落合流コストカット、企業が真似すると危険
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大胆な落合流コストカット、球団経営という視点から見れば合理的
プロ野球・中日ドラゴンズのGMに新しく就任した落合博満氏が主導して行った「落合流コストカット」が注目を浴びています。大胆な落合流コストカットは、とても厳しいもので、年俸88%ダウン(年俸1億9000万円から1億6,000万円ダウンの年俸3,000万円)を提示された井端内野手は、これを拒否して退団しました。さらに、その他にも年俸が大幅ダウンする選手が相次いでいます。
「あまりにもひどすぎる」と選手に対する同情の声も一部上がっていますが、球団経営という視点から考えれば、個人およびチームの成績は年俸に反映されなければなりません。そういう意味では、落合GMのやり方は合理的です。この落合流コストカット、一般企業でも実施できるのでしょうか?
従業員の賃金は、一方的に減額することはできない
今回の落合流コストカットを一般企業に置き換えて考えると、年俸ダウンとは、従業員の賃金の減額になるわけですが、プロ野球選手の年俸ダウン提示とは基本的な考え方が違っています。賃金は、労働契約の重要な要素です。賃金などの労働条件は、労使による対等決定が原則であり、これを一方的に減額することは許されていません。
例えば、企業が経営不振を理由に一方的に従業員の賃金を大幅に減額した事例をみると、判例では企業が敗訴しているものが多いので注意が必要です。企業業績の不振は、従業員の責任ではなく、経営者の責任によるものが大きく、従業員は保護されるという考えに基づきます。よって、合意がある場合は別として、賃金の減額を無理やり実行した場合、その場は乗り切ることができたとしても、その後しばらくしてから従業員から訴えられ、その差額の支払いを求められる可能性も否定できません。
賃金の減額は、使用者と従業員の合意または就業規則の賃金規程の変更をすることが要件となりますが、判例では、「高度の必要性に基づいた合理的内容」でなければならないとしています。この合理性があるかの具体的な判断基準は、労働者の受ける不利益の程度、減額の必要性の程度などがポイントとなります。
賃金の減額はモチベーションダウンの原因に。採用にも影響
特に、合理的ではない賃金の減額を行った場合、対象となった従業員のモチベーションは下がりますし、該当者だけではなく、他の従業員も経営陣に不信感を持つこともあるでしょう。また、部署内やチーム内のコミュニケーションが悪くなり、全体のパフォーマンスがさらに下がることも予測されるので、目先のことだけで安易な賃金減額はするべきではありません。
さらに大事なこととして、新卒採用や中途採用をする際に応募者が敬遠する可能性があるということです。賃金減額をした会社というイメージがあるのはあまり望ましくなく、そのような企業への入社については親や周囲の人も反対することがあります。従業員の家族や取引先などからも「ブラック企業」と呼ばれてしまうこともあり得ないわけではありません。
長期的にみると会社には様々なデメリットが生じる賃金のカット。経営上、どうしても賃金の減額が必要なこともあるかと思いますが、専門家に具体的な相談をしながら対応していくことが無用な労務トラブルを回避するコツといえるでしょう。
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