復興特区法改正案で復興前進か?
被災地住民の高台への移転事業のために成立「復興特区法改正案」
津波被災地の復興の中で避けて通れない問題が、被災地住民の高台への移転事業です。この高台への移転事業のために、先日、いわゆる「復興特区法改正案」が成立しました。「復興特区法改正案」では、所有者不明の土地などを強制的に買い上げる「土地収用」の要件を緩和します。
土地収用とは、個人の土地を公共の利益のために強制的に収用するものですから、土地収用法は、事業の公共性を認定した上で(事業認定)、収用の対価である補償が適正かを裁決し(収用裁決)、土地の収用ができることとしています。これは高い公共性のために、住宅等を保有している個人に多大な犠牲を強いてでも収用を認めるための手続です。
しかし、被災地で問題になっているのは、例えば明治時代から遺産分割が放置されて権利者が錯綜したり不明であったりする土地の収用を早められないかということです。そこで、復興特区法を改正する形で、被災地のニーズに合わせて土地収用の仕組みを整えることとなったのです。
法改正は被災地のニーズに柔軟に合わせた側面も
さて、収用裁決にあたっては、土地の権利者が確定していることが前提となりますので、その詳細な調査報告書を提出しなければなりません。しかし、権利関係が錯綜している場合などには、調査に長期間が必要となりますので、申請後に調査報告書を提出してもよいこととしました。
そして、本来は、収用裁決が確定してはじめて収用できるのが原則ですが、復興はまったなしの状況ですので、収用裁決の確定前に着工できる緊急使用制度の活用が検討されました。ところが、緊急使用は、早期着工が必要な防災設備など公共性の高い事業のための制度ですので、高台移転事業では必ずしも認められるとは限りません。そこで、防災という観点にかえて、復興の推進という観点から緊急使用が認められるようになり、その期間も6か月間に限られていたのですが、1年間に延長されました。
また、土地収用法は高い公共性を想定していたため、50戸以上の移転が要件とされていましたが、移転する住民の合意形成の難しさや移転先用地に限りがあることから、被災地では小規模の集団移転が多く、そこで5戸以上の移転であれば良いこととされました。
個人の財産権と復興という公益の調整に課題
しかし、この法案に対しては、結局は1年間の緊急使用を認めるだけでは、その期間内に移転先の権利関係の整理が終わらなければ、後日、工事の中止に追い込まれる危険があります。自治体はこの手続を使うことに躊躇を覚えるのではないかという批判があり、日本弁護士連合会なども、自治体が移転先についての補償金を第三者機関に預けたうえで工事に着工し、最終的に所有者に対して支払いを行うなどの方法で自治体が所有権を取得できる制度を提案していました。
移転先候補地の利用と自治体等による取得の問題は、個人の財産権と復興という公益の調整です。もちろん、公益といっても、その背景には被災者一人一人の生活がかかっていることを忘れてはいけません。難しい問題ですが、被災地の住民の意見を広く聴くシステムを作ることで公益性を十分に担保しつつ、所有者に対する金銭補償を行い、復興に軸足を置いた解決が図られていく必要があるのだろうと思います。
企業再生・企業法務のプロ
岩渕健彦さん(エール法律事務所)