極めつけの異体験、夜のトビウオ漁―それにしてもここは日本か？！？―(前編)

今日の目次
・田舎でできる珍しい体験、いったい何が？
・人気（ひとけ）のない漁港、寡黙な老人
・コミュ障じゃないのかしら？！？
・あのう船長さん、いつまで待てば・・・
・裸でやってきた謎の無口な人

田舎でできる珍しい体験、いったい何が？

ちょっと季節外れのお話になりますが、昨年の夏、田舎の我が家に東京から長女一家が二年ぶりに帰省してきました。ちょっと前まで幼児だと思っていた二人の孫たちも、それぞれ小学生や幼稚園の年長さんになって、夏休み体験などいろいろさせたてやりたいお年頃でもあります。
田舎でできる珍しい体験。何があるんでしょう？
というわけで、母親である長女がネットであれこれ調べた結果、私の町から比較的近くの都井岬にある漁港で、「夜のトビウオ漁」という体験をさせてくれることがわかったのです。『え！なんだそれは？・・・』と、いささか戸惑います。
よくわからないまま、とにかく、予約当日の夕方、私が運転して長女一家をその漁港まで連れて行きました。

コミュ障じゃないのかしら？！？

彼は、客である我々の方を見ようともしません。私たちはかなり戸惑ってしまって、顔を見合わせます。
長女が旦那である義理の息子に小声で話しかけます。「ねえ、あのおじさん、ひょっとしたらコミュ障じゃない？」田舎の事情にやや詳しい私が「いや、これが普通かも知れないよ。」とやはり小声で脇から意見を述べます。
コミュ障・・・いうまでもなく、「コミュニケーション障害」のことです。他者とのコミュニケーションや距離感がうまく取れない障害のことを言うのでしょうが、地方に行くと必ずしもそうではありません。私が上で述べたように挨拶一つしないのは、普通に「田舎あるある」なのです。
基本、地縁血縁で成り立っている田舎の場合、初めて会う人、つまり「よそ者」には、ロクに挨拶もしない人、できない人というのは結構いたりするのです。そういう事実を、私は長女たちに伝えたかったのです。

あのう船長さん、いつまで待てば・・・

さてその間も、この船長さん（このあと、彼のことは「船長さん」と呼びます。）はずっとスマホをいじっています。あたりもだいぶ暗くなってきたので、声をかけてみました。「あのう・・・」
すると彼は、ボソッとつぶやいた。
「今、救命胴衣を持ってくるけん、ちょっと待っちょれ。」
「は、はあ、わかりました。」
『予約しておいたにもかかわらず、救命胴衣も準備しておかなかったのかよ！』
と思ったのですが、仕方がないので待つことにします。
しかし、その救命胴衣がなかなか届きません。長女がしびれを切らして、再び「あのう・・・」と声をかけます。
今度は、「さっきは電話に出らんかった。今、持ってくるけん。」との返事。言っている意味がよくわからないのですが、とにかく待つしかないな、と諦めることにします。

裸でやってきた謎の無口な人

すると、ほどなく港に近づいてくるバイクの灯りが見えました。目で追っていると、やがて暗闇の中をぐるっと回って我々の前にやってきました。
バイクには上半身裸の、船長によく似たでっぷりとした体形の親父が乗っています。彼もまた無言で、我々に特段挨拶などすることもなく「ホイッ」と手に持っていた救命胴衣を渡したのです。
それは子供用の救命胴衣でした。聞いたところでは、船には大人用の救命胴衣しか積んでいなかったらしいのです。そこで、船長がバイクでやってきたこのサモア人みたいな雰囲気の彼に、子供用のものを持ってくるように頼んだのでした。船長との関係は不明です。漁師仲間？それとも兄弟だったのでしょうか？
遅くなったのは「風呂に入っちょったから電話が聞こえんかった。」という理由だったようです。なんかよくわかりませんが、そういうことだったのです。ものを渡すと「んじゃ」と、そのバイク親父は、上半身裸のまま再び暗闇の中に去っていきました。
子供たちに彼が持ってきた救命胴衣を着せて、我々大人3人も船にあったヨレヨレの胴衣をつけると、いよいよ出港です。我々を乗せたオンボロ漁船は、プスンプスンとなんだか頼りなく動き始めました。が、いくらもしないうちにエンジン全開になり、体感的にはもの凄いスピードで疾走し始めたのです。

宮崎の美しい海。この沖で飛魚漁。

つづく