竹富町教科書に是正要求。問題の本質は?
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教科書無償措置法とは
教科書無償措置法(正式には「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」)とは、義務教育(小学校、中学校、特別支援学校の小学部・中学部)におい
て使用する教科書を無償で給与する仕組みを定めるとともに、教科書の採択および発行の制度を整備するものです。
教科書無償措置法は、憲法26条に定める義務教育無償の精神をより広く実現するために、義務教育で使用される教科書を無償としたものです。無償供与される教科書は国が購入し、その後、発行者から取次店を経て各学校へ供給され、児童生徒の手に届きます。
竹富町の教育委員会が独自の教科書を採択。文科省が是正要求
教科書無償措置法は、「市(政令指定都市の場合は区)若しくは郡の区域又はこれらの区域を合わせた区域」に教科用図書採択地区を設定しなければならないとされています(法12条、16条)。実際に公立の学校については、地区ごとの協議会が使用教科書を定めています。しかし、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地方教育行政法)23条6号」では、市区町村の教育委員会が教科書の取り扱いに関する事務を管理執行するとの規定もあり、同法に基づけば市区町村の教育委員会に教科書の採択権原があるようにも読めます。
このように法律の規定が明確ではないため、各学校が協議会の定める教科書の使用を拒否し、独自の教科書を選択した場合、どのように取り扱うかという問題が生じています。具体的には、沖縄県竹富町の教育委員会が、同町が含まれる八重山地区の協議会で採択された教科書の使用を拒否し、独自の教科書を採択したのです。
これについて、文部科学省は教科書無償措置法が優先するとして、竹富町に是正要求をし、また同法に基づいて教科書を無償供与できないとの判断を示しました。そのため竹富町は、独自に教科書を用意して生徒に配布することになりました。是正要求に対しては市町村に改善義務がありますが、不服があれば国地方係争処理委員会に審査を申し出ることができます。また、国側も市町村が是正要求に応じなければ訴訟による解決という選択肢が残されています。
2014年3月27日には、採択地区内の各市区町村による協議会の設置、および教育委員会が協議の結果に従い同一の教科書を採択することを義務づける「教科書無償措置法の改正案」が衆議院において賛成多数で可決されています。
価値観の対立や押しつけ。「大人の問題」を持ち込むな
教科書無償措置法には、教科用図書採択地区を設定しなければならないとの規定がありますが、最終的な教科書の採択権がどこにあるかは規定がないことが原因です。法律の建て付けが今回の問題の発端ですが、本質的には「教科書の選定における価値観の問題」が含まれていると考えます。今回のケースにおいても、採択にあたり賛否が分かれたにもかかわらず、わずかな審議で反対意見を押し切ったということも指摘されています。
教科書無償の理念は憲法26条に由来します。これは、全ての子どもに十分な教育の機会が与えられなかったことの反省に立脚するとともに、未来を担う子どもたちに、大人の責任として、きちんとした教育の機会を確保しようというものです。そうであれば、少なくとも義務教育においては価値観の対立や押しつけといった「大人の問題」を持ち込まず、子どものことを第一に考えなければならないのではないでしょうか。
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