外国人労働者の受け入れ拡大に潜むリスク
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建設業界の深刻な人材不足に対応するため、在留延長を認める
政府は、建設業界の深刻な人材不足に対応するために、積極的に外国人労働者の活用を図る方針を示しています。具体的には、2015年度から、最長3年とされている外国人技能実習制度に加えて、建設業に限って「特定活動」として、法務大臣が2年間の在留延長を認め、通算5年間の在留期間を認めます。技能実習制度で来日した元研修生が再来日する場合も、「特定活動」として帰国後1年未満なら2年、1年以上の場合には3年の滞在を認めるという制度設計を構想しているようです。
この「特定活動」が建設業に限定されていることからもわかるように、この措置は2020年の東京オリンピック関連施設の建設と、東日本大震災からの復興、それに景気対策として取り組んでいる公共工事関連で起きている深刻な人手不足を解消するのが狙いです。現在の人手不足の状況は、職人の奪い合いなどで人件費単価の上昇を招いており、資材価格の高騰と相まって、「仕事はあっても原価がかかりすぎて受注できない」という異常な状態になっています。外国人の労働力を導入して人手不足を解消し、人件費単価を落ち着かせるのは急務だといえます。
人手不足解消の代償として、労働問題の増加や賃金の値崩れも
ただ、一方で、解決策として、外国人技能実習制度を拡大適用するということについては問題も少なくありません。この制度の建前としては、実習生への賃金の支払いについては「日本人労働者が従事する場合に支払われる賃金と同等額以上の賃金を支払う必要がある」とされていますが、残念ながらそのルールが厳格に守られているわけではないのです。
昨年6月20日には、日弁連が、この制度下において研修生の人権侵害に当たる不正事例がおびただしいことを理由に制度の廃止を求める意見書を提出しています。意見書で指摘されたのは、賃金や残業代の未払い、支払ったとしても最低賃金にも満たない金額であった、長時間労働や労災、パワハラ・セクハラなどの問題事例が挙げられています。受入機関となっている雇用主に逆らうと強制帰国させられてしまうといった圧力から、多くの実習生は泣き寝入りしている可能性があり、把握された事例は氷山の一角でしかない可能性が高いと考えられています。
このような問題が山積みの制度を利用して多くの労働者を受け入れることになると、人手不足解消の代償として労働問題が増加したり、労働者に対する賃金の値崩れを起こすといったリスクも抱え込むことになります。
外国人労働力の受け入れについては、東京オリンピックまでの当面の労働力対策ということよりも、少子高齢化によって労働人口(=消費人口)が確実に減少していく我が国の人口問題対策といった将来の国家像まで見越した制度改革が必要です。その意味では、このような外国人技能実習制度による在留期間の延長という小手先の対策よりも、外国人を移民として受け入れる政策も真剣に論議される時期に来ているのではないかと考えています。
弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ
舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)
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