成年被後見人の選挙権回復について
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成年被後見人の選挙権喪失に関する司法の判断
平成25年3月14日、東京地方裁判所は、選挙権は憲法第15条1項及び3項並びに第44条但し書きで保障されるとした上で、成年被後見人の選挙権を一律に奪う公職選挙法第11条1項1号は、選挙権を奪う「やむを得ない事由」があるという極めて例外的な場合には該当しないと判決しました。これを受けて、5月17日、自民・公明・民主など与野党8党は、一律に選挙権喪失を定めた公職選挙法の規定を削除し、不正投票防止策を盛り込んだ改正案を共同提出しています。
そもそも成年後見制度とは
成年後見人は、精神上の障害により「事理を弁識する能力を欠く常況にある」成年被後見人の財産管理・身上監護面を支援するため、成年被後見人、配偶者、四親等内の親族等からの申立てにより、家庭裁判所が選任します。成年後見人は、成年被後見人に代わって法律行為を代理し、成年被後見人のなした行為につき、取消や追認を行う権限を有します。もっとも、成年被後見人は、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、誰にも取り消されずに行えます。これは、成年後見制度が、意思能力が低下した後でも、社会の一員として、残された能力を活かして(残存能力の活用)、成年被後見人が決定することを尊重し(自己決定の尊重)、誰でもが、家庭や地域で通常の生活ができるような社会を目指す「ノーマライゼーション」という理念に由来したものだからです。
成年被後見人の選挙権回復を機に、どんな人でも選挙権を行使できる環境作りを
同じ様に事理を弁識する能力を欠く常況にある人であっても、成年後見制度を利用していなければ選挙権は認められ、利用していると認められないのは不合理です。また、成年後見制度を利用しようと考えたとき、後見人、保佐人の何れの選任を求めるかを判断する拠り所は、医師の診断書です。ところが、裁判所が定める診断書の書式には、医学的所見の他には、「自己の財産を管理処分する能力」に関する医師の意見が求められていますが、「選挙権行使の可能性」を尋ねる項目はありません。ちなみに、保佐の場合は、選挙権は失われません。
同じく成年後見人を利用している人であっても、全く意思疎通のできない人もいれば、十分にコミュニケーションが取れる人もいらっしゃいます。財産管理は難しくても、「選挙に行きませんか?」と声をかければ、自分の考えで投票できる人もいて、その実像は一様ではありません。ようやく、成年被後見人の選挙権を回復することとなる見込みですが、憲法の保障する、国民の基本的な権利である選挙権と、成年後見制度の理念、双方から、それだけに満足するのではなく、これを機に、選挙に行けない人や、自宅に暮らしていて人手が足りずに出かけられない人が選挙権を行使できるよう、実質的に保障する制度の構築と運用を期待します。
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