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なぜなくならない?高速バス事故

「高速ツアーバス業態廃止」にもかかわらず再び起きた惨事

なぜなくならない?高速バス事故

北陸自動車道上り線の小矢部サービスエリアで、宮城交通の高速夜行バスが止まっている大型トラック2台に相次いで衝突し、運転手と乗客の男性1人が死亡しました。2012年4月に死者7名を出した関越自動車道のツアーバス事故がきっかけで、「高速ツアーバス」という業態は廃止され、高速バス運行に関する安全対策も強化されています。にもかかわらず、なぜ、このような事故はなくならないのでしょうか。

バスの運転手の事故の原因は過労運転であることが多く、運転手の労働環境の改善がまだまだ進んでいないことが大きな理由の一つです。バスの運行会社が労働基準法を遵守していたとしても、その適用にかなり無理があれば、事故のリスクは高まります。また、バス会社は従業員の健康面などにも細かく配慮しなければなりませんが、完璧というところまで対応できていないというのも事故がなくならない要因でしょう。

労使協定があれば13日連続勤務も可能

過労運転による事故を防止するため、トラックやタクシー、バスの運転者の拘束時間や運転時間の限度などを定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が、平成元年、厚生労働省労働基準局より告示されました。

その中には、労使協定を結んだ場合に拘束時間(休憩を含む)を延ばせるという特例があり、自動車運転者について1週間あたりの拘束時間(4週間平均)は65時間、1日の拘束時間は16時間をそれぞれ限度としています。また、労働基準法では週1回もしくは4週で4日以上の休日取得を義務付けていますが、この特別の基準では、2週間に1回の休日、すなわち13日連続勤務が可能となっており、実際にその基準限度で適用しているバス会社も多く、かねてから問題視されてきました。

「11日連続勤務」は労働基準法違反ではないが「過重労働」に匹敵

今回の事故では、運転手が事故当日まで11日間連続して勤務していたことが注目され、論点の一つとなっています。「11日連続勤務」は労働基準法に違反しているわけではありません。報道によると、このバス会社では時間外労働や休日労働に関する労使協定を36件結んでおり、昨年12月から今年1月にかけ、同社の労使協定で限度としている「13日連続勤務」を、1日の休みを挟んで3回繰り返していたこともわかっています。労使協定の限度内とはいっても、客観的に見てかなり無理がある「過重労働」に匹敵する勤務だったといえるのではないかと思います。

関越道の事故以降、労働時間については大きな見直しがなく、課題となっていたのは事実です。極端なことを言えば、「連続勤務は5日を限度とする」とか「週に1日は必ず休みとする」などの絶対的な規制をかけなければ、事故は防げないでしょう。今回の事故は、そうした議論のさなかに発生し、課題の深刻さを改めて浮き彫りにするとともに、社会に大きな影響を与えました。人の命を預かっているバス運転手等の労働基準のあり方そのものを抜本的に見直すことを、今後、政府も考えていかなければならないのではないでしょうか。

庄司英尚

現場を大事にする社会保険労務士

社会保険労務士

庄司英尚さん(株式会社アイウェーブ(アイウェーブ社労士事務所 併設))

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