「すべて社会保障に」消費増税のトリック
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法律上、消費税の使途が「社会保障4経費」に限定されることに
今回の消費増税は、少子高齢化により年金や介護など社会保障にかかる経費が年々1兆円という規模で膨らんでいることや、待機児童問題といった少子化対策に対応する財源確保のためと説明されており、政府は消費税の増税分をすべて社会保障の財源とする旨を明言しています。
これを受けて、改正後の消費税法には、「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」との条文が加えられました。法律上、消費税の使途が、年金・医療・介護・子育てのいわゆる「社会保障4経費」に限定されることとなったわけです。
消費税8%のうち、国に入るのは6.3%で、残りの1.7%は地方消費税です。さらに国に入ったうち1.4%分は地方交付税の財源となりますので、最終的には国に4.9%、地方に3.1%という配分になります。地方消費税(ただし増税分)や、消費税を財源とする地方交付税分についても、「社会保障4経費」を含む社会保障施策に必要な経費に充てると限定されていますから、8%の消費税のうち従来の地方消費税分1%を除いた7%が社会保障の財源に充てられます。
税収入の約5兆円増に対し、社会保障費は3.7兆円増えるだけ
これだけを見ると、「消費税の増税分をすべて社会保障の財源とする」とする政府の説明は正しいように感じてしまいます。しかし、具体的に予算の配分などをみると、この説明の「トリック」が見えてきます。
平成26年度における消費税収入は約5兆円増加しますが、「社会保障4経費」は平成25年度の32.9兆円から26年度の36.6兆円へと3.7兆円増えるだけです。3.7兆円しか使われない点だけでも「増税分はすべて社会保障に」という「限定」が守られていないことが明らかです。
消費増税で社会保障が充実されるというのは「幻想」に過ぎない
また、5兆円のうち、3兆円は基礎年金の国庫負担に充てられ、1.3兆円は社会保障費をまかなっていた赤字国債の解消のために振られます。つまり、この1.3兆億円は、これまでの財源が借金だったものを消費税収入に置き換えるだけのことです。他方、保育所待機児童の解消や子育て支援など、さらなる社会保障充実のために使われるのは5000億円だけですから、消費増税分のわずか1割に過ぎないことになります。
要するに、消費増税によって、これまで以上に社会保障が充実されるというのは「幻想」に過ぎず、従前の社会保障経費の財源をそっくりそのまま消費税にすり換えただけのことなのです。お金には色が着いていませんから、消費税を社会保障経費の財源にすることによって、浮いた従前の財源を、社会保障以外の使途に付け替えることも可能です。
少子高齢化に従って年々膨れ上がっていく社会保障経費のグラフを見せれば、国民も「諦めの境地」に至るでしょう。どうやら、消費税増税の口実として「全額が社会保障に使われる」と言えば、国民の納得が得られやすくなる、というのが政府の「狙い」のようです。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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