マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
都会暮らしの人はあまり感じないかもしれませんが、小川のせせらぎの音や小鳥のさえずりからも春の到来が感じられ、ワクワク、浮き浮きする頃です。
今のように冷暖房設備が整っていなかった昔の人は、厳しい冬から花咲く春になることを、指折り数えて待ち望んだ事だと思います。
だから鳥や魚や花にも敏感に反応して、春の到来を察したのでしょうね。
例えば、ニシンやウグイスやウメで春の到来を確認したわけで、ニシンは「春告げ魚」ウグイスは「春告げ鳥」と名前を付けたのでしょうね。
では、「春告げ花」と言えばどんな花を思い浮かべますか?
花に関心が無い人でも、一つや二つは思い浮かんでくるのではないでしょうか?
実はそれくらい「春告げ花」と呼ばれる花は日本には沢山あります。
《マナーうんちく話》のコラムの中に登場した花だけでも、フクジュソウ、ウメ、ロウバイ、マンサク、フキノトウ、サンシュユ、ネコヤナギ、ナノハナ、カタクリ、スミレ等など・・・。
これから3月、4月、5月にかけて実に多くの花が咲き乱れ、一年でも最も美しい時期を迎えます。このような国に生まれてきた事を改めて感謝するとともに、美しい春を謳歌したいものですね。
中国に「花看半開、酒飲微酔。此中大佳趣。・・・」と言う言葉があります。
江戸時代に大ベストセラーを記録した貝原益軒の「養生訓」がありますが、その中でも引用されており「花は半開、酒は微酔・・・」と述べられています。
花は満開ではなく5分咲き程度を愛で、酒は泥酔する事無くホロヨイ気分を楽しむのが、後に憂いを残さないので良いと言う意味です。
つまり、花は満開になってしまえば後は散るのを待つだけで、花の心が失せてしまう。5分から6分くらい咲いている状態が一番盛りである。
また、酒は泥酔すればこの世の地獄となるのであります。
花は蕾も5分咲きも満開も、さらに散った後も、愛でたり、楽しんだり、利用したりする方法はいくらでもありますが、酒はそうはいきませんね。
3月4月は別れと出会いが交互する季節で、何かと酒の機会が多くなります。確かに、「酒は百薬の長」と言われ、身体にも良いですし、円滑なコミュニケーションづくりにとても寄与してくれます。
しかし、薬と言うくらいですから、飲み方次第で、良くも悪くもなります。
日本は現在「超高齢社会」で、高齢者がとても多い時代を迎えています。
高齢者の特徴は個人差が大きいと言うことです。中でも身体に関する個人差は特に大きいようです。
例えば、私くらいの年齢に達すると、元気な人も多いですが、酒で命を落とした人、生活習慣病で介護や治療を余儀なくされている人も珍しくありません。
改めて、酒は「賢い飲み方」をお勧めします。
「飽食の国」における食べ方しかりです。
本来、「花は半開、酒は微酔」とは、絶頂期にある人に対し、「足るを知る」事が大切だと言う事を諭した言葉です。また、真の賢人は何事にも謙虚で控えめだと言っています。
今からちょうど300年前にデビューした「養生訓」では、「心身の健康は腹8分が良い」と述べていますが、まさにそうですね。
つまり、花の観賞の仕方や酒の飲み方を例えて、人生の在るべき姿を諭しているわけですね。
地位も名誉も経済力も全て満ち足りている人は大いに参考にして頂きたい言葉です。但し、地球上の人口の半分以上は貧しい生活をしていますが、このような人に向けた言葉ではありません。
マナーは、自然や目に見えない物や人に対し発揮するものですが、その大前提として、自分自身の身体と心が健全でなければいけません。
賢い酒の飲み方、賢い食生活、そして感謝の心と足るを知ることが大切です。