マナーうんちく話77≪貧乏人は麦飯を食え!≫

平松幹夫

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マナーうんちく話77《貧乏人は麦飯を食え!》

食事のマナー2、「日本人の本当の主食は何だったの?」

『貧乏人は麦飯を食え!』。
この言葉、誰が、どんな意図で言ったかお分かりでしょうか?
このことは後で解説するとして、最初に日本人の食の歴史についてお話ししておきます。

西洋の「肉食文化」に対し、日本人は農耕を主とした「菜食文化」を築いてきました。
肉食文化は狩りをするので、当然狩りの縄張り争いが起き、常に争いが絶えませんが、農耕文化は、その土地にめいめいが居座るので争いは有りません。そればかりか、農耕文化は最終的に稲作文化へと進展し、畑に水路を築くようになるので、皆で協力体制を築き、共同生活を営み、やがて「和」が生まれます。皆で仲良くやって行こうということです。

以前、日本のマナーは平和な時代背景のもとで生まれ、西洋は争いを背景に生まれたので、大きな違いがあると申しましたが、ここにその原点があるようです。

日本では食べるために「和」を追い求めましたが、西洋では食べるために「争い」を余儀なくされたということです。
全く逆の性格を持った食文化が日本と西洋では進行していたわけです。

西洋の食文化については後日詳しく触れますが、今回は、日本の食文化は「稲作」を中心に栄え、和のマナーの基礎を築いたことを認識していただければと思います。


そこで、このような素晴らしい食文化を創造した日本人は当然、米を主食にしていたと思われるでしょうが、全ての日本人が普通に米を食べられるようになったのは、長い歴史の中でもごく最近の出来事です。ここ50年くらいではないでしょうか?

冒頭の「貧乏人は麦飯を食え!」という言葉は、1950年の参議院の予算委員会で、58代・59代・60代首相で「所得倍増計画」を唱え、「高度経済成長政策」を推進した池田隼人氏が大蔵大臣だった時に発したものです。

当時は今と違って、麦は安価で、米は高価だったので、「互いに貧しい時には麦飯を食って頑張ろう」というのがこの言葉の真意です。ちなみに池田氏も麦飯で育ったそうです。
これが「貧乏人は麦飯を食え!」と伝えられたため、池田氏は往生したらしいですね。

話しを元に戻しますが、近世・中世の庶民の食料は主として「粟」「稗」「麦」でした。
勿論、当時の農業は稲作を中心として発達してきましたが、田んぼは自分の物ではなく、収穫したコメは領主に年貢として徴収されるので、米は手元に残らなかったわけです。

さらに江戸時代に入ると米は「貨幣」になり、農民の手には益々入らなくなりました。
すなわち当時のコメは大変貴重品で、庶民にとっては日常的な物ではなかったようです。
例え米を食すことができても、100%白米のご飯ではなく、少しばかりのコメに、粟とか稗などの雑穀を混ぜて食べていたようです。今は雑穀米の方が高いようですが・・・。
また米の代わりに、里芋、サツマイモなどのイモ類も多く食されていました。

このように、少なくとも戦前までは白米は大変高価な食べ物だったようです。
それを裏付ける具体例を挙げてみます。
○葬式の時に米が香典代わりになっていました。
葬式は何かと費用がかさむので、香典として頂いたコメを売ってお金に換えていたのです。

○日清戦争の時、兵士の募集方法に米が利用されました。
明治27年に日清戦争が起きますが、明治政府は兵士を募集するに当たり、「美味しい白米を腹いっぱい食わせるから陸軍に志願せよ」といって募集したそうです。
これにつれ、多くの兵士が集いましたが、白米中心の食生活を採用した陸軍には大変多くの「脚気患者」が発生しました。
これに比べ、海軍は麦飯を採用していたので、脚気患者は出でいません。


このように一部のお金持ちは別として、貧しかった多くの日本人は、殆ど米を食べることなく、粟・稗・麦・イモ類等を、食していたというか、飢えを偲んでいたというか、いずれにせよ今と比較にならないほどお粗末な食事だったようです。
それが池田内閣の頃から高度経済成長期に入り、物質的に大変豊かになり、ついに世界一の食生活を謳歌する国になりましたが、同時に多くの矛盾をはらんできます。次回はこのことに触れて行きます。




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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

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