マナーうんちく話544≪薔薇で攻めるか、それとも恋文か?≫
江戸時代の武士たちは、その職場である城内で格式ばったマナーが要求されたわけですが、その妻はどうでしょうか?
「女性礼法」と言って、武士の妻や娘としていかに心得るか?等の「女性礼法」が存在していたようです。
但し、現在のように男女平等とか男女共同参画社会という概念は有りません。
男性優位の時代です。
勿論レディーファーストもありません。
さらに、武士たちの結婚の目的も、家の存続に重きが置かれた時代です。
従って、武士の妻に求められたマナーはビジネスマナーではなく、家庭内におけるマナーです。
封建時代のことですから、「男子はこうあるべし」、「女性はこうだ」と言うような社会通念があったのでしょうね。
しかしこのような中においても、「良家の子女で有りたい」と言うような願望は、武士の妻なら誰しも強かったものと思われます。
一般庶民と比べて、当時の武士の妻は良家ですが、中級以上の武士の妻ともなれば、それに相応しいたしなみが要求されてきます。
例えば、嫁入りの際の白無垢等の服装や、結婚初夜の振る舞い等もきめ細かな定めがあったようです。
花嫁衣装は無垢を意味するため全て白です。
素材は季節に寄り変わりますが、共の女性も白で統一されます。
結婚式の作法もしかりで、婚礼料理の並べ方や食べ方も、現在とは比較にならない位、細部に渡り細かな決まりがありました。
「三三九度」の儀式も複雑です。
先ずは夫婦そろって床の間の天照大神に拝礼します。
次に朱塗りの三つ重ねの盃の内、一番上の盃に酒が三回に分けて注がれます。花婿が先に飲み干し花嫁がこれに続きます。これを三回繰り返すわけですが、その後も立て続けに様々な儀式が執り行われます。
結婚式が終了すれば花嫁は手を洗い、「床入れの儀式」に臨みます。
布団の上では、花婿は東で花嫁は西側になります。
「寝姿」にも決まりがあり、優雅な姿が要求されます。
足を「き」の字のように曲げて、両手を前で組んで横向き姿で寝ます。
さらに、「不祝儀」に関する作法も大変です。
加えて、言葉遣いも大変ですが、言葉と同様字も上手に書かなければなりません。
メイクや化粧にもこだわらなければいけません。
ヘアスタイルは日本髪が主流で、非常に多くのヘアスタイルがあったといわれております。
勿論、立ち居振る舞いも品位が漂わなければなりません。
このように「さすが武士の妻」といわれるように、一般庶民の模範とならなければいけませんが、恰好だけでは食べていけません。
中級以下の武士の妻は、生計を立てるのが大変です。
綺麗事ばかりというわけにはまいりません。
ではどうするか?
百姓や人形作りや機織りなどの内職に勤しむわけですが、娘の嫁入り等となればそれは大変だったようです。
そうでなくとも武士は年中行事の他に、「誕生」「お七夜」「宮参り」「お食い始め」等々子どもに関する行事が多いので、何かと物入りです。
さらに貧しい武士の妻となると、マナーや子どもの教育どころではなく、風体も貧しい町人並みとなります。
同じ武士の妻でも上流階級と下流階級では雲泥の差があったわけですね。