震災語り部の通訳に求められること
語り部通訳は成り立つのか?
東日本大震災復興運動のひとつとして、震災を経験した「語り部」が要求されているそうです。震災直後の「山になったガレキがすべてを物語っていた」時期がおわり、被災地を訪れる人に当時の様子を伝えるために、写真などと共に言葉で説明できる経験者が必要とされているようです。また、海外からやって来る人のために通訳も求められているとのこと。通訳の養成を目指して「研修会」が開かれる予定もあるそうです。
これを見て、「どんな通訳ができるだろう。そして、誰がやるのだろうか」というのが正直な気持ちでした。語学力の弱い日本人の弱点のひとつとして「語学の価値がなかなか理解できない」ということが挙げられるように思います。英語(その他の言葉)が「できる」人を見つけて、簡単な研修を経て「語り部通訳が成り立つのか?」ということが頭によぎりました。
通訳される語り部がすべてをゆだねられる人柄も大切
「震災復興に向けてがんばっている人たちに、通訳の意味や価値を理解してもらいたい」という思いはあります。しかし、「英語がわかるからといって、誰もが通訳をできるわけではない」とも考えています。語り部の思いを伝えるためには、「言語力」はもちろん、「表現力」や「表情の豊かさ」「集中力」も大切です。通訳される側が、通訳する側にすべてをゆだねられるような人柄も求められると思います。
震災地語り部の通訳を例に挙げると、「当時の状況を、語り部と同じ熱意を持って外国語で伝えられること、そして、語り部の話のリズムを中断することなく通訳できること」が重要です。「原稿があるから大丈夫」と安心してはいけません。海外からわざわざ東北を旅する人は、必ず質問をします。「その質問を正しく理解して語り部に伝え、その返事を正確に返す」という場面も出てくることでしょう。どんな質問をされても、聞く相手に失礼のないように応えなければなりません。
語り部のサポートを優先できる「仕事として従事する人」が必要
また、通訳ができて、昼間に時間が豊富にある人はどれくらいいるのでしょう?社会人や学生、専業主婦、退職者などが挙げられるとは思いますが、社会人は異動、学生は進学・就職、主婦と退職者にもそれぞれ事情があるはずです。それ以前に、通訳者を評価して採用しなければなりません。語学力、コミュニケーションの力量を見極めるためにプロの助けがいります。
安定した通訳供給を実現するためには、趣味、業務の一部などではなく、語り部のサポートを優先できる「仕事として従事する人」が必要ではないでしょうか。被災地に感心を持つ旅人が、「東北を永遠に消えない思い出」として持って帰るように、語り部と同じように通訳についても慎重に考えてほしいと思います。