小学生にタブレット、反転授業の課題
小学校での「反転授業」実施は多くの課題も
佐賀県武雄市は公立小学校の全児童に学習用タブレットを無償配布し、教材として使用するほか、この春から3~6年生を対象に「反転授業」が始まります。反転授業とは、タブレットでビデオ授業を見ながら自宅で単元内容を予習し、学校では話し合いを中心に、わからない部分や踏み込んだ内容を学ぶ手法のことです。つまり「学校で教えてもらい」「家で復習する」という、従来の学校で当たり前のように行われてきた授業形態を180度反転させたものなのです。
「TSUTAYA」や「スターバックス」と連携した武雄市図書館は、全国ニュースにもなり、話題を集めて久しいのですが、今回も全国に先駆けた公立学校での取り組みとして話題作りにはなっているものの課題は山積みのようです。反転授業は「先進的な取り組み」として評価されるべきことですが、成功例は高校生以上の高等教育であって、基礎学力や勉強の仕方を学ぶ公立小中生には「向いていない」という考え方もあります。タブレットの有効活用として、反転授業が普通の指導になるとは考えにくいのです。その理由を、次の3つの問題点で考察します。
インプット学習は、解答能力が育まれにくい傾向に
(1)宿題をしない子どもはどうするのか?
反転授業の第一原則は、子どもが家庭でタブレットのビデオ授業を観て予習することが宿題となっています。子どもたちは学校から帰ると、友だちと遊んだり習い事や塾に出かけたりと多忙な毎日を送っています。さまざまな家庭環境下で生活している子どもたちが、与えられた宿題をきちんとやってくるというのは机上の理想論です。何らかの理由で、宿題のビデオ授業を観て来なかった子どもは、まともに授業に参加できないかもしれません。
(2)カリキュラムについていけない子どもはどうするのか?
算数や英語など基礎単元を積み重ねていく教科の場合、前の単元でつまずくと先のことは理解できず、これを放置することが落ちこぼれの原因にもなっています。落ちこぼれた子どもが、ビデオ授業を観て予習する姿は想像できません。
(3)インプット学習(受動学習)では解答能力がつかないのでは?
ビデオ授業は、インプット学習(受け身の学習)です。理解する力はついても、質問への解答力がつきにくいと言われています。アウトプット学習(能動学習)、つまりたくさんの演習問題にチャレンジしたり、書いて暗記したりする訓練によって、はじめて解答能力がついてくるものです。
学習履歴の管理・分析など、システムの有効活用がメリット
そもそも、タブレット型パソコンで映像を観るだけならば、テレビモニターでも十分です。パソコンの特性を生かすためには、「eラーニングシステム」の利用が必須であると考えます。自動採点機能、ランダム出題による反復学習、さらに個々の学習履歴の管理・分析など、システムの有効活用が本来のパソコン利用のメリットではないでしょうか。
小中学生が、デジタル教科書で学ぶ時代が目前に迫ってきています。パソコン活用のミスマッチがないように、また、学力低下につながらないように、これからも見守っていく必要があります。