認知症治療に期待「癒やしロボ」の進化
富山県南砺市、癒やしロボット「パロ」の無料貸し出しを決定
「世界一の癒やしロボット」としてギネスブックにも認定されたアザラシロボット「パロ」。このパロは日本生まれ。発明者の柴田崇徳氏(独立行政法人産業技術総合研究所主任研究員・工学博士)が1993年に初代を発表して以来、現在のパロは第9世代です。富山県南砺市は、パロを新たに5体購入し、地元の福祉施設や高齢者らに無料で貸し出すことを決めました。
デンマークやスウェーデンなど福祉の先進国でも高く評価
パロの発想は、ペットなどを使ったアニマル・セラピーの効果を、ロボットでさらに広めることを意図した「ロボット・セラピー」に由来しています(ちなみにパロとは「パーソナル・ロボット」の略)。つまり、現実の動物だと、アレルギーや感染の恐れといった衛生面の問題や飼育・管理の手間の必要がありますが、ロボットにはその心配がなく、いつでもどこでも利用可能です。特徴は、種々の刺激にきめ細かく反応することです。なでられる行動にはそれが出やすくなるように反応し、また、パロにとって好ましくない刺激があってもそれを受け入れます。このようなパロの許容的な反応が、認知症やうつ病の人にとってストレスの減少、意欲の向上、対人関係の促進につながり、実際、その治療効果は、病院や介護福祉施設での数々の臨床研究で認められています。
急激な高齢化が進行している日本では、それに伴う認知症などの要介護者の増加に対処するために、パロのような人間と質の高いコミニュケーションのできるロボットは、今後ますます必要になるでしょう。また、パロは、日本国内のみならず海外でも大きな注目を集めています(昨年9月現在で約30か国で導入)。特に注目したいのは、デンマーク、スウェーデンといった福祉の先進国ともいえる国で導入が図られていることで、そのことはパロの質が高く評価された結果といえます。開発者の柴田氏によれば、今後の課題は自閉症や認知症向けなど特化の推進とのことです。
進化の裏で「癒やしロボット」が現代社会に投げかける問題も
それでは、この「癒やしロボット」の普及と進化が投げかける問題は何でしょうか。私は結局、「機械と人との境界の問題」であると思います。
現在すでに、コンピューター上で作り上げられたバーチャルな現実で行うカウンセリングが登場し、また、パロに代表される感情までも表す「癒やしロボット」が出現したことは、ある米国の心理学者が言ったように「テクノロジーが心理学の先を行っている」との感を禁じ得ません。この「ロボットと人との関係」の進化は、「絆や愛とは何か」について考えさせるだけでなく、ひいては「人と人との関係とは何か」との根源的な問題を提起しているといえます。「癒やしロボット」は、まさに人間らしさとは何か、を私たちに問いかけています。
心理相談・カウンセリングのスペシャリスト
村田晃さん(うつ心理相談センター東京)