冤罪確定で国から受けられる補償は?
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違法性はないため賠償責任は成り立たない
1966年に発生した強盗殺人放火事件の裁判で死刑が確定後、冤罪を訴えていた袴田巌(はかまだ いわお)さんの再審開始決定と釈放のニュースが、全国を駆けめぐりました。検察が抗告したため、再審はいまだ始まらず、袴田さんの無罪確定ははっきりしませんが、確定した場合、国からどのような補償が受けられるのでしょうか。
憲法40条は、「何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる」と定め、これを受けて刑事補償法は、金額の定め方などを規定しています。
神ならぬ人が行う刑事手続きにおいて、犯罪を行ったと疑われる人の身柄を確保して捜査を行い、有罪が期待できる証拠があれば起訴をして刑事裁判に進め、その結果、無罪となった場合、これらの国の行為に必ずしも違法性があるとは言えません。国の行為で国民に被害を与えた場合、それが違法であれば国家賠償責任を負いますが、この場合は違法とは言えないので、賠償責任は成り立ちません。しかし、無罪となった人は国民全体の利益を守るために必要な刑事手続のために特別の犠牲を負担したのですから、公平の観点から補償をするというのが、その趣旨です。
死刑制度が残る数少ない先進国が抱える大問題
本来、刑事裁判では「無罪推定の原則」があり、絶対確実な証拠がない限り裁判官は無罪判決を出します。無実の人であれば絶対確実な証拠があるはずはなく、有罪とされるわけがないのですが、日本の刑事裁判官には、一人の無辜(むこ)も罰しないことを職責と考えるより、一人の犯人も見逃さないことを重視する傾向が強いようで、冤罪誤判が繰り返されています。袴田さんは、このような日本の刑事司法の犠牲となり、死刑判決が確定し、死刑囚として拘置所に入れられて自由を奪われただけではなく、いつ死刑が執行されるかわからない、日々の恐怖に長期間さらされてきたのです。
刑事補償法では、補償の金額を1日当たり1000円以上1万2500円以下の範囲内で、裁判所が拘束の種類・期間や財産上の損失、精神的・身体的苦痛、警察・検察の過失などの考慮要素を総合的に判断して定めるとしています。
袴田さんの場合、どの要素をとってみても、これ以上ひどい条件はないと考えられますので、最高額で算出された金額が定められると思われます。報道によれば、2億円を超えると見られています。しかし、長期間の拘禁により高齢となり、心身の健康も害されているようですので、これだけの補償を受け取っても、本人にとっての意味は極めて少なく、取り返しのつかない犠牲を強いたことに対しては償い切れないのではないかと思われます。死刑制度が残っている数少ない先進国が抱える大問題です。
法律相談のプロ
青島明生さん(富山中央法律事務所)
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