「障害者向けマンション」の期待と課題
身体障害者向け賃貸マンションが6月に神戸市垂水区に完成
ヘルパーが常駐し、自立を支援する身体障害者向け賃貸マンションが6月に神戸市垂水区に完成するそうです。マンション内では知的障害者の就労を支援する事業も行い、共有スペースの清掃は知的障害者が担当。将来的にはスタッフとして雇用するそうで、障害者が共生する多機能型施設として期待されています。国土交通省によると、同様の施設は全国初とのことです。
高齢者専用マンション(サービス付き高齢者向け住宅)が乱立する昨今、障害者専用のマンションは類を見ません。今回、神戸市垂水区に建設予定の障害者専用マンションについて、その概要を踏まえて期待と今後の課題について考察します。
障害者自立が進まない背景
まず、障害者をめぐる現状について。平成25年障害者白書によると、日本における障害者の人口は、身体障害者366万3千人、知的障害者54万7千人、精神障害者320万1千人となっています。全人口の約6%が何らかの障害を持っていると言われています。「学齢期を超えた障害者が、親元を離れて(ヘルパーなどを使いながら)一人暮らしをする(すなわち、自由な生活を手に入れる)」ということを障害者自立と定義づけるならば、特に重度障害者は残念ながら障害者自立できていないといえます。
なぜ、進まないのでしょうか。「私が亡くなった後、障害のある息子の面倒を見る人がいない」と考える親が多いからでしょう。地域に開かれたグループホームなども多くできているが、まだまだ不足しています。そうると、「親亡き後は施設や病院」という流れを断ち切ることができません。
「障害者自立」を謳った画期的な「施設」。広がりに期待
今回、設立予定の「障害者向けマンション」は、「そこに生活の場を置く」「ヘルパーが24時間態勢」「緊急時は医療職が対応」などという観点では、一見旧来の「施設」と見誤ってしまう部分があります。しかし、大きく違う点は、「部屋で家族と過ごしてもいいし、外泊もできる」という自由さ。つまり、自分の生活を自分で決めることができる、ということです。当たり前の考え方のように思われますが、施設や病院では、一定の縛りがあるのは事実です。その壁を取っ払ったことに関しては評価できる点があります。
また、知的障害者の就労・知的障害児の保育施設整備などで障害者福祉全体への貢献となり、モデル事業としても各地に広がることが期待できるでしょう。
知的障害者・精神障害者の自立ニーズの高まりも
しかし、「障害者向けマンション」と言いながらも、対象は「身体障害者(特に肢体不自由者)」のみが対象となっています。先に提示した障害者白書によると、学齢期を超えた各障害者の施設入所の割合は、身体障害者2%に対し、知的障害者29.2%、精神障害者10.6%と、今回対象外の知的障害者・精神障害者の自立ニーズの方が高まっています。
「旧来施設からの脱却」という観点からすれば、肢体不自由者以外も対象とし、障害種別関係なく「障害者自立」に向けて進んでいくことが望まれるでしょう。