「ポストに現金」投函者への返金義務は?
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奈良県生駒警察署は「拾得物」として投函した人物の割り出しに
奈良県生駒市のマンションで、53戸のうち35戸の玄関ポストや集合ポストから「現金合計77万4195円、商品券とギフト券合計5500円分が見つかった」との届け出があり、奈良県生駒警察署は「拾得物」として保管し、投函した人物の割り出しに乗り出しました。
このニュースに接し、これら現金などが「なぜ拾得物なのか」と、疑問に感じた人も多いと思います。そもそも、他人の家のポストに金品を投げ込むとこと自体が、「その人に金品を与えるつもりで行う行為では?」と考えることもできるからです。少なくとも、自らの意思でポストに放り込んだはずの物が「落し物」や「忘れ物」と同じように扱われることに対し、違和感を覚えるのはむしろ当然かもしれません。
メッセージや受取人が明記されていれば「贈与」の解釈も
他人の家のポストに金品を投げ込む行為は、江戸時代に実在した「伝説の義賊・鼠小僧次郎吉」を思い起こさせます。悪い武家や豪商などから盗み出した金銭を、貧しい庶民に分け与えたという伝説は、歌舞伎や小説・映画・ドラマなどに連綿と受け継がれて現在に至っています。ただし、実際の「鼠小僧次郎吉」が貧しい人々に金銭を分け与えたという「史実」は確認されておらず、あくまで伝説の域を出ませんが。
もちろん、他人の家のポストに投げ込まれた金品について、その人に対する「贈与」(プレゼント)と解釈する余地が無いわけではありません。たとえば何らかのメッセージが添えられ、そこに受取人などが明記されていれば、たとえ送り主が匿名であっても、法律的には「贈与」と解釈することが可能になります。
しかし、今回、ポストに投げ込まれた現金のうち小銭は紙に包まれていましたが、お札などは裸のまま無造作に放り込まれており、メッセージなどもないため、法律上、特定の人に対する「贈与」と考えることは極めて困難です。この点、タイガーマスク(伊達直人)から贈られた「ランドセル」とは、状況がまったく異なるのです。
「遺失物法」において「他人の置き去った物」に該当
ところで、「遺失物法」には、遺失物に準ずる「準遺失物」として「他人の置き去った物」という規定があります。それは、①他人の占有していた物で、②他人の意思に基づくか否かにかかわらず、③奪取によらず他人の占有を離れ、④自分が占有することとなった物、と定義されます。今回のように、マンションのポストに投げ込まれた現金などは、まさにこの「他人の置き去った物」に該当するため、準遺失物として「拾得物」と同様の取扱いがなされるわけです。
遺失物や準遺失物の拾得者は、すみやかに拾得した物件を遺失者に返還し、または警察署長に提出しなければなりません。拾得物の提出を受けた警察署長は所定の「公告」を行いますが、その後3カ月以内にその所有者が判明しないときは、拾得者が拾得物の所有権を取得することになります。
「いやいや、ウチのポストに入っていたんだからウチのもの」などと言い張って、ポストに投げ込まれた現金などを警察署に届けることなくそのまま取り込んでしまうと、「占有離脱物横領罪」(1年以下の懲役または10万円以下の罰金もしくは科料)に問われる可能性もあるので、注意しましょう。
職人かたぎの法律のプロ
藤本尚道さん(「藤本尚道法律事務所」)
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