政府が正式決定「雇用指針」の影響
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紛争が生じやすい「解雇」について特に詳細な説明
2014年4月1日、厚生労働省から「雇用指針」が公表されました。これは、「国家戦略特別区域法第37条第2項に基づき、新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高めるとともに、労働関係の紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう」に定めたもの、とされています(厚生労働省ホームページより)。
雇用指針では、グローバル企業が我が国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高められるよう、①総論としてこれまでの裁判例の分析を行い、②「各論」においてグローバル企業等の関心の高い項目、紛争が生じやすい項目を中心に裁判例を類型化し、関連する法制度や裁判例を紹介しています。また、③紛争が生じやすい「解雇」について、特に詳細な説明を行っています。
「雇用指針」は何のために作られたのか?
厚生労働省では、雇用指針は「国家戦略特別区域会議の下に設置される『雇用労働相談センター(仮称)』において、グローバル企業等や労働者からの要請に応じた雇用管理や労働契約事項に関する相談に当たり活用する」としています(厚生労働省ホームページより)。
国家戦略特区とは、雇用や農業,医療などについて大規模な規制緩和により民間投資を引き出し、ビジネスがしやすい環境を作ることを目的とするものです。雇用指針は、これらのうち、「雇用」の面において,グローバル企業やベンチャー企業が進出しやすくすることを目的としているものでしょう。逆に、国家戦略特区においてどのような規制緩和をするかによって、これまでの労働法制や企業のあり方を大きく変えてしまうかもしれません。規制緩和によるデメリットも考慮する必要があります。
解雇が適法となりやすい可能性も
雇用指針はあくまでも厚生労働省がまとめたにすぎず、この指針があるからといって直ちに何かが変わることは考えにくいと思われます。しかし、この指針が公表されたことで「解除条件を類型化することにより、指針に合致していれば解雇が適法となりやすい」ということになる可能性が考えられます。
当然ながら、適法かどうかの最終的な判断は裁判所が行いますし、指針が裁判所の判断を拘束するわけではありません。しかし、雇用指針はこれまでの裁判例の類型化という形を取っていることや、政府の指針として公式に発表されていることを考えると、実務的にはある程度の影響が出る可能性も否定できません。
現在の労働法制・判例では、解雇が出来る場合はかなり限定的でした。これについては賛否があるところでしょう、,労働者を簡単に解雇できる社会というのは、これまでの日本の労働法制とは大きく異なる形になります。その是非については、今後議論を重ねていく必要があるでしょう。
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