マナーうんちく話57≪震災と変毒為薬≫

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:日常生活におけるマナー


マナーうんちく話57《震災と変毒為薬》

「日本人はピンチをチャンスに変えるDNAを持っている」

「マナーうんちく話56」にて、日本人が世界中の多くの国から好感を持たれている理由として色々な例を挙げ、特に「和の心」と「礼節」に触れてきましたが、実はもう一つ大きな理由があります。これも意外に実感されている方は少ないと思いますが・・・。
それは、日本には北朝鮮などごく一部の国を除いて、「敵対する国」が無いということです。

国際化が大きく進展する中、この事実は大変素晴らしいことではないでしょうか。
勿論その基盤になるものは、「和の心」と「礼節」ですが、さらに挙げれば、日本が世界でもまれにみる「平和な国」であるということです。
前回述べましたように、日本の礼儀・作法はこのような背景から成立した大変素晴らしいものであるということ。ここではそれらに関してお話を進めてまいりたいと思います。

最初に、日本は1945年に終戦を迎えて以来、2011年の現在に至るまで戦争に無縁の国です。今現在、地球上には193の国と地域が存在します。(数字が間違っていたら御免なさい)この中で、日本のように66年間戦争を経験していない国は幾つあるのでしょうか?
私には確かめるすべがありませんが、少なくとも主だった国では思い当たりません。
皆さんは如何でしょうか?
今でも世界の中では悲惨な戦争が容赦なく繰り返されており、リビアでは、日本が災害で苦しんでいる中、多国軍による空爆が行われています。


およそ「天災の悲劇」は悲惨なものです。皆さんも今回の天災で思い起こされたことと思います。でも「戦争による人災の悲劇」はそれを桁違いに上回ります。

アメリカは経済力も軍事力など、何もかもすごい国です。世界の多くの国を支援しています。しかも半端ではありません。しかし喜ばれている国も多い半面、逆に嫌われている国も多いのが事実です。だから前代未聞のテロに遭遇しました。2010年11月6日に発生した「米国同時多発テロ事件」は、3000人以上の人的被害と、総額14兆1750億円の甚大な被害をもたらした人的災害です。
日本では考えられないことです。

加えて日本は、「マナーうんちく話55《日本人とお花見》」のコラムでも触れましたように、平安時代と江戸時代には、200年から400年も国内において紛争を経験しておりません。このような国は世界中どこにも存在しません。

このことは日本の礼儀・作法にも明確に反映されております。
例えば、「障子」や「襖」文化がそれを物語っております。
障子も襖も、紙と木だけでできています。少し力を入れればすぐに壊すことができます。しかし平和な時代には、そこに障子があるだけで、一応の隔たりがあるとして、そこから中には進めませんでした。戦争を常に意識した西洋のマナーでは考えられないことです。
西洋の部屋と空間との仕切りは頑丈なドアです。これは常に外敵から身を守ることを想定して作られています。

挨拶しかりです。日本の挨拶はお辞儀です。お辞儀は頭を下げます。頭は人間にとって大変大事なところで、かつ弱いところです。それを相手に差し出すのですから、敵意は全く存在しません。これに比べ西洋の挨拶は握手です。握手をする時のマナーは、頭を下げるのではなく、相手の目をしっかり見つめます。これは昨日まで戦争をしていた人に隙を見せないためです。さらに西洋のテーブルマナーでは、食事中に手はテーブルの下に置かず、テーブルの上に置きます。理由はテーブルの下に手を置いたら、ナイフや鉄砲を持てるから、それを警戒するためです。(今のマナーではそこまで要求しません)

加えて、建物にも大きな特徴がみられます。意外に知られていませんが・・・。
明治維新まで歴代の天皇が住まわれた京都御所はよくご存知だと思います。私も昨年に京都散策の旅に出かけ見学してきました。外から敵に責められるという発想がない建て方なのですね。世界中の国々の中で、仮にも一国の君主の住まいがこのような発想で持って建立された建物は無いのではないでしょうか?
要は外敵から攻撃されることは想定されていなかったわけですね。


ところで、世界史の好きな方はご存知だと思いますが、人類の歴史は「戦争の歴史」と言ってもいいくらい、どこの国でも、何時の時代でも、戦争の存在が大きいようです。
中でも最も悲惨な戦争は「第2次世界大戦」です。太平洋の沿岸が戦争の舞台になったので「太平洋戦争」ともいわれておりますが、この戦争では何と、世界中で民間人も含めると約6000万人、日本では、民間人も含めると約300万人の犠牲者が出ています。さらに宗教に関する戦争の悲劇も後を絶ちませんね。

このような中で、どうして、日本が世界に例を見ない平和な国を築いたのでしょうか?
答えはまさに「和の心」です。
日本人が長い時を経て育んできた「和の心」が、無益な戦争というものを避けてきたのではないでしょうか。「武力」ではなく、「和する心」「思いやりの心」が大前提と成って、国が治められていたからでしょうね。

そして日本は江戸時代の終わりに鎖国を解き、多くの国々と和の心で持って友好を結びつつ、多くの国で多大な貢献をしてきました。このことが今回の震災でも大いに功を奏しています。また江戸時代の末期の頃から、諸外国と交流を始めた日本には、歴史上の人物が多く訪れております。そして彼らは日本の素晴らしさに驚き、そしてその素晴らしさを世界に向けて発信しております。この点は次回に触れる予定です。

このような素晴らしい伝統を誇る日本ですから、本当は日本語もとても素晴らしいのです。
英語がここ100年においてすっかり拡大し、今や世界の主流を占め公用語になりましたが、歴史上から見ると、とても日本語には太刀打ちできません。
また雑談になりますが、明治新政府の時、欧米から入ってきた言葉で「パパ」と「ママ」があります。当時の帝国議会はこの言葉を一般家庭に普及させるか否か論議したようですが、その時には、この言葉は日本の家庭では使用しないようにしたそうですね。理由は日本語の美しさが損なわれるからだったそうです。

このように日本では稲作が始まった頃から、家族・地域・国においての和を大切にしてきた、世界でも屈指の伝統を誇る国です。
だから日本の国は貧しくとも、平和な家庭を築き、子どもをどこの国よりも大切にし、地域や国際社会においても、とても良好な関係を保ってきました。

最後になりましたが、仏教に「変毒為薬」という教えが存在します。
毒を変じて薬と為す、と言う意味です。
今回の災害を機に、もう一度失いかけた日本人のすばらしい精神気質を再認識し、和の心で不死鳥のごとく立ち直って頂きたいものです。

復興とは、「モノ、建物、インフラ等が充実すればよい」、というものではありません。
人と人との心の和が優先されるべきものだと思います。それは歴史が物語っています。
今回の天災、人災はあまりにも多くの教訓を残しました。
「和の心」と「不屈の精神」での多くの協力作業が、災害復興にとどまらず、あらゆる分野にまで加速したら、その時こそ、まさに「変毒為薬」なるのではないでしょうか?

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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