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著作権の保護期間延長が生む弊害

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著作権の保護期間を70年に統一する合意が成立する見通し

著作権の保護期間延長が生む弊害

先日、TPP交渉において「著作権の保護期間を70年に統一する合意が成立する見通し」との報道がありました。

日本の現行著作権法では、著作権の保護が開始される時期は「著作物の創作の時」です。そして、保護が終了する時期は「著作者の死後50年を経過」したとき(51条)。つまり、日本の著作権の原則的な保護期間は「著作物創作後の著作者の生存期間+著作者の死後50年」となります。例えば、著作者が30歳のときに著作物を創作し80歳で亡くなったとしたら、単純計算で、創作後の生存期間50年+死後50年の合計100年にわたって保護されるということです。例外として「無名または変名の著作物(52条)」「団体名義の著作物(53条)」「映画の著作物(54条)」については、別に定めがあります。

他方、アメリカの著作権法は、1978年1月1日以降に創作された著作物について、原則として、保護期間を著作物創作後の著作者の生存期間+著作者の死後70年としています(302条(a))。なお、アメリカも1978年改正法においては、著作者の死後50年でしたが、1998年に70年に延長され現在に至っています。

今回の報道は、TPP交渉参加国が、保護期間の終期を「著作者の死後70年を経過したときに統一しましょう」というものです。すでに70年としている参加国は大きな変化はないのですが、日本のように50年としている国は、その増加した年数だけ保護期間が長くなることになります。

20年延長しても創作に対するインセンティブが増すとは思えない

では、この著作者の「死後○○年」という終期を50年から70年に変更することに合理性はあるのでしょうか。

まず権利者にとっては、保護期間が長くなるのでメリットに映るかもしれません。また、従前より手厚い保護になるので「創作へのインセンティブが増す」との主張も一部ではなされています。しかし、「著作者の死後50年」という期間は決して短くはありません。例えば、50年前といえば1964年(昭和39年)、東京オリンピックがあった年で、70年前の1944年(昭和19年)は太平洋戦争の最中です。1964年以前の著作物は経済的観点からみても、すでに十分、投下資本を回収し、利益を上げていると考えられます。

また、そのような著作物の大半は「古典化している」とさえ言えるのであり、むしろ「文化的所産の公正利用」や「文化の発展」という目的からすると、公有に帰属させて、万人が自由に利用できるようにしても、権利者の保護に欠けることはないと考えられます。少なくとも、20年延長したところで、創作に対するインセンティブが増すとは思えません。また、「著作者の死後50年」は「保護として不十分であり、合理性に欠く」と断定することもできないと思います。

現在、経済産業省は「クールジャパン政策」を推進し、日本のマンガ・アニメなどを海外に輸出することを積極化しようとしています。確かにマンガ・アニメ等を輸出する権利者側からすれば、保護期間が延びることはマイナスにはならないでしょう。しかし、20年延長の効果が表れるのはかなり先になりますし、その効果も現時点では判然としません。日本は他方で、他国の著作物を多く輸入して利用しています。その場合、保護期間が延長されることはマイナスになります。このように、現在のところ「70年」にすることの強い合理性は見出せないように思います。

「自由に利用することが文化の発展に寄与する」ことも考慮すべき

これまで保護期間は、延長が繰り返されてきました。いったん延長されてしまうと、これを短縮することは困難といえます。これは「権利者を保護する」というスローガンは明確で受け入れやすい反面、これを「自由に利用することが文化の発展に寄与する」といっても「抽象的でその利点が漠然としている」という、この問題の特質が原因の一つだと考えられます。

今回のTPP交渉でも、関税品目等、各国の利害が衝突する項目は、現時点で合意には至っていません。それと比べると、上述のような特質を有する著作権の保護期間の問題は、合意しやすいテーマだったのかもしれません。

しかし、世界的に有名なキャラクターも延長を繰り返して半永久的に保護されるべきではなく、いずれは公有に帰属せしめ自由に利用できるようにするという視点は忘れてはならないと思います。

中小企業の知的財産権を守る専門家

長谷川武治さん(関西生祥法律事務所)

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