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JR北海道、再生への糸口は?

利用者が少ない上に除雪の重労働も。改善に取り組む発想すらない

JR北海道、再生への糸口は?

JR北海道のレール検査記録改ざん問題は、日本中で半ば呆れられて取り上げられているかもしれませんが、北海道で生活する私たちにとっては極めて深刻な問題です。そこで、この問題の原因がどこにあったのか、また、抜け出す糸口が見つかるのかを考えてみました。

JR北海道は、1987年の国鉄民営化の際に、北海道の旅客鉄道事業を承継する会社として誕生しました。広大な北海道全域をカバーする鉄道網は国鉄から引き継いだものの、人口密度から考えてもそのほとんどは不採算路線で毎年300億円に上る営業赤字を計上しているということです。そのために国が支出して経営安定基金を提供し、その運用益で赤字を補填して何とか経営をつないでいるというのが実態です。

北海道の鉄道は、利用者が少ないという問題に加えて、雪による交通障害が毎年複数回発生し、保線職員の仕事も線路の保守管理に加えて除雪という重労働を担わなければならないということもあります。さらに言うと、JR北海道には複数の労働組合があって、設立の当初から今日に至るまで組合同士がいがみ合いを続け、全社を挙げて会社の改善に取り組むという発想すらもてないということもあったようです。

本業以外の成功例がかえって足かせに?

民間企業であれば顧客の信頼を失えば企業の存続はできませんが、公共交通という業務の性質上、代わりは見つかりませんので、会社が潰れるはずがないという甘えも社内になかったとは言えないでしょう。そんな中、JR北海道経営陣は、会社の財務体質の脆弱さを改善するために、旅客事業から複合的な事業を展開する方向に舵を切りました。これは、歴史的な経緯から各都市の中心部に広い土地を保有しているJRが、遊休資産となっていたその土地を有効利用して、魅力的な施設を造って収益を上げようとする戦略で、2003年に札幌駅に開業したJRタワーはその成功例といえます。

しかし、この成功例がJR北海道内の旅客業務に対する意識を低下させたのではないかという気がしています。不動産開発部門が会社の収益を支える反面で、旅客部門はお荷物扱いされるようになったということです。社内での予算の配分も事業効率の高い分野に振り分けられ、収益に直ちに結びつかない保線といった地味な分野の予算が削減され、検査データを改ざんしてでも保線業務を間引かなければならない状況にあったために、組織的なデータ改ざんをせざるを得なかったというのが私の見立てです。

周辺住民の生活の足としての利用だけでは経営が成り立たない

2011年9月に自殺した当時の中島社長の遺書に、「『お客様の安全を最優先にする』ということを常に考える社員になっていただきたい」とあったということですが、社長でさえもどうしようもないほどに、組織の意識が低下していたということなのだと思います。

このように、JR北海道が構造的に抱えている問題は非常に根深いものがあります。赤字体質から脱却して公共交通を維持するためにどうするかといえば、私たち利用者が運賃の値上げを甘受するか、利用者の負担を増やせないというのであれば、国や周辺自治体が資金を拠出して路線を守るかといった選択肢しかないような気もします。

鉄道は、公共交通機関として、利用者の利便を高めるとともに永続的な事業の提供を求められます。事業を永続的に維持するためには収益の安定は必須です。運賃の値上げは簡単には認められないので、企業努力で経営を維持する必要があるのだと思いますが、既存の周辺住民の生活の足としての利用だけでは、経営が成り立つことはきわめて難しいでしょう。

魅力的な豊富な観光資源に人の流れを作ることが必要

そうすると、鉄道沿線に魅力的な施設を作って人為的に利用者の流れを作り出すということを考える必要があるのかもしれません。阪急電鉄の創業者小林一三氏は、鉄道の先に宝塚歌劇団を作って鉄道の利用者を増やしました。本州の大手私鉄は、自社の沿線に人為的に街を作り、乗客を自らの手で呼び寄せて経営を成り立たせています。

北海道には魅力的な観光資源はたくさんありますが、その観光資源に向かう人の流れを人為的に作り出すといった取り組みは十分ではありません。また、既存の鉄道沿線にも開発余力のある土地はいくらでもあります。既存の駅周辺は中途半端に開発されているので、思い切って新駅を作って、その駅周辺に全く新しい街並みの住宅地を創り上げるなど、まだまだ試されていない手法はあるように思います。

利用者の目線で、「こんなことをやったらJRを利用するのに」といったアイディアを積極的に取り入れて、「いつも何か新しいことをやっている」「ちょっと行ってみようか」と思ってもらえるようになれば、そこにJR再生の糸口があるのではないでしょうか。

弁護士と中小企業診断士の視点で経営者と向き合うプロ

舛田雅彦さん(札幌総合法律事務所)

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