マナーうんちく話604≪武士は食わねど高楊枝≫
春分の頃に蒔いた野菜の種がやっと形が解るほどになりました。
すっかり勢いを増してきた野菜ですが、これから全て順風満帆というわけにはいきません。
油断するとひどい目に遭わされるのが「霜」です。
この頃は、夜に急激に冷え込むと霜に見舞われることが多々あります。
「温かくなったからと言って気を緩めてはいけないよ」と言う自然からのメッセージでしょうか?
実際にはまだ少し先になりますが、七十二候では、今時は「霜止出(しも やみて なえ いずる)」頃とあり、霜が一段落して、苗代で稲の苗が元気に成長する頃です。米を主食にする日本人にとって、一番大切な季節ですね。
ところで米は、「稲の実」だと言う事をご存知でしたか?
詳しく言えば、一年草の稲という食用栽培作物から収穫された実です。
そして、この稲を栽培するところが「水田」です。
つまり水田は、稲という食物に、人間の知恵や努力が結集された、日本人にとってかけがえのない農業技術なのです。
そして、この水田を管理運営していくために、「和の精神」が育まれ、「しきたり」が生まれたわけです。
ちなみに「しきたり」とは、風俗、習慣、風習、慣例、習わし、流儀等と同じ意味で使用されていますが、本来の意味は「仕来たる」、つまり、前々からそのように「して来た」という意味です。
すなわち、しきたりとは、物ごとや人間関係を円滑にするために先人が作った、知恵と思いやりの心が凝縮された、大変合理的なマニュアルの事だと認識して頂いたらいいと思います。
話を元に戻します。
米は稲の実ですが、「稲の実」をなんと言うかご存知でしょうか?
稲の実を「籾(もみ)」と言います。
籾米(もみごめ)ともいいますが、特に種として蒔くための籾は種籾(たねもみ)ともいいます。
そして、籾の殻をとったものが玄米です。
この状態は、豊富なビタミン、ミネラル、食物繊維が含まれ、健康食品として扱われていますので、玄米食を実践されている方も多いと思います。
よく、玄米は「生き米」、白米は「死に米」と言われますが、玄米は水に浸すと発芽し米が実ります。しかし白米は水に浸しても発芽しません。
美味しさは別として、玄米と白米では、栄養素は圧倒的に違います。
次に、この玄米からぬかを取り除き、白米にすることを「精白」と言います。
つまり、私たちが普段食している白米は、玄米からぬかを取り除いた部分です。
昔、米は88の手間暇がかかると言われ、MOTTAINAI精神を象徴する作物でしたが、今でも地球の環境問題解決の糸口になっています。
さらに稲作は「勤勉」と「和の精神」を醸し出しましたが、同時に「一生懸命(一所懸命)」にも繋がる生き方を教えてくれました。なぜなら水田は常に固定され移動できません。従って同じ場所で懸命に生きて行く必要が有るからです。
米が連作出来ない作物でしたら、日本の歴史は大きく変わっていたことでしょうね。
ところで、稲には捨てる所が有りません。藁(わら)は日本人の生活に密着していますし、神様とも大変深い縁が有ります。
米も同様です。「とぎ汁」くらいはとお考えでしょうが、実はとぎ汁には炭水化物やタンパク質の他に、肥料の3大要素であるカリウムとリンが豊富に含まれていますので、植え木等にも利用できます。
戦後導入された市場原理は、確かに物質的な豊かさをもたらしてくれましたが、反面、人や自然と仲良くすること、思いやりの心、助け合いの心が忘れ去られた感が有ります。
TPP(環太平洋連携協定)が大ヅメを迎えているようですが、従来の経済発展の視点とは別の角度からの、本当の意味での豊かさを考える意味においても、米の事をさらに理解して頂ければと思うわけです。