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単純所持で逮捕 児ポ法改正案がはらむ危険

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今回の改正案では、児童ポルノの所持を全て禁止

単純所持で逮捕 児ポ法改正案がはらむ危険

児童買春や児童ポルノを規制する「児童ポルノ禁止法」(児ポ法)に関し、自民、公明、維新、民主、結いの5党は、児童ポルノの所持を一律に禁止し、一定の目的を持った所持の場合には罰則を科すことを定めた法改正案について大筋で合意したとの報道がありました。今後、この合意案に沿った法改正の動きが一気に進む可能性があります。

児ポ法に関しては、これまでにも、児童ポルノの定義の曖昧性などを理由として、表現の自由やプライバシーの侵害ではないか、さらには濫用的捜査への懸念の声が強くありました。

今回の改正案では、目的に関係なく、児童ポルノの写真やデータなどの所持を全て禁止し、一定の場合には処罰を行う内容になっているため、さらに批判は高まりそうです。他方で、今回の改正案では、漫画、アニメ、CGなどの実在しない児童を描いた創作物については、表現の自由への影響を考慮し、直接的な言及は見送られているようです。

児童ポルノの定義が曖昧な中で単純な所持が禁止される怖さ

確かに児ポ法では、児童ポルノの定義に、「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの」を加えていて、このような定義が曖昧であることは否定できません。しかし、翻って考えてみると、例えば、刑法のわいせつ物販売目的所持罪における「わいせつ」などは、そもそも法律に定義規定すらありません。大昔の判例は、これを「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義に反するもの」と定義しましたが、これも児ポ法に負けず劣らず曖昧ともいえ、児ポ法だけを特別視するのも違和感があります。「わいせつ」の定義は時代により変わるものでしょうし、なかなか定型的に定義しにくい面もあり、この点はある程度やむを得ないとも思います。

むしろ、今回の改正法が問題なのは、何が児童ポルノなのかがそもそも判断しにくい中で、その単純な所持が禁止されることの怖さだと思います。今回、刑罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)が科される児童ポルノの所持には、「自己の性的好奇心を満たす目的で」との限定が付されていますが、警察から嫌疑をかけられた市民が、この目的を否定するのは容易なことではなく、ほとんど処罰に限定がないのと同じではないかという批判があってもおかしくないでしょう。このあたりは、刑法のわいせつ物の所持罪が、販売目的などがある場合に限り処罰されるものとされ、比較的、客観的な反論がしやすいのと対照的です。

捜査機関に市民への非常に大きな捜査上の武器を与えることに

改正案の議論の中では、「実在しない児童に関する創作物への規制の可能性があり表現の自由が萎縮する(漫画「ドラえもん」で有名なしずかちゃんの入浴シーンなどが例示されていました)」「18歳未満に見えさえすれば規制の対象となってしまうのではないか」などの指摘もありました。少なくとも後者については、現行法も改正案も、児童とは「18歳に満たない者」と明確に定義していますから、それほど問題はないと思います。しかし、前者については、現行法及び改正案の、法律の目的や、「児童」や「児童ポルノ」の定義を見ても、例えば、18歳未満という設定の創作上の児童のポルノ描写が児ポ法の対象外とは必ずしも読み取れず、最終的には、裁判例の集積を待つしかないかもしれません。

また、現状、児童ポルノとされる可能性のあるデータをパソコン上に保存(所持)している市民は相当数いると思われます。この点では、捜査機関に市民に対する非常に大きな捜査上の武器を与えたという側面も否定できません。このため、別件目的で、改正された児ポ法を利用した濫用的な逮捕や捜索などが横行しないかも厳しくチェックしていく必要はありそうです。

交通事故と債務問題のプロ

永野海さん(中央法律事務所)

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