軍艦島に見る世界遺産登録への課題
政府が正式に推薦書を提出。軍艦島の世界文化遺産登録を目指す
軍艦島とは、長崎市の南西海上にある端島の別名です。端島(軍艦島)はかつて海底炭鉱により栄えましたが、炭鉱の閉山とともに島民が島を離れ、現在は無人となっています。軍艦島とは、島の外観が軍艦のように見えることから名づけられました。
この軍艦島(端島炭鉱)は、政府が平成26年1月17日に国際連合教育科学文化機関ユネスコ世界遺産センターに推薦書正式版を提出することを閣議決定した「明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域」の一つに含まれています。その後、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)での審査を経て、世界遺産委員会で正式に審査・登録の可否が判断されるという流れが予定されています。
歴史的背景を抱えた他国からの反発や費用面での課題も
これに対し、中国・韓国の一部団体から、軍艦島の世界文化遺産申請に対する反対が表明されたとの報道がありました。その理由としては、過去に中国人・韓国人の強制徴用がなされ「奴隷労働が強制され多数が死亡した」「残忍非道な歴史は現在まで清算されていない」とのコメントがなされたと報道されています。実体がどうだったかについても様々な意見が出されていますが、少なくとも第二次大戦中に徴用があったとの資料は現存しているようです。
また、世界文化遺産登録のためには「現状維持」が求められますが、軍艦島の高層住宅では劣化が進み、現状維持をするためには相当の費用がかかることや、どの範囲を維持すれば良いか不明確であるという問題も挙げられています。
世界遺産に政治的・経済的な観点は持ち込みすぎないこと
そもそも世界遺産は「地球の生成と人類の歴史によって生み出され、過去から現在へと引き継がれてきたかけがえのない宝物として、未来へと伝えていかなければならない人類共通の遺産」です。
第二次大戦中の徴用問題については、中国・韓国との間で根の深い問題となってしまっています。この問題を巡って、多様な意見や主張があることもそのとおりです。しかし、政治的な問題や過去の怨恨が、後世に残すべき遺産の判断を曲げてしまうことは果たして妥当なのでしょうか。
また、世界遺産登録のためには整備が必要ですが、それこそ人類全体の遺産であれば、その維持管理にかかる負担も皆で分かち合うべき費用であると言えます。この種の問題は軍艦島に限らず、さまざまな場合に想定されますが、世界遺産の意義に照らすと、世界遺産の登録には政治的・経済的な視点を持ち込みすぎず、真に「未来に伝えていくべき遺産」と言えるかどうかを考えるべきではないでしょうか。