昔の人は非常に嫌ったようですね。

敷居は、家の主人と客とを区別する結界の意味を有しているので、その家の格式や秩序を守る意味においても「敷居を踏む」ことを特に戒め、躾の基本にしたのだと思います。

また「座布団」はおしりと畳のクッション的役割もありますが、礼儀作法の世界では、もともと高貴な方を敬い、もてなすために用意されたものです。
だから座布団も踏まないようにして下さいね。

「敷居はまたぐ」、「座布団は勝手に動かさない・裏返やさない・踏まない」と覚えておいてください。

加えて、高級すぎてハードルが高く、気軽に行けないことを「敷居が高い」と表現しますが、本来は「その家に不義理なことをして、その人の家に行きづらい」ことを敷居が高いと言います。一方「敷居をまたぐ」とは家の中に入ることです。

次回は不安定なタブーの例として「節分の豆まき」を取り上げます。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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