そういえば柔道やっていたんだ!―「なんの、なんのっ!」掛け声だけは負けまいと―
バーボンウイスキーの銘酒
先日、雑誌を見ていたら久しぶりに「ワイルドターキー」というお酒の名前を目にしました。「ワイルドターキー」は言うまでもなくバーボンを代表する銘酒の一つです。そういえば、長いことバーボンを飲んでいないなあ。
「ワイルドターキー」といえば、昔、同じくバーボンの銘酒「ジャックダニエルズ」と共に憧れたものでした。当時はどちらもかなり高額(今ではだいぶ安くなりましたが・・)で、学生の身には高嶺の花だったことを覚えています。
ところで、「ワイルドターキー」には学生の頃のほろ苦い思い出があります。
無理して「カフェバー」へ
もう相手の名前も顔も思い出せないのですが、とにかくお目当ての女の子と初デートにこぎつけたことがありました。よせばいいのに無理をして当時流行りの「カフェバー」とやらに誘ったのです。(「カフェバー」・・今思い出せばなんともチャライ流行でしたが・・)
当時「カフェバー」は、或る意味男子の技量を証明する勝負の場でもありました。(といっても「ほんの未熟な若造の・・」程度のレベルですが・・)ここでカッコよく振舞えればいっちょまえ、ダサイとなれば「田舎者め」の烙印を押されかねない、という思い込みがあったのです。
女性からすれば何とも馬鹿馬鹿しい思い入れかも知れませんが、当時の男の子は真剣(マジ)だったのであります。(「団塊の世代」前後の皆さん、「そんなこと知らないよ。」とは言わせませんぜ。)
上から目線のウェイター登場
で、ようやくお目当ての女の子とこの「カフェバー」に繰り出した私は、とにかくカッコよく振舞わなければいけない、という恐怖心にも似た思い込みにがんじがらめになっていたのです。
さてそこへ、めちゃめちゃ上から目線のウェイターが注文を取りにやってきました。相手に隙を見せてはいけない。「こんなとこ、普段から普通に出入りしていてるんだぜ。」と思わせなければならない、とがんばったのです。
私はチラとメニューに目線をやりました。デフレの現在と違い、世の中バブルへ向かってまっしぐらの時代です。予想通りというか、予想よりというか、やはりかなり強気のプライス設定でありました。
ここでダサいオーダーはできねえ・・
「あんまり高いもの頼んじゃったら財布が厳しいなあ。かといってダサいオーダーはできねえしなあ・・・」いろんな思いが頭の中をグルグル回ります。
で、とにもかくにも私は、当時結構みんなが飲み始めていたバーボンのボトルを1本キープすることにしたのです。チラ、とプライスに眼をやると1番ポピュラーなアーリータイムズは比較的リーズナブルな価格でした。
「しかし、ここでアーリータイムズじゃあ、あまりに脳がないぜ。もうひとひねりしなくちゃあ・・ なんかないか?」ごちゃごちゃ考えながら更にメニューに眼をすべらすといろんな銘柄が書いてあります。かといって、ここであんまり時間をかけたんじゃあ、場慣れしてない人、と思われかねません。
一瞬、ウェイターの表情が固まった?ように見えた!
「おっ、ワイルドターキーもあるぜ。ヒェーッ、やっぱりたけ―や。ほかにないか・・うっ、すでにウェイターがじれているようにも見える。早く決めなきゃあ。手ごろな値段で・・と。なんかないか、なんか・・・」
私は焦ってきました。「何がいいんだろう?」もちろん本当はさっぱり分からないのです。
そのとき私の目に「I,Wハーパー」という名前が飛び込んできたのであります。
「おっ、これなら前に聞いたことがある。名前はカッコいいな。値段は・・・と、こ、これも手頃だ。よしこれにすっか。」
メニューを眺めている数十秒の間に、これだけのことが頭の中をグルグルと駆け巡ったのであります。顔を上げるとウェイターは、目の端に「早くしろよ。」といったかすかな気配を漂わせ始めています。目の前の彼女の視線も大いに気になるところです。
あせった私はついに決断してオーダ―しました。「ア、I,Wターキー下さい!」
一瞬、ウェイターの表情が固まった、ように見えました。しかし、次の瞬間「かしこまりました。」と注文を書きこみ、引っ込んだのです。
な、なんでワイルドターキー?!?
頭の中が真っ白な私はまだ気がつきません。と、目の前に運ばれたボトルを見てぶったまげました。
「なんで?なんでワイルドターキーなんだよ。俺は確かI,Wハーパーを・・・」ここまで頭をめぐらしてハッと思いだしたのです。
「しまった!さっき俺は『I,Wターキー』って言っちまったんだ。」少し冷静になると、どういう訳かそう言い間違ったことだけは明確に思い出したのです。
「じゃあ、何故あのウェイターは『え、どっちですか?』と聞かなかったんだよ。なんで高い方のボトル(3倍くらい)を出すんだよ!」頭の中はいろんな思いがグルグル回ります。
地団太踏みながら飲む苦い酒
しかし、目の前の彼女にそんなうろたえた気配を悟られたくありません。「ああ、チキショウ、なんてこったい!」と地団太踏みながら、表面は冷静を装ってその夜は過ぎて行ったのでした。(もちろん、泣く泣く(心の中で)ワイルドターキーを飲んだわけですが・・)
と、ここまで書いたのですが、このボトル間違いの一件は、そこのところ(勘違いオーダー)以外の細かいことはあまりよく覚えていないのであります。その後の女の子の反応とか。まあ、そんな感じでかなり無理して付き合っていたのですから、その女の子にはいつものように幾らも経たないうちにふられたわけです。
バ、バルボン下さい!
それにしても、突っ張りに突っ張って無理したあげく、とんでもなくスベった若造を見てあのウェイター、厨房で仲間と腹を抱えて笑っただろうなあ、というのは想像に難くありません。私が彼の立場でも笑うよなあ、きっと。
これが、ほろ苦い、というよりもうちょっとビターな青春時代の思い出であります。
同じバーボンで思い出すのは、同郷出身の友人の話です。彼もカフェバーに行って、あがりにあがったあげく「バ、バルボン下さい!」と注文したのだそうです。
世はバブルへまっしぐらのあの時代。思い出してみると、何だか浮足立ったスベり話、多かったなあ・・・
これは、最近ふるさと納税でゲットしたウィスキー